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<働く現場から> 電気代、経営大きく左右 

 鉄くずが電気炉で溶かされ、溶岩を思わせるオレンジや黄色の「溶湯(ようとう)」に変わった。ゴーグルや防じんマスクを身に着けた作業員は、ボタン操作でバケツ状の「トリベ」と言われる器を動かし、溶湯を自動車部品の鋳型に流し込む。

 愛知県西尾市にある鋳物メーカー、中日本鋳工の本社工場。大量の電気を使う電気炉が一五〇〇度を超える熱を生み、鉄くずを溶かす。ごく日常の業務だ。取締役総務部長の早川潔さん(57)は「電気代は経営上の大問題。エネルギー政策への関心は高い」と話す。

 特殊鋼や鋳物など電気炉を扱う企業は、他業界と比べ電気の使用量が極めて多い。日本鉄鋼連盟(東京)は、民主党政権が掲げた原発ゼロの方針に対し「電気料金は最大で約二倍となり、事業存続は全く不可能」とのコメントを出している。

 自動車向け鋼材をつくるトヨタ自動車グループの愛知製鋼(愛知県東海市)は本年度、本業のもうけを八十五億円と見込むが、電気料金が一キロワット時当たり一円上がれば、利益が十億円目減りする構造だ。藤岡高広社長(58)は「電気代だけで、利益のすべてが吹き飛びかねない」と将来への危機感を隠さない。

 今、電気炉を扱う東海市の知多工場では、排出ガスや排水などの温度分布の詳細な調査を続けている。捨てるだけだった廃熱を効率的に回収して再利用すれば、少しでも電気代を節約できるからだ。

 「ウチとしてやれることは全部やる」という覚悟があるからこそ、各党が唱えるエネルギー政策の大ざっぱさが気にかかる。「原発をやめるか、続けるかという議論ばかり。中身がなさすぎる」

 再生可能エネルギーを使った発電のコストや電気の供給力をにらんだとき、原発をどこまで活用すべきなのか。原発の廃炉と稼働を分ける安全基準のあり方とは何か。各党の訴えからは知りたいことが聞こえてこない。

 国家を挙げた支援策で鉄などの基幹産業を守る韓国や中国と比べ、日本で事業を続けることのハンディを感じる日々。藤岡社長は「安くて安全なエネルギーとは何か、突き詰めてほしい」と願う。

 今まさに、電気代高騰の直撃を受けそうな鋳物メーカーもある。二〇〇八年、熊本県大津町の熊本工場に生産を集約した武山鋳造(名古屋市)だ。九州電力は十一月、管内で14%を超える大口向け電気料金の値上げを申請した。

 熊本工場では、今夏から電力需要のピーク時に操業しないシフトに変更。来年早々に木曜休み、日曜出勤に踏み切るが、武山光治社長(52)は自助努力の限界も感じている。「安全や安心を考えれば、原発ゼロが良いことは分かっている。そんなことは分かっているんだ」。続く言葉はのみ込んだ。

 (渥美龍太)