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popress【Work & Life】働き方や生き方を考える
 

行政開けば 社会変わる

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 「オープンデータ」。まだ聞き慣れないかもしれないが、社会や経済を大きく変えるキーワードだ。政府や自治体が持つ情報を使いやすい形で公開し、民間に広く利用してもらうことで、便利な行政サービスや新たなビジネスを生み出す動き。暮らしはどう変わるのか。先進的な試みを始めた石川県内の団体や識者の声から探った。(担当・押川恵理子)

ネットに情報→地域の課題解決

 「燃やす」「資源」「燃やさない」「びん」と、4種類のごみと次の収集日がスマートフォンの画面に色別で表示される。うっかり出し忘れを防げそう。

 住む地区を入力すると収集日が一覧できるアプリ「5374ゴミナシ.JP」は、金沢市がホームページに掲載している情報を基に、金沢市の市民団体「Code for Kanazawa」(コード フォー カナザワ)がつくった。身近なオープンデータの例だ。

 地域の課題解決にIT(情報技術)やデザインの力を生かそうと、石川県内に住むIT企業の代表やプログラマー、デザイナーら9人が今年5月に設立。

 代表の福島健一郎さん(42)によると、民間団体がオープンデータでアプリを開発、運用まで行うのは全国でも珍しい。9月9日にアプリの提供を始めると「応用したい」などと全国から反響があった。

 アプリは設計情報も公開し、各地での開発に役立ててもらう。収集日の通知や、捨てたい物の分別方法を検索する機能を付け加えて改良版も出す予定。

ITを社会の課題解決に生かすCode for Kanazawaのメンバー。後列左から3人目が代表の福島さん=金沢市で

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 地域や行政の課題をITの力で解決する仕組みは米国の「Code for America」にならった。米国版は行政への参画が進み、民間の技術者を自治体が1年間雇い、ウェブサービスの開発を任せる。

 オープンデータは、公開される情報量とそれを活用する技術力の両輪で進む。国際的な財団の評価では米国が現在1位。メキシコ、シンガポール、英国と続き、日本は19位と後れを取る。先の主要国首脳会議(ロック・アーン・サミット)では「原則公表」を掲げたオープンデータ憲章に各国が合意した。

 日本の公的機関も情報は公開しているが、オープンデータとして、利用を制限せず、ウェブサービスに使いやすい形式での提供は始まったばかり。

 自治体では、30種類の情報を提供する福井県鯖江市や、市税の使途を調べられるサイトを国内で広めた横浜市が先行。政府は昨年に電子行政オープンデータ戦略を発表し、ようやく本格的に動きだした。各省庁は公開できる情報をリスト化。気象関連や地盤、地図情報は既に提供され、活用が期待される。

 「子どもたちの安全・安心を守るサービスをつくりたい」。福島さんはオープンデータの進展を願う。通学区域に限らず広範囲で不審者情報を共有できれば、防犯効果は高まる。街灯の設置箇所や状態の情報を地図のアプリに落とし込めば、夜道の明るさや危険性が一目で分かる。

 より良い暮らしへ、各国が競って進めるオープンデータ。私たちの身近な場で「革命」が始まっている。

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中村伊知哉・慶大教授に聞く

普及への課題と展望

 「行政自体がオープンになることが最大の狙い」と意義を説く、オープンデータ流通推進コンソーシアムの理事、中村伊知哉慶応大大学院教授に課題や展望を聞いた。

       ◇  ◇   

市民主導の行革狙い

 現在の行政は市民から離れ、良くも悪くも評価を受けにくいのが問題点。オープンデータによって市民が行政に参画し、改良しようとの動きにつながる。

 課題となるのが、著作権。創作物や各省庁の白書、調査研究報告書などを2次利用する場合は許諾が必要で、手続きに手間がかかると、民間は活用をためらい、ビジネスにつながらない。コンソーシアムは政府に著作権の放棄を求めている。

 一方で国有財産法や個人情報保護法などに照らし合わせ、保護が必要な情報を整理することも欠かせない。公開の基準や形式の整備を早急に進めたい。

 個人情報、プライバシーの扱いは最も難しい。国民に番号を割り当てる共通番号制度をめぐっても各国の対応は分かれた。米国は社会保障番号があり、北欧は個人の年収すら公表。ドイツは個人情報を政府が持つことに国民の恐怖感が強く、かなり守られている。どこまで公表し、共有できるか。国民を交えた十分な議論が必要。

 オープンデータで、教育なら個人の学習状況に合わせた教材の開発が進み、医療は病気の類型化やオーダーメード治療につながる。現状で、国内総生産のIT投資比率は米英韓の5%に対し、日本は3%と低く、経営者レベルの認識が追いついていない。コンソーシアムはオープンデータの意義を広め、3年以内に世界一を目指す。

 なかむら・いちや 京都大経済学部卒、慶応大で博士号(政策・メディア)取得。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省(現・総務省)に入り、通信やインターネット政策を担当。省庁再編に携わって退官。渡米し、マサチューセッツ工科大メディアラボ客員教授やスタンフォード日本センター研究所長などを歴任。内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会会長や文化審議会著作権分科会専門委員などを務める。

 ※次回は10月2日付Attention! 廃品から芸術を生み出す「ジャンク・アート」の巨匠で、生誕100年を迎えた北陸ゆかりの故小野忠弘さんを特集します。

 

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