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popress【Interactive】若い読者モニターの声を受けたニュース解説
 

バク・トゥ・ザ・ティーチャー 大学編 脳内物質“起こさず”快眠

3限目 金沢大 桜井武先生

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 「ずっと起きていられたらいいのに」−。試験前日や仕事が片付かない時、迫り来る睡魔と闘いながら、そう思ったことのある人も多いはず。人はなぜ、眠らなければならないのか。睡眠と密接に関わる脳内物質「オレキシン」を発見した金沢大の桜井武教授(47)に、「良い眠り方」の秘訣(ひけつ)を尋ねた。(担当・奥野斐)

情報を整理→記憶に

ばく:忙しい現代人はつい睡眠時間を削ってしまいがち。睡眠不足にはどんな問題があるのでしょうか。

桜井先生:私たちの眠りは、大きく「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類に分けられ、それらが交互に繰り返されています。前者は体は寝ているが、脳は活動している状態。後者は体も脳も活動を休止している状態。これらが約90分ごとに規則正しく繰り返されているのです。

 レム睡眠中、脳は起きている間にため込んだ情報を整理し、重要性を判断してカテゴリー分けする。一方のノンレム睡眠では、整理した情報を記憶として固定化します。起き続けているとこの作業が進まず、脳が「パンク状態」になってしまうんです。

寝ないと脳がパンク

具体的な影響は?

普段私たちが経験している睡眠不足の状態を思い浮かべてください。注意力や集中力が著しく低下しているでしょう。一晩徹夜した後は、酒に酔った時と同じくらいまで認知能力や判断力が落ちるとのデータもあります。

 仕事や作業上の初歩的なミスには、高い確率で睡眠不足が関わっていると言われています。1986年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の打ち上げ失敗も、関係者の睡眠が十分ではなかったと指摘されていますね。

 事故に至らなくても、労働者の生産性や効率は下がります。日本人の睡眠時間は平均で7時間半ほど。先進国の中でも特に短く、フランスやイギリスなど欧州に比べて約1時間も少ない。日本経済へのマイナスの影響もあるでしょう。

「オレキシン」を発見

先生が睡眠に注目したきっかけを教えてください。

もともと人間の情報伝達に関わる脳内物質に興味があり、調べていました。98年に発見したオレキシンという物質が人の覚醒に関係していることが分かり、睡眠を追究することになったんです。

 オレキシンは脳内物質の一つで、人間が起きている間は必ず働いている。おなかがすいた時や、火事や事件に巻き込まれるなどの緊急時にはオレキシンをつくる神経細胞が活発になり、逆に満腹の時や緊張が解けた時は働きが抑制され、眠くなる。この物質の活動と睡眠は深く関わっているのです。

より良い眠りを得るためにはどうしたら?

大事なのは、このオレキシンの働きと体内時計の管理です。現代人は不安や緊張を抱えがち。ちょっとしたことでも脳が非常事態と感じれば、オレキシンが分泌されて、安眠が妨げられてしまう。そして、規則正しい生活リズムも大切。寝る前に携帯やパソコン画面を見るだけで、体が光を感じて体内時計は狂ってしまうからです。

 寝る前は、オレキシンが分泌されるような不安を取り除き、適正な量の食事を数時間前には取り終えてください。明るい環境にいないことも重要ですね。

7時間は眠ろう

Q 理想の睡眠時間を教えてください。

A 人によってそれぞれなので、睡眠不足と感じない程度、としか言えません。ただ、平均で七時間くらいの睡眠は必要。たまに「寝なくても大丈夫」という人がいますが、よく観察すると一瞬だけ寝ていたりします。昼間に眠いのは、足りていない証拠です。

 睡眠の質は長さだけでなく、眠りの深さにも左右されます。脳が深く眠るのは最初の九十分。この時間に眠りを妨げられるのはよくないですね。

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「寝だめ」はできない

Q 「寝だめ」はできますか?

A 答えは「No」。先の忙しさに備えて、「あらかじめ睡眠を取っておこう」というのはできません。

 「睡眠負債」という考え方があります。睡眠中の脳では、情報の整理や記憶のための作業が進められますが、起きている間にどんどんこの作業量(=負債)は増えていく。眠ることで負債を返済できますが、脳のシステム上、残念ながら事前の「貯金」はできないんですね。

体内時計も影響

Q 朝は作業効率がいいと聞きます。

A 「睡眠負債」を返済した朝の方が、仕事や勉強がはかどるのはある意味正しい。でも、眠気は体内時計の影響も受けています。

 簡単に言うと、体内時計は「起きろ!」という命令を一日二回、朝と夕に強く出している。昼すぎに眠くなるのは、昼食後で血糖値が上がるだけでなく、この命令が一時的に弱まるため。この考えでは、夕方も眠くなりにくいはずです。

さくらい・たけし

金沢大医薬保健研究域教授(神経生理学)

 1964年、東京都生まれ。筑波大院医学研究科修了。医師、医学博士。2007年から金沢大に勤務。主に「神経ペプチドの機能解析」をテーマに取り組む。09年、安藤百福賞大賞を受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞。

若者にメッセージ

 強く望めば人は自分でも信じられないような力を発揮する。打ち込めるものを見つけ、高い目標を設定して努力すること。型にはまらず、心が求める道を進んでください。

 

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