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<解きたい選挙>(上) 作家・赤坂真理さん

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 日本は戦争であれだけ大敗して、ものすごくたくさんの人が亡くなったのに、何のためにあの人たちが死んだのかについて語ることを放棄し、敗戦を忘れたようにふるまって、死に物狂いで経済繁栄を求めてきました。

 戦後、すごく受けた首相というのは、目くらましのようなスローガンを出す人。所得倍増とか列島改造とか。その人たちを支持する民意の背景には、敗戦を忘れたいという強烈な動機づけがあったと思う。

 戦後六十年ぐらい、日本は繁栄してきたように見えるけど、それは、他のアジア諸国と違って米国に優遇されたからこそ。決して日本人だけが優れていたわけじゃない。それを独り立ちしたように思い込んだのも、負けたことを忘れようとして、ごまかしてきたのだと思います。

 その幻想のもと、高度成長型の社会が未来永劫(えいごう)続くような前提で進学や就職のシステムをがっちりとつくってしまった。下の世代は、それに適応するよう死に物狂いで育てられるわけです。出たいんだけど、それに慣らされてしまっている。

 私は戦争を経験した親に育てられた最後に近い世代です。理由も分からず今の生きづらい社会で暮らしている敗戦を知らない世代と、戦争を経験した世代との連続性を持たせたいと思った。それが(東京裁判や戦後処理について女子高生が追体験する小説)「東京プリズン」を書いた理由です。

 今の局面は、政策をどうするかというより、日本人がこの先存続するかが懸かっていると思っています。飛びつきやすいキャッチフレーズ、キャッチーに見えることほど、時間をかけて考えるべきです。

 例えば「日本国憲法が米国からの押しつけだから廃棄すべきだ」というような意見はもっともだともいえるが、いっぺんにやるのは、また大きなゆがみを生む。歴史と人心に一種の空白ができて、そこに思いもかけない悪がまかり通ってしまうのではないか。

 私たちに求められているのは、短いスパンでものごとをとらえるのではなく、百年先、千年先にこの国が存続していけるかという視点。原発事故が起きている今がすでに「目先のことに飛び付いてきた結果」です。まずは脱原発ということを考えるべきだと思っています。

 一回の投票でどうなるものではないかもしれない。意中の候補が落選し、当選しても公約を変えてしまうかもしれない。それでも、簡単には退かない覚悟、言い続けることが大切です。

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 現行の小選挙区比例代表並立制では最多の千五百四人が立候補した衆院選。さまざまな座標軸の中から、私たちは何を選択のよりどころとすればいいのか。識者と考えます。

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 あかさか・まり 1964年、東京都生まれ。慶大卒。雑誌の編集者などを経て95年に「起爆者」で小説家デビュー。「東京プリズン」は、米国留学した16歳の少女が、学校の授業で「天皇の戦争責任」についてディベートした場面を軸に、戦争と戦後処理が日本人に何をもたらしたのかを描いた。今年11月に毎日出版文化賞。5日、司馬遼太郎賞受賞が決まった。ほかに「ヴァイブレータ」など。