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popress【Love & Sex】性、恋愛の問題をまじめに考える
 

性犯罪の痛み 受け止めて 苦しみ悩む被害者に社会は?

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実名で手記 小林美佳さんに聞く

 聞いてもらいたいのに、言いだせない−。多くの性犯罪被害者が、偏見や無理解から苦しい思いを話せず悩み、時には生きる希望を失うほど深く傷つけられている。4年前、自らの被害を実名で公表した小林美佳さん(36)=東京都=は、被害者らとの交流を続け、その実態や思いを伝えてきた。社会に根深い性の暴力をなくすには。小林さんの話に耳を傾け、考えてみたい。

「私は汚れた存在」

 2000年、24歳の夏に小林さんは見知らぬ男2人にレイプされた。仕事からの帰り道、道路脇の車から道を尋ねられ、教えようと近づいた瞬間、車内に引きずり込まれた。「それまでの人生を全否定された感じだった。同時に『私は汚れた存在』と思った」と振り返る。

 その後の生活は一変した。不眠になり、食欲もなく、突然気分が悪くなって倒れたり、フラッシュバックで吐いたり…。平然を装い勤務先には通っていたが、毎日生きていていいのか悩んだ。

 家族との関係もギクシャクした。「そんなの言っちゃダメ」。事件から4カ月後、ようやく打ち明けた母親にそう言われ、孤立感を深めた。受け止めてほしいのに、話す機会すら与えられない。女性なら隠して生きていた方がいいという、母なりの考えだったと後で知ったが「親には分かってほしいという期待があった分、いら立ちや不信感が募った」。

 救ってくれたのは、同じく被害に遭った「仲間」だった。インターネットを通じて知り合い、実際に会ってつらい気持ちを吐露すると、自分を客観的に見ることができた。「あなたも、私も全然悪くないじゃん」。そう思えた時、悪いのは性暴力を振るった相手だと納得できた。

隠そうとする風潮

 性犯罪は、被害を表沙汰にできない風潮がある。「隠さなければならない」社会に違和感が募った。08年に自身の経験を顔と名前を出してつづった「性犯罪被害にあうということ」を出版。全国から講演に呼ばれることも増えた。

 講演会場では毎回、終了後に「私も実は…」と被害を打ち明けてくれる人が必ずいる。相談やメッセージを寄せてくれた被害者もこれまでに4000人を超えた。「私は生きていていいんでしょうか」。そんなメールをもらうことも多く、被害者のほとんどが誰にも言えずに悩んでいる。

 学校などで10代、20代の若い世代に話すこともあるが「性行為や性暴力について学んでいない」と実感する。「日本では性教育がタブー視されているが、セックスで人を傷つけることがあると知っておいてほしい」。男女では圧倒的な力の差がある。「男性にはそんな気がなくても、腕を振り上げただけで女性は怖いと思うこともある」と話している。

「あなたは大切」伝えて

 性犯罪被害を「理解」することは難しい。だが、小林さんは自身が事件直後に会った男性刑事の行動がヒントになるという。その刑事は、思い詰めた顔の小林さんに笑顔になってもらいたいと、刑事ドラマの主人公の写真を貼った警察手帳を見せて笑わせてくれた。「その時、周りは犯人捜しに一生懸命で孤独で仕方なかった。自分と向き合って、笑わせようと行動してくれた刑事さんのおかげで、私は社会に不信感を抱かずに済んだ」

 性被害の苦しさを「加害者にとっては暴力の意識はない行為でも、被害者はその間支配され、殺されるかもしれないという恐怖の中でその記憶を植え付けられる」と訴える。「被害者は話を聞いてくれる人、理解してくれる人を求めている。もし被害を打ち明けてくれた人がいたら、まずは向き合って『あなたは大切な存在』だと伝えてほしい」。

こばやし・みか 1975年、東京都生まれ。2000年8月に性犯罪事件に巻き込まれた。08年、被害を実名で記した手記「性犯罪被害にあうということ」を出版。10年には公表後の心境の変化や、裁判員裁判への思いをつづった「性犯罪被害とたたかうということ」をまとめた。会社員として働く傍ら、講演や被害者との交流を続けている。

顔見知り 4割近く

周囲の偏見 2次被害に

 強姦(ごうかん)(レイプ)や強制わいせつなどの性犯罪事件は、ここ10年では2003年をピークに減少傾向にある=グラフ(左)。2011年版の犯罪白書によると、一昨年の認知件数は強姦1289件、強制わいせつ7027件。ただ、性犯罪に遭っても被害を届け出る人は13%にとどまるというデータもあり、警察に届けられない分を含めると実際の被害は何倍もある。

 小林さんのように、見ず知らずの相手から被害を受けることもあるが、強姦の場合、相手は親族も含めた「面識がある人」が4割以上を占めている=同(右)。小林さんが相談を受けた10代、20代前半の若い女性に限ると「9割が身内」とも。それゆえ誰にも言えず1人で悩む人も少なくない。

 「2次被害」と呼ばれる、周りの無理解による苦しみも大きい。「レイプされる方にも落ち度がある」といった言動や、「忘れなさい」など「なかったことにする」態度がさらに被害者を傷つける。また、事件によっては裁判員裁判の対象になるため、被害の詳細が広く知られてしまうことに抵抗感を抱く被害者も多い。

 最近は、警察署でも女性被害者には女性署員が対応するなど配慮がされている。性行為後でも妊娠を高い確率で防げるアフターピルも普及しているが、一人一人が関心や理解を示すことが何より重要なことは変わらない。

  担当・奥野斐 ※次回は8月1日付Human Recipe。将棋の橋本崇載棋士が登場します。

 

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