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popress【Love & Sex】性、恋愛の問題をまじめに考える
 

恋する美男美術館

ミケランジェロのダビデ像

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 古今東西の美術史をひもとくと、イケメンなんて軽々しく呼べない美男たちに出会える。ありえないぐらい均整のとれた肉体、端正な顔立ちにどこか陰りのある表情。思わず見ほれ、永遠の乙女は妄想をたくましくするはず。仕事や学業、婚活のプレッシャーなどが押し寄せる毎日。疲れた心を潤す「美男美術館」にご案内いたします。

まず心ゆくまで眺めて

 美男に着目して美術鑑賞なんて邪道かしらと戸惑うなかれ。「作品の解説を読まず、そのまま向き合って」と、「美男美術史●入門 女子のための鑑賞レッスン」(美術出版社)著者の池間草さん(34)は乙女の背中を押す。

 現実の美男をじろじろ見るのは失礼だが、作品なら心ゆくまで鑑賞できる。「端から見れば美術を勉強しているように見える。心はヘンタイでも」

 もともと二枚目好きの池間さんは市川新之助時代の海老蔵さんに一目ぼれ。歌舞伎から日本美術に興味を持ち、大学で美術史を専攻した。代表的な作品を古代から説明される授業に全然興味はわかなかったが、ある時、ギリシャ彫刻の写真を見て「何これ、かっこいい!」。

 そこから独学で美男を研究してきた。有名なミケランジェロのダビデ像のように、西洋の作品は写実的。神々をモデルとした男性たちは解剖学的に不自然なぐらい理想的な肉体、完成された美しさがある。片足を少し曲げ、そこに体重を掛けて立つのがギリシャ彫刻の「決めポーズ」。身体の左右で動と静、緊張と緩和を表す姿は、見る人をさらに魅惑する。

 一方、日本の作品は写実的でなく、余白で見せる。「源氏物語」の光源氏も当時の絵巻では希代の色男に見えない。香り立つ色気は想像力の産物だ。

 超個人的と断った上で「美男は不幸じゃなきゃいけない」と池間さん。散りゆく花のようなはかなさ、憂いに満ちた伏し目がちな表情にグッとくる。美男は神話や宗教画に多く、「そんな目で俺を見るなよ」と非難されているような背徳感も、鑑賞の媚薬(びやく)。「作品の主題は後から学べばいい」と助言する。

 本気でほれたら会いに行く。「一筆、一彫りに作家の魂が込められている。本物のすごさを見ないとね」

【左】「月刊夢二エハガキ」第6集「芝居(二)」紙治(1912年、金沢湯涌夢二館蔵)【右】左/治兵衛、右/小春(大正期、金沢湯涌夢二館蔵)

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北陸でも会いに行ける

 それでは北陸ゆかりの美男と対面しよう。石川からは大正ロマンを代表する画家竹久夢二(1884〜1934年)の作。美人画で知られるが、わずかながら美男も描いている。

 木版画「治兵衛」は妻子がいながら遊女・小春に恋し、心中を決めた紙屋治兵衛の覚悟が伝わる。近松門左衛門作の「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」が題材。

 絵はがき「紙治」も治兵衛がモデルで、悲しい結末に向かう中「愁いを含みながら、りんとした雰囲気も感じさせる。口元もセクシー」と、金沢湯涌夢二館学芸員の川瀬千尋さん(27)は話す。

 「治兵衛」を制作したころ、夢二は岸たまきと離婚後で、一回り年下の笠井彦乃と恋仲に。浮名を流す夢二との交際を、彦乃の父親は許さなかった。女性関係に悩み続け、罪深い意識を持っていた夢二の人生が作品に重なるようだ。

【左】マウリッツオ,ニコラ,サンドロ,バレーゼにて 1984.6.1 No.2(横尾忠則作、1984年、富山県立近代美術館蔵)【右】マルセル・デュシャンの「ローズ・セラヴィ」(C)MAN RAY TRUST/ADAGP,Paris&JASPAR,Tokyo,2013 E0760(マン・レイ撮影、1921・78年、富山県立近代美術館蔵)

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 富山県立近代美術館からは陽と陰、対照的な2作品を紹介する。まずは「生」の勢いが伝わる美男たち。横尾忠則さん作の「マウリッツオ,ニコラ,サンドロ,バレーゼにて 1984.6.1 No.2」は、イタリアの森で男性3人にポーズを指示して撮った写真を基に、同館で公開制作された。肉体の躍動感、精気が画面からほとばしる。

 もう一つは異色の美男。前衛芸術の先駆者、マルセル・デュシャン(1887〜1968年)の女装写真「ローズ・セラヴィ」(マン・レイ撮影)は怪しい引力がある。性別や国籍を超越し、別人格になって芸術活動を展開した。男性用便器を「泉」と題してそのまま出品し、20世紀の美術界に物議をかもしたデュシャン。容易に理解できない「謎」をはらむゆえ、他者をとりこにするのかもしれない。

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美男美術史●入門

女子のための鑑賞レッスン 池間草著

マニアも納得の一冊

 近代までの絵画や彫刻作品を中心に、美男をめでながら西洋や日本の美術史に触れる乙女向けのアート入門書。有名なミケランジェロのダビデ像ほか、誘拐されたギリシャ神話の美少年の悩ましげな姿を描いた「ガニュメデス」(ジャン・ピエール・グレンジャ、1812年、ボルドー美術館蔵)、心中に向かう男女の狂おしい愛を表現した「道行」(北野恒富、1913年ごろ、福富太郎コレクション資料室蔵)などマニアックな美男も紹介している。

  担当・押川恵理子 ※次回は13日付Human Recipe。同性愛者と公言している金沢市出身の写真家、森栄喜さんに迫ります。

(●は、ハートの絵文字)

 

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