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紙面記事

<取材ノート>時には怒れ

 何とも気の毒に感じた。開催国ブラジルがドイツに1−7で大敗した準決勝。スタンドの地元サポーターによるブーイングが特定の選手に集中した。それも相手ではなく、ブラジルの攻撃選手、フレジとフッキだった。ボールを持つたびに響く指笛と罵声。2人は開幕戦から精彩を欠いており、無得点のフッキにいたっては、試合前の選手紹介からブーイングを浴びていた。

 2人は準決勝もミスを重ね、途中でピッチを退いた。選手が重圧に身を縮め、負けてしまえばサポーターにとって良くないはず。それでもブーイングを通し、監督の起用法や選手のプレーに改善を求める。その厳しさがW杯優勝5度のサッカー王国を築き上げたのだろう。

 日本ではどうだろうか。国内の代表戦は勝っても負けても、観客が試合後にピッチに手を振り、お気に入りの選手の名前を叫ぶ。一部からブーイングが起きることもあるが、大多数の声援にかき消されてしまう。日本代表のDF吉田(サウサンプトン)はかつて負けた試合で「アイドルのコンサートじゃないんだから」と戸惑いを語った。

 近年、広告代理店やマネジメント会社が「ドル箱」の日本代表選手をイベントやテレビなどで派手に露出させるおかげで、人気は女性や子どもにまで深く浸透している。盛り上がるのは結構だが、W杯で1勝もできずに帰国した選手たちが空港でサポーターに笑顔で迎えられていては、サッカー協会と選手はそれに甘えてしまう。

 ブラジルではドイツ戦後、地元紙が「屈辱の恥の中の恥」と報じ、数日たった今も、国民からは協会と選手への憎悪が漂う。

 怒りが消えるまであと何年かかるのだろうか。しかし、この感情が将来のW杯につながっていくことは間違いない。

  (原田遼)