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popress【Love & Sex】性、恋愛の問題をまじめに考える
 

性的虐待から生き抜く 被害者女性体験を告白

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 児童虐待の件数が最多となる中、子どもに対する性暴力の被害も増えている。安全が守られるべき家庭で心身に傷を受け、成人後も悩み苦しむ被害者。虐待のトラウマ(心的外傷)を乗り越えて自身の人生を生き抜くため、過去に向き合い、公表した女性たちがいる。4月に都内であった支援団体のフォーラムで勇気ある告白を聞いた。(担当・押川恵理子)

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「生きた心地せず」

 都内で料理店を営むケイコさん(44)は4、5歳から4歳上の兄に体を触られ、縛られた。10歳ごろ、「やめて」と訴えるとやんだが、今度は父親からの性暴力が始まった。次第に激しくなり、性行為を強要された。

 「生きた心地がしなかった。中学で好きな人ができ、その人に全神経を注いでいる間だけは忘れられました」。交際相手の誘いでシンナーを吸引。一時の快楽が過ぎ去ると、激しい自己嫌悪に襲われた。

 非行に走る理由を教諭から問いただされ、虐待を告白。学校の介入で父の行為は止まった。後日、かつて姉も被害に遭っていたと母から知らされた。「私は身代わり? 妄想や疑念が膨らんで、誰も信じられなくなりました」

 転機は高校1年。現在の夫と出会った。信頼を確かめたくて、全てを伝えた。絶句した後、「おまえの味方だ」と受け止めてくれ、強く生きると決めた。

 2001年に夫と料理店を開業。当初3年は忙しく何も考えず働いていたが、過去を忘れることはできなかった。「だんだん、家族連れを見るのがつらくなった。憎らしくて」。虐待の記憶がよみがえり、眠れず、アルコール依存に。心身ぼろぼろの状況から抜け出すため、性暴力の後遺症や治療法を調べた。精神科医のカウンセリングを両親と一緒に受け、被害者の集まりで体験を話し合った。

 「ずっと自分の力で回復すると思ってきたけど、それは夫が見守ってくれているからこそ」と気づいた。周囲の理解が支えだ。

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「風俗勤め、売春も」

 愛知県在住のナミさん(37)は3歳から高校生まで虐待が続いた。母親に比べて優しかった父親が加害者。お風呂で体を性的に触られる行為から始まり、激しさや頻度がどんどん増していった。中学3年で不登校に。「体が心配で産婦人科や地域の相談員に助けを求めたけど、『やり過ごしなさい』と言われ、通報してくれませんでした」

 高校に進学したが、再び学校に行けなくなった。心配する担任教諭から事情を何度も聞かれ、打ち明けた。学校と警察の連携で父親から離され、転校。働きながら全寮制の高校に通った。

 短大に進んでから過食と嘔吐(おうと)が悪化し、仕事と学業も両立できずに退学。「かわいい服が着たくて水商売に入り、20歳前後で風俗店勤めや売春もしました」

 現在は一般企業に勤務。トラウマを治療し、結婚することが目標だ。

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「憎しみ越え前へ」

 埼玉県在住の保健師・看護師のジュンさん(39)は父に衣服の上から体を触られた。虐待は13歳から始まり、両親が離婚、別居した21歳まで続いた。20代は引きこもり、男性と関わりたくなくて看護の専門学校に進んだ。「人を愛したいと思う半面、好きな人を傷つけたくもなる。自分はおかしい」

 30代になり、性暴力の問題に向き合おうと決めた。最初は自らが被害者と公表することが怖く、支援者の立場から知識を深めた。「父はなぜ私を愛してくれず、性的道具に利用したのか。分からず堂々巡り」

 悩みながら、性暴力の被害者を支える団体をつくり、専門看護師の資格も取得。「父が死んでくれたらと今でも思うけど、処罰感情があると自分が前に進めない。被害者の9割は女性。性暴力がない社会を」と訴える。

   ◆  ◆   

 ナミさんの感情を出さず淡々と話す様子が、逆に傷の深さをうかがわせた。ケイコさん、ナミさんは教師に話したことで学校が介入し、ようやく虐待が止まったが、一方で性暴力の被害を他人に話すことは容易でない。

 さまざまなトラウマを乗り越えて生きる当事者を支援する都内のNPO法人「日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン(JUST)」理事長で精神科医の斎藤学(さとる)さんは「性虐待は家族の政治問題。被害者が十分に強く、賢くないと、公にならない。相談できる環境づくりが必要」と指摘している。

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医師や作家指摘−

目を背ける社会に警鐘

 被害者の3人が体験を告白したNPO法人「JUST」のフォーラムでは、講演やパネル討論もあり、団体理事長の斎藤学医師、ミュリエル・ジョリベ上智大教授、作家の内田春菊さん、村山由佳さんが性的虐待や家族関係の問題を話し合った。

 斎藤医師は近親者からの性暴力をタブー視し、向き合わない社会に警鐘を鳴らした。ジョリベ教授はフランスの離婚率が5割と高く、同棲(どうせい)のまま出産して別れるカップルも多い現状を挙げ、「200万人以上の子どもたちが複雑な家族関係で暮らしている。心身の安全は守られているのか」と懸念した。

 14歳の半年間、母親の愛人から性的行為を受けた内田さんは3回結婚し、離婚。「パートナーが自分の子どもたちに支配的な行動を取ると嫌になった」と理由を説明し、「子どもが毎日したいことをできる環境を一番大切にしたい」と話した。

 村山さんは支配的な母親に抑圧された過去を振り返った。小学生のころ、布団を足に挟むと気持ち良くて無邪気に伝えると、「医者に足を切ってもらおうな」と吐き捨てられた。性の目覚めは罪悪感となった。「さわやかな青春小説を10年書いてきたが、心の中の黒々としたものと向き合いたくて」。現在は性愛を赤裸々に描くことで、くびきから解放されている。

難しい立件−

子ども守る法整備を

 全国の児童相談所が受けた虐待の相談件数は2011年度、5万9919件に上った。このうち性的虐待は1460件だが「被害が埋もれている。実際は数倍」。そう指摘する日本子ども家庭総合研究所(東京)子ども家庭福祉研究部の山本恒雄部長に制度面の課題を聞いた。

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 性的虐待は再発率が高いが、刑事立件数は少ない。強制わいせつや強姦(ごうかん)罪は親告罪のため、被害を受けた子どもが告訴の意思能力を示す必要がある。裁判では証言を求められ、過酷な反対尋問もある。子どもに耐えられるか。かえって傷を広げる恐れがある。

 海外では子どもに配慮した法制度の整備が進んでいる。未成年の被害は職権で起訴できる国があるほか、欧州評議会は被害者が成人になるまで性犯罪の時効を停止する条約を策定。イギリスでは裁判所命令で被害児童の住む地域から加害者を退去させ、イスラエルでは服の上から体を触る行為も強姦罪に当たる。日本の刑事訴訟法は大人向け。改正の検討が必要だ。

富山も開設検討−

一貫支援の駆け込み寺

 性暴力に遭った被害者が治療やカウンセリング、訴訟手続きまで一貫して支援を受けられる拠点が全国に少しずつ増えている。

 大阪府、東京都、愛知県、佐賀県、北海道、兵庫県に続き、富山県内でも医師や助産師、カウンセラー、弁護士らが「ストップ性暴力ネットワーク富山 Let′s Voice」を結成し、開設を目指している。発起人で精神科医の本田万知子さんは「被害者のほとんどは泣き寝入り。声を上げ、社会に問題を伝えられる土壌をつくりたい」と訴える。

 2010年4月に民間団体が全国で初めて開設した「性暴力救援センター・大阪」は松原市内の病院に支援員が24時間待機。電話相談の件数は初年度の1463件から12年度は5325件まで増えた。

 ※次回は11日付Work&Life。休学などで孤立する学生の支え合いの取り組みを紹介します。

 

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