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popress【Love & Sex】性、恋愛の問題をまじめに考える
 

女性救う、化粧の力 人身売買横行のネパール 日本の団体活動

向田さん(右から2人目)から化粧の仕方を学ぶネパールの女性たち

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 貧困のため国境を越えて売春組織に売られる少女が年間数千人に上るとみられるネパール。心身深く傷ついた彼女たちに化粧を通じて笑顔と尊厳を取り戻してもらおうと日本の団体が活動している。過酷な環境では「余分なもの」とされがちな化粧だが、丁寧に彩られた自身の顔を鏡でまっすぐ見つめる瞳は、その力を語っている。

外に出る気力保つ

 ネパールの首都カトマンズ。売春組織で働かされていた8歳〜20代後半の60人が暮らすシェルターで、東京都の社団法人「Coffret Project」(コフレプロジェクト)は化粧の体験講座を開いている。

 代表理事の向田麻衣さん(30)は大学4年の時にアジア10カ国を訪問。識字教育や就労支援を受けている女性たちに要望を聞くと「化粧がしたい」と話した。

 その効果は向田さんも体験していた。日本社会になじめず、大学に入る前の一時期、「自分は価値がない」と感じていた。生活と心が荒(すさ)んでいく中、外に出て人とつながる気力を保たせたのが、メークと服だった。

鏡を見て少女喜ぶ

 シェルターに無償で暮らせる期間は1年半。自立の一助になればと2009年7月から化粧の講座を始めた。

 参加者の肌をやさしく手入れし、目や口元に希望のメーク。最後に香水をひと吹きすると「うれしい」「恥ずかしい」「夫に会いに行きたい」と晴れやかな表情に。トルコやインドネシアなどでも開き、1500人以上が体験した。

 毎回顔を出す10歳ぐらいの少女がいた。インドの売春宿から保護され、自分の名前や年齢すら分からない精神状態だった。

 1カ月近く続けた講座の最終日、真っ先に化粧を志願。かつて口からよだれを流し、目の焦点も合っていなかった少女が、彩られた自分の顔を鏡でしっかり見て「テンキュー(ありがとう)」。現在は友だちと会話できるまで回復してきた。

ラリトプールのウェブサイトで商品を購入できる

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東日本大震災でも

 化粧は、東日本大震災の被災地でも歓迎された。宮城県石巻市に生まれ、仙台市で育った向田さん。震災2週間後に地元入り。炊き出しをしていたが、「津波で化粧品が全て流された」との声を聞き、基礎化粧品を集めて避難所に配った。商品はメーカー40社が無償で提供。メーク講座も開くと「日常を取り戻せた」と喜ばれた。

 東北とネパールを結ぶ支援も6月から始まった。ヒマラヤ産の原料を使った化粧品ブランド「Lalitpur」(ラリトプール)の設立。カトマンズ郊外で低所得層の若いネパール人女性7人を雇ってバスソルト、せっけんなどを生産。商品の保管、発送の拠点は石巻市に置いた。

自信持って歩んで

 増え続ける化粧体験の要請に応えるため、今後はヘアメークのプロをネパールに交代で派遣していく。「人身売買の被害者は人生を自分で選べないとあきらめている。より多くの人が化粧の機会に恵まれ、自信を持って歩み出してほしい」と向田さんは願っている。

年5000〜7000人 インドの売春宿に

 インドの売春宿に売られるネパール人少女は年間5000〜7000人とみられる。識字率が低く貧しい地域の住民がお金欲しさや「飲食店で働かせる」とだまされて娘を売るほか、誘拐されるケースも。

 支援団体のNPO法人「ラリグラス・ジャパン」(東京都)によると、被害者は14〜18歳の少女が多く、1日に10〜20人との性行為を強要される。拒むと殴られ、逃げ出せないように24時間監視される。エイズウイルス(HIV)感染や深刻な健康状態に陥る人も多く、国際組織などに救出されない限り、10年以上酷使される。

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人間の存在、尊厳に関わり

 化粧は人間にとってどんな意味があるのか。「社会にどう見られたいかを語る身体表現の一つ」と話す石田かおり駒沢女子大教授=写真=(哲学的化粧論)に聞いた。

 入浴や洗髪、ひげの手入れ、ピアスなど体を加工する行為を広く「化粧」と捉えます。

 誰しも自分の外見や性格、社会的な位置付けのセルフイメージを持っています。その形成に大きく関わるのが化粧。イメージを上手に築き、周りからも認められていると本人が感じれば心理的に安定し、人間関係や社会生活は円滑に進みます。

 スーツ姿とTシャツ・短パン姿では言葉遣いや態度が自然と違ってくるし、上品な服装や言動を心掛ければ次第に上品になる。逆に服装や髪形の自由を奪われ、外見を支配されると洗脳されやすい。

 無表情で、周りの人と会話できなかった認知症の患者が化粧療法によってコミュニケーション能力を回復し、中には「きれいな顔にしてもらったのに、おむつは恥ずかしい」とリハビリに励み、自力でトイレに行けるようになった人もいます。セルフイメージを再構築することで自信や社会性を回復する。「化粧」は人間の存在、尊厳に深く関わります。

 担当・押川恵理子

  ※次回は8日付Human Recipe。日常の笑える光景を切り取る写真家、梅佳代さんに迫ります。

 

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