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パラリンピック 紙面記事

母と祖国は強し ウクライナ選手、抗議の金表彰

金メダルを手で覆って国歌を歌うアレクサンドラ・コノノワ選手=ソチで(斎藤雄介撮影)

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 十六日夜(日本時間十七日未明)に閉幕したソチ・パラリンピック。ウクライナの選手たちは、軍事的圧力を強める開催国ロシアに抗議の姿勢を示し、会場を去った。優勝した一人の女子選手も、母として勝ち取った金メダルを誇りながら、苦境にある祖国を思い、表彰台で笑顔を見せることはなかった。

 「ああ、アドリアーナ」

 大会終盤の十四日。ウクライナ代表のアレクサンドラ・コノノワ選手(23)はバイアスロン女子12・5キロを制した直後、満面の笑みとともに声を上げた。娘に会える。金メダルを見せてあげられる。

 十九歳で初出場した前回バンクーバー大会、距離とバイアスロンの計三種目で優勝し世界を驚かせた。翌年、同じウクライナ代表のグリゴリー・ボフチンスキー選手(25)と結婚した。その年に生まれたのが、長女のアドリアーナちゃん(2つ)だ。

 「この一年は、アドリアーナに五十六回しか会えていない」

 再び世界の頂点に立つため、子育ての大半を妹に任せざるを得なかった。コノノワ選手は赤ちゃんの時にかかった骨髄炎の影響で、右腕が左腕より短い。両親は育児を放棄し、祖母に育てられた。だから「母」というものに特別な思いがある。娘と会った回数を数えるほどに。

 ウクライナは、コノノワ選手が生まれた一九九一年、ソ連から独立した。自分と同い年の祖国。海外の遠征先から、インターネットのテレビ電話で娘と笑顔を交わすだけの日々に耐えてきたのは、国を背負って競技することの重みを感じているからだ。

 開幕直前までボイコットの可能性があり、難しい調整を強いられた。前半に出場した競技では苦戦が続いたが、ついにロシア勢を抑え、二大会連続の金メダルを手にした。「越えられない壁はない」

 翌十五日夕の表彰式。コノノワ選手の顔に笑顔はなかった。国の状況をどう思うかと尋ねるメディアに「ウクライナ人は強い。負けない」と答え、こう続けた。「メダルは祖国に捧(ささ)げます」

 会場に知人の顔を見つけ、ゆるみそうになる口元を引き締める。表彰台の真ん中では、金メダルを右手で覆った。上っていく国旗を見上げ、国歌を歌い終わると、大きく息を二度吐いた。

(ソチ・斎藤雄介)