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popress【Work & Life】働き方や生き方を考える
 

将来へ生かす 人生の寄り道 英国発祥のギャップイヤー

観光施設を造り替えたまちおこしの拠点施設を背にする小川さん

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 若者が大学入学前の一定期間を旅やボランティアなどの時間に充てる、英国発祥の制度「ギャップイヤー」。日本では同様の機会はないが、休学するなどして時間をつくり、さまざまな経験を積む学生が増えているという。日常生活では得がたい体験や出会いを通して自分自身を見つめ直し、「将来の夢や進路が明確になった」と話す若者も多い半面、人生の「空白期間」に不安はないのだろうか。経験者に実情を聞いた。(担当・角雄記)

地方活性化へ汗

 若者が都市部に流出し、シャッターが閉まったままの商店も目立つ千葉県富津市。立教大経営学部5年の小川諒さん(22)=新潟市西区出身=は大学を1年間休み、富津市金谷地区で地域の活性化に取り組むNPO法人「KANAYA」の活動に加わった。

 就職活動を見据え、大学3年だった2011年6月から8カ月間、都内のITベンチャー企業でインターン(就業体験)。営業の仕事は自分に合っていたし、会社も居心地が良かったが、ふと「5年、10年たっても同じ仕事をしている自分が見える気がした」。

 そんな未来に違和感を覚えて、以前、東北とバリ島で震災に遭った子どもたちの絵画展運営に携わって縁があった金谷へ。食事と住居を提供してもらう代わりに無償で働くことをNPOに申し出た。

 営業していなかった観光施設をまちおこしの拠点に造り替える仕事を担い、白いペンキを塗ったり、床をはがして改築したり。空いた時間には海で泳いだり、山に登ったりして気ままに過ごした。

経験と視点得る

 ツリーハウスを造る大工やキャンドルアーティストら、年齢も仕事もさまざまな大人にも出会い、「会社勤めではない生き方に接し、いろんな人生を考えさせられた」。

 地方で利益を循環させる仕事の重要性を感じ、大学卒業後は有機農業をヨーロッパで学ぼうと考えている。「これからはグローバルよりローカルが重視される。地方で過ごした経験や視点を大切にしていきたい」と話す。

ケニアで滞在先の家族や他国からの若者と交流する角野さん(前列左から2人目)

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休学し世界回る

 福井大教育地域科学部4年の角野友美さん(23)と、西出美穂さん(22)の2人は、国際ボランティアNGO(非政府組織)「NICE(ナイス)」のプログラムで世界を回る旅に出た。

 2週間程度の短期ボランティア活動と、2〜6カ月の活動を組み合わせ、空いた期間は移動や旅行に充てる仕組み。1年間休学して角野さんはベトナム、エジプトなど16カ国、西出さんはカンボジア、アイスランドなど11カ国を巡った。強く印象に残った訪問先は2人ともインドとケニア。

 角野さんは貧民街の子どもを集めたインドの学校で、英語など5教科を教えた。「そもそも親が教育を受けておらず、子どもに教育を受けさせるメリットを分かってもらうのに苦労した」と振り返る。ケニアではパソコンの使い方を現地の人に教えた。

 漠然と学校の先生を志望していたが、「世界を巡る中で見聞きした経験を子どもたちに伝えたい」と、先生を目指す思いを強くした。

インドで女の子と触れ合う西出さん

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夢がより明確に

 西出さんはインドでストリートチルドレンの世話を体験。最初は、抱いた子どもに小便をかけられるなどして汚れることに抵抗感があったが、「本当に距離を縮めるには一緒に汚れることが必要と分かった」。髪を洗ってあげ、一緒に遊ぶ中で楽しそうな表情を時折見せてくれたのがうれしかった。「途上国の支援に関わりたい夢がより明確になった」と力を込める。

 2人ともかかった費用は100万円で、バイト代や親の支援でまかなったが、金銭には替え難い経験が得られたと実感。

 「迷っている人は行動に移さないともったいない。まず一歩を踏み出して」と話している。

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「費用が壁」「懐の深い社会必要」

ギャップイヤードットジェイピー発行 石渡章義さん 

 英国の「ギャップイヤー」を参考に、休学などの機会を利用してさまざまな活動に取り組む学生らのインタビューを集めたウェブマガジン「ギャップイヤードットジェイピー」を発行している石渡(いしわた)章義さん(44)は「ギャップイヤーの言葉の認知度は高まってきたが、一歩踏み出す学生はまだまだ少数」と話す。

 自身も学生だった22歳の時に休学し、米国を旅したり、国内で起業したりした。「当時の米国は湾岸戦争の最中で、出征した兵士のいることを示す黄色いリボンを飾る家をたくさん見た。戦争の空気を肌で感じた」と振り返り、「多様な価値観に触れることは、若者にとって必ずメリットになる」と強調する。

 休学や留年で履歴書に「空白期間」が生じることを懸念する声もあるが、経験者から「就職活動に支障を来すとは聞かない」という。「むしろ親の反対や心配、休学中でも数万〜数十万円かかる学費などが大きな壁になっている」と指摘する。

 最近は大学がギャップイヤーをカリキュラムに取り入れたり、休学中の学費を減額したりする動きもある。石渡さんは「若者の寄り道を認める社会の懐の深さが必要だ」と訴えている。

 ギャップイヤー  人生の「すき間の年」の意味がある英国発祥の制度。若者が高校から大学へ進学するまでの一定期間、社会的見聞を広める活動をする。日本でも国際教養大(秋田市)や名古屋商科大(愛知県日進市)が海外経験を取り入れるなどしたカリキュラムを「ギャップイヤー」の名称で導入している。東京大などで秋入学への移行が検討された際、高校卒業から大学入学までの空いた期間の過ごし方として注目された。

 ※次回は17日付Love&Sex。性産業で働く女性が増えている背景を考えます。

 

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