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popress【Spot & Place】北陸を中心に面白いスポットを発掘
 

金沢はレトロ銭湯王国

伝統的な唐破風の屋根が印象的な桜泉湯=金沢市泉野町で

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 厳しい寒さが続く今日このごろ、思わず恋しくなるのが銭湯の広々としたお風呂。単に体が温まるだけでなく、どこか昔懐かしい空間は心癒やされる雰囲気に満ちている。風呂好きが多いという金沢市内の銭湯を巡り、レトロな魅力にゆっくりと浸ってみた。(担当・佐藤航)

「お風呂好き日本一」の底力

そこはヨーロッパ

旭新温泉の男湯のタイル画=金沢市昌永町で

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 男湯の脱衣所から引き戸を開けて浴場に入ると、アルプスの白い山々と湖が目に飛び込んできた。湖畔には青々とした森と赤い三角屋根の家。「旭新(あさひしん)温泉」(昌永町)の自慢というタイル画は、銭湯らしからぬ欧風な景色で出迎えてくれた。

 銭湯の壁画といえば富士山が定番だが、どうしてアルプスなのか。3代目主人の妻、藤田幸子さん(53)は「1980(昭和55)年に銭湯を建て直した時、洋風の建物に合わせたんだと思います」と説明する。営業前の女風呂を見せてもらうと、同じような構図のタイル画が存在感を放っていた。

 大きさはどちらも幅5.3メートル、縦2.7メートルと大迫力。1センチ角のタイルを敷きつめたモザイク画で、湖のさざ波や木々の葉を描いている。藤田さんは「目が細かいから掃除が大変だけど、30年たった今も欠け一つないんです」と胸を張った。

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 総務省の2010年家計調査によると、1世帯あたりの「温泉・銭湯入浴料」が全国の都道府県庁所在地でトップ(5421円)という金沢市。市民がそれほど風呂好きなら、魅力的な銭湯も多いに違いない。案の定、続いて訪れた「桜泉湯(おうせんゆ)」(泉野町)も味わい深い銭湯だった。

 今でこそ住宅地の真ん中にある銭湯だが、かつて周囲は一面の水田だったため、古い常連から「田んぼの湯」ともいわれているとか。戦前からあるという建物は、年季の入った銭湯に見られる唐破風(からはふ)の屋根。裏手に回ると古めかしいレンガの壁が顔をのぞかせている。

今も現役の「白ケロリン」=金沢市泉野町の桜泉湯で

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珍品「白ケロリン」

 外観だけでなく、浴場の道具もレトロ。風呂おけの「ケロリン」は、定番の黄色ではなく見慣れない白だ。昭和40年代初頭に製造中止となった通称「白ケロリン」と呼ばれる物で、マニア垂ぜんの珍品だという。番台の池田由美さん(50)は「譲ってくれと言われたこともあります。お断りしましたけどね」と苦笑を浮かべた。

番台に座って常連の星さん(左)との世間話を楽しむ福島さん=金沢市東山のくわな湯で

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60年ずっと看板娘

 最後は、浅野川沿いの「くわな湯」(東山)に足を運んだ。ここの魅力は何といっても、番台に座っている福島朝子さん(76)だろう。常連客の一人一人と言葉を交わし、時には玄関まで見送ることもある。「毎日来る人が多いから、2、3日も顔を見ないと心配になる。来てくれると、ほっとするね」

 福島さんの人柄に魅せられ、毎日のように訪れる常連は少なくない。妻と2人で通い詰めている星孝次さん(81)もその1人。「いつも番台のそばに立って姉さんと世間話しとるよ」。趣味の水彩画で浅野川を描いた時も、もちろん川岸にくわな湯の建物を入れた。この絵は今、男湯の脱衣所に掛かっている。

 「中学から60年も番台に座っとる。お客と話すのが一番の楽しみ」と福島さん。常連同士の会話を聞きながら、熱めの湯に肩までつかっていると、なんだか心までほぐれていくような気分になった。

町田忍さん=本人提供

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「非日常」にリラックス効果

銭湯に詳しい庶民文化研究家 町田忍さん

 「浮世のあか」を落とす銭湯には、精神的リラックスを得るためのさまざまな演出が凝らされています。豪華なタイル絵や建物の造りなども演出の一つ。家庭の風呂にはない「非日常」を味わうことができるんですね。

 はやりのスーパー銭湯とは違い、昔ながらの銭湯は地域のコミュニケーションの場にもなっています。よく私は「遠くの温泉より近くの銭湯」なんて言い方をして、そんな魅力を表現しています。

 純粋に風呂として楽しむのはもちろん、レトロな雰囲気を楽しんだり、伝統建築として観賞したり、人によって銭湯の楽しみ方はいろいろ。金沢市内の銭湯もそれぞれの魅力があるので、幅広い付き合い方ができると思います。

温かい地域の社交場

ばくのつぶやき

 昔ながらの銭湯はスーパー銭湯の進出や後継者不足などを受け、全国的に減少の一途をたどっている。金沢も例外ではなく、ピーク時は市内に100軒以上あった組合加盟の銭湯も、今や30軒を割り込んでいる。

 ただ銭湯を実際に巡ってみて、地域の「社交場」としての役割は少しも薄れていないと感じた。特にお年寄りにとっては、仲間と顔を合わせる大事なよりどころになっているのは間違いない。

 昨今のレトロブームで見直されつつある銭湯。なじみのない若い世代も、一度訪れれば温かい魅力に触れることができるはずだ。

 

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