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popress【Spot & Place】北陸を中心に面白いスポットを発掘
 

金沢にひっそり生息 変てこトマソンを探せ

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 路地裏をぶらり歩く。空を飛ぶ鳥や野良猫の気分で見渡せば、あれ、あんな高い所にドア。こっちには上っても下りるしかない階段…。用途が分からなくて気になる奇妙な物件は「トマソン」と呼ばれて1980年代にブームとなった。古い不動産に多く、再開発とともに消える運命。北陸新幹線の開業に向けて変わりゆく金沢市でひっそり生き抜くトマソンを探した。

白い壁に隣家の「残像」

 古い建物がひしめく市中心部の尾張町。築40年近いビルの白い壁面に、残像が映し出されている。今は取り壊されて跡形もない民家の姿だ。

 解体された建物の痕跡が隣接するビルに焼きついたように残ったもので、トマソンの定義では「原爆タイプ」に分類される。呼称には複雑な思いもあるが、ここで、かつて営まれていた暮らしを想像し、哀愁にふける。

隣接していた住宅の跡が残るビルの壁面=金沢市尾張町で

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 このトマソンを発見した金沢R不動産(新竪町)のマネージャー、奥隆生さん(36)は「思わず、食べようと持っていたおにぎりを握りつぶしてしまった」と驚きを語る。

 数年前、尾張町で料理店の内覧会があり、休憩中に昼食を取ろうと近くの公園を訪れた。周りをふと見渡し、異様な壁面にくぎ付けに。

数歩で行き止まる階段

 古い建築物件を多く扱う仕事柄、まちをよく歩いている奥さんに教えられ、次は大手町に向かった。春のドウダンツツジや秋のモミジが有名な寺島蔵人(くらんど)邸跡の前を過ぎ、左に曲がると、大きな古民家を移築した診療所「額内科クリニック」が見えてきた。

ただ上がり下りるしかない階段。オレンジの色合いが愛らしい=金沢市大手町で

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 その駐車場にあるコンクリート製の塀に、階段がちょこんと付いている。数段上ると行き止まりで、引き返すしかない。純粋に上り下りする機能だけのため、「無用階段」と呼ばれるタイプ。

 クリニックの関係者によると、10年以上前に取り壊されたビルの階段だけが残ったそう。オレンジ色に塗られた“オブジェ”は色も形も愛らしい。

 少し足を延ばし、新竪町へ。古道具や乾物を扱う昔ながらの店と、若者らでにぎわうおしゃれな雑貨店や洋服店などが肩を並べる。

かつては使われていたはずのドア。今は開けると…=金沢市新竪町で

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コントみたい高所ドア

 商店街の入り口から路地裏に入ってすぐの民家に、目が留まった。高い位置にドアが付いているが、室内から勢いよく開いた先には、無の空間が広がる。もれなく地面に真っ逆さまの「高所ドア」タイプだ。

 かつては物見やぐらにでも続く扉だったのだろうか。「どこでもドアだったらいいのになあ」なんて、妄想をたくましくした。

 何の役割も果たしていなく見えるトマソンだが、金沢R不動産の奥さんは「昔と今が重なる中にポコッと存在し、独特の風景をつくっている。まちの愛嬌(あいきょう)」と話す。

 急ぎ足の日々では気づきにくい、まちの愉快な表情。もっと見たくなった。

V字で1世紀 老木守る板塀

 創業1830年の老舗料亭「大友楼」(尾山町)の板塀も石川県内のトマソン好きには有名という。塀の一部がV字に切り込まれた間から、老木がにょっきり出て枝や葉を茂らせている。

老いたアンズの木を守る老舗料亭の板塀=金沢市尾山町で

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 樹齢120〜130年というアンズの木。年々、元気がなくなって前方に傾いてきた。傾きに合わせ、塀のV字も少しずつ深く。「100年前ぐらいから、あの状態らしい」と教えてくれたのは、木を守り継いでいる7代目主人の大友佐俊(さとし)さん(65)。

 大友さんの祖父は小説「杏っ子」を書いた金沢の文豪、室生犀星(1889〜1962年)と親交が深かった。このアンズを犀星もよく眺めていたかもしれない。

 桜に似た美しい花を咲かせ、6月頃には黄色い実がバケツ1杯ほど実る木は、今も現役の料亭のシンボル。

 断じて無用の長物ではないが、植物を思いやる人情の深さに感銘し、「金沢トマソン」に勝手ながら認定させていただきたい。

 トマソン 不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物。1972年、東京都内で路上観察に励んでいた前衛芸術家・作家の赤瀬川原平さんらが、純粋に上って下りるしかできない「無用階段」を発見した。芸術を超える物として「超芸術」と名付けたが、呼び方が理屈っぽく重々しいからと「トマソン」に改名。米・大リーグから巨人軍の4番打者に迎えられたものの、期待ほど振るわなかったゲーリー・トマソン選手にちなむ。

 トマソンのタイプは、建物の入り口や窓がふさがれている「無用門」「無用窓」、雨露から守るべき窓などが撤去されたのに、ひさしだけが残っている「ヒサシ」などもある。

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独特の表情に乾杯

ばくのつぶやき

 都市の駅前は「まちの顔」っていわれるけど、各地で似たようなチェーン店が並ぶ様子を見ると、のっぺらぼうな印象がして、ちょっと寂しくなる。トマソンがたたずむ路地裏や古い通りは独特の表情や、においを感じて好きだな。金沢なら片町の中央味食街や木倉町の「焼き鳥横丁」とか。トマソンを探した後に一杯ひっかけたら最高。

 担当・押川恵理子 ※次回は24日付Work&Life。複数の仕事で生計を立てる「三足のわらじ的生き方」を特集します。

 

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