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オリンピック 特集・連載

<黒海の風> 場内が見守った瞬間

 フィギュアスケート会場の記者席には、各所に小型のテレビモニターが設置されている。

 一流選手の演技を生で見られる特等席だが、選手が死角に入った時や時々の順位などを確認するには便利だ。各国の記者の中には、もっぱら画面だけを見つめて自身のパソコンをたたく、若干もったいない姿もある。

 実はこの画面、一般の観客も見られる氷上の大型スクリーンに比べ、2、3秒だが演技後の得点が表示されるタイミングが早い。つまり、高得点や意外な採点に対する「おぉー」「えー?」という反応は、わずかに記者席の方が先になるのだ。

 だが、女子フリー演技の日、少なくとも一つの例外があった。浅田真央の得点が出た時だ。

 記者席から一足早い感嘆の声は上がらなかった。みなが目の前で起こったドラマに目を奪われ、彼女の涙と笑顔を生で見つめながら、得点を待っていたからだ。

 場内が一体となる瞬間とは、こんなことを言うのだろう。誰にも見向きされなかったテレビ画面にも、ひょっとしたら表示されていたのかもしれない。「最高の演技だった」と。

(杉藤貴浩)