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popress【Spot & Place】北陸を中心に面白いスポットを発掘
 

のれんに誘われて 輪島塗 ぶらり入門

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 朝市や美しい千枚田で知られる石川県輪島市で今冬、朱色ののれんがにぎやかにはためく。「塗って、研いで、また塗って」「ジャパンワジマ」などと書かれていて、くぐれば輪島塗の世界が広がる。100以上の工程を重ねる漆器は工房ごとに味わいがあり、職人の個性も豊か。まちを歩き、さまざまな漆の物語に耳を傾けた。

日常生活で漆器のいろんな使い方を提案する大工さん。ギャラリーにはさまざまな器が並ぶ

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 木地、塗り、沈金、蒔絵(まきえ)…、多くの職人の手を渡って作られる輪島塗。関連の仕事場は500軒を上回る。工房巡りを街中の観光に生かそうと輪島漆器商工業協同組合が企画し、11月中旬から56軒がのれんを目印に掲げる。

 表通りから1本入った路地に趣のある古い家屋が立つ。160年続く老舗、蔦屋漆器店のギャラリー蔦屋はシックな空間に黒や朱色の器が映える。

 店主の大工佳子さん(52)が温かい紅茶を入れた漆器を差し出し「触れると気持ち良い温度でしょ」。木地のため熱が伝わりにくく、冷たいものを入れても結露が出にくい。料理好きの大工さんは「炒め物やサラダを盛り付けても合う」と気軽な使い方を提案。漆は塗り直し、何代も受け継がれる。「物を大切に使うことが、人をいたわる心につながる」と信じる。

塩安漆器工房の商品が並ぶギャラリー。輪島塗のバングルやペンダントも

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 こうした漆器の企画から販売までを担う「塗師(ぬし)屋」は分業の輪島塗を束ねるプロデューサー。一年の大半は行商に出掛け、各地の文化を地元に伝える役割も果たしてきた。

 塩安漆器工房も創業1858(安政5)年の塗師屋。漆の指輪やバングルなど現代的な商品が並ぶアンテナショップ藹庵(あいあん)では「話しが好き」と書かれたのれんが風にたなびく。

 輪島塗は塗師屋と客のコミュニケーションで作り上げてきたが、最近は既製品の販売が中心。店主の塩安愛子さん(61)は「漆のぬくもりを手に取って感じ、じっくり話せる場に」と願う。

 0.07ミリと薄い漆の層に、のみで文様を彫り、金箔(きんぱく)を載せる。漆夢工房「清里」代表の水尻清甫(せいほ)さん(59)は沈金の道40年。「最初の1年で点、次の年に線、そして面。点と線、面の組み合わせで文様を描く。一人前になるには4、5年。下手すりゃ10年」と話す。

沈金、蒔絵の世界に夢を追い続ける水尻さん夫婦。夫の清甫さんは「分業だから仕事が繊細、丁寧。漆はプロの集団です」と話す

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 「時代の速さに手仕事が追いつかない」。若者が地道な修業を避ける傾向を懸念する。「機能だけなら百円ショップの器でいいかもしれないけど、先人が残してくれた漆の文化を伝えたい」。妻の里見さんも蒔絵の職人。「漆は深い。のみと筆から生まれる世界に夢を見ている」と声をそろえた。

 木と漆の仕事を200年以上続ける家に生まれた桐本泰一(たいいち)さん(51)はデザインの概念を輪島塗に取り入れた。目指すのは暮らしをより快適にし、便利でほっとする瞬間をつくる商品。筑波大でプロダクトデザイン、企業でオフィス設計を学び、地元で木地づくりを4年半修業。職人とデザインの業界を“翻訳”してつなぐ。

現代の生活に合った木と漆の魅力を追い求める桐本さん。輪島キリモトは漆の下地塗りも担う

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 フォークやスプーンを使っても傷のつきにくい塗装を開発。漆器はパリのカフェで使われ、漆の家具や建築内装材は外資系ホテルなどで存在感を放つ。「『半歩先』を目指してきた。輪島から世界と向き合える。伝統工芸も刺激的」と胸を張る。

 1日で巡れたのは4軒だが、伝統の世界が少し身近になった。

作業中は気遣いを

ばくのつぶやき

 「輪島のれんばなし」と名付けられた工房巡り。書かれたメッセージに人柄がにじみ、親近感が湧いた。「気軽に見に来て」と声を掛けられ、海鮮やイタリアンのおいしい店も教えてもらい、すっかり輪島ファンに。職人さんは納期に追われて作業中だと、じっくり話せない場合もあるそう。工房を巡る際は気遣いをお忘れなく。

 輪島塗 繊細な部分を布で補強する「布着せ」や、漆に珪藻(けいそう)土を混ぜた「地の粉」を使う独特の技法により、頑丈で漆がはげにくい仕上がりが最大の特徴。プラスチック製品の大量生産や経済情勢などを受け、生産額、事業所数とも減少傾向にある。

 漆器はカルパッチョや酢の物など油性、酸性の料理も盛り付けられる。手入れは中性洗剤を付けたスポンジで洗い、お湯でゆすぐ。電子レンジや食洗機、乾燥機は使えない。

 担当・押川恵理子 ※次回は25日付Work&Life。政府や自治体の情報を読み解き、問題を提起するデータジャーナリズムを特集します。

 

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