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popress【Interactive】若い読者モニターの声を受けたニュース解説
 

バク・トゥ・ザ・ティーチャー 大学編 音楽は3次元

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 世の中はさまざまな音楽であふれている。美しいバラードや激しいロック、重厚なクラシックや軽やかなポップス−。聴き手の感性を刺激し、感情の起伏を呼び起こすといわれる音楽。人の心の中ではどのように響き、どう印象付けられているのか。音楽心理学を研究する金沢工業大情報学部の山田真司教授(52)に聞いた。 (担当・佐藤航)

心との関わり 研究で探る

2限目 金沢工大 山田真司先生

ばく‥音楽心理学というのはどんな学問なんですか。

山田先生‥人の心と音楽の関係を研究する学問です。私はその中でも、「音楽と感情の心理学」を研究しています。人は音楽を聴くと楽しくなったり、悲しくなったり、興奮したりする。それは一体なぜか。反対に、どういう曲を聴くと楽しくなり、どういう曲だと悲しくなるのか。音と気持ちの関係を探るのが研究の狙いなんです。

印象の尺度 24対評価

ばく‥でも、音楽の好き嫌いは人それぞれでしょう?

山田先生‥確かに、クラシックを好きな人がいれば、ロックのファンもいるように、音楽の好みは十人十色。でも、単純な印象を尋ねた場合、それほど個人差は出ません。例えばある人が「滑らかだ」と感じた音楽を、別の人が「粗い」と感じることは考えにくい。音楽の印象は、個々の好みを超えた「軸」があると考えられるんです。

 その軸を探るため、私は「印象評定実験」をやりました。まず、音楽の印象を表す形容詞の対をたくさん考えます。「きれい⇔汚い」「悲しい⇔陽気な」「硬い⇔軟らかい」というような。分かりづらい表現などは外し、最終的に24対の尺度を用意しました。

 続いて被験者たちに音楽を聴かせ、その24対に沿って評価してもらう。「この曲は美しく、少し悲しげで、とても軟らかく…」という感じで。これを、さまざまなジャンルの216曲でやりました。

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イメージから曲検索

ばく‥それで分かったことは?

山田先生‥「きれい」だと思われた曲は「滑らか」、「汚い」は「粗い」と思われたとすると、「きれい⇔汚い」と「滑らか⇔粗い」は言葉が違うだけで同じ尺度だと言える。一方で「きれい⇔汚い」と「明るい⇔暗い」という尺度を考えた時、いつも「きれいで明るい」「汚くて暗い」という結果なら二つは同じ尺度と言えますが、「きれいで暗い」「汚くて明るい」というのも成り立つので、二つは互いに独立した別の尺度になります。

 このように同じような尺度はまとめ、独立した尺度だけを残していった結果、音楽の印象は「すっきり感」「迫力」「明るさ」という3次元で成り立っていることが分かりました。人は音楽を語る時、「荘厳」とか「爽やか」とか「激しい」とか多くの言葉を使いますが、突き詰めると3本の軸で説明できたんです。

三つの軸で説明可能

ばく‥この研究はどんな分野で生かされるんでしょうか。

山田先生‥あらゆる音楽の印象を、3次元の座標上に示すことができますよね。つまり「この曲は『すっきり感』がこれくらいで『迫力』はこの辺り、『明るさ』はここ」というように。抽象的な言葉でしか伝えることができなかった印象を、明確に表現できるようになる。

 これは、イメージ共有が大事なエンターテインメント産業で有効です。僕はあるゲーム会社と共同研究をしていて、ゲーム音楽でも同様の実験をしました。音楽の印象を図で示す「感性マップ」を作って、ディレクターが音楽制作を指示する時などのツールにしようというわけです。

 さらに今は、もっと大量の曲のデータを蓄えて、イメージから曲を検索する研究を進めています。「しっとりして落ち着いた曲」というふうに、印象を伝えるだけで好みに合った曲を引き出せる。これが実現すれば、音楽との出合い方がまったく変わりますよね。

レース 無音で好タイム

音楽の影響 ゲームで実験

 「工場で音楽を流すと作業効率が上がる」など、音楽は人間の行動を左右するといわれています。そんな音楽の影響を科学的に検証するため、私はレーシングゲームを用いて実験をしました。

 まず学生20人に毎日ゲームの練習をさせ、安定した操縦ができるまで上達してもらう。その状態で、さまざまなジャンルの音楽を流しながら、あるいは音楽なしでゲームを繰り返しました。音楽がラップタイムに与える影響を調べるためです。

 その結果、どんな音楽を流しても、「音楽なし」より速くなることはありませんでした。驚いたことに、1番タイムが悪かったのは、もともとゲームにセットされていたロック調の曲だったんです。

 つまり、音楽をかけると集中力がそがれるんですね。ロックはゲームに合っていそうですが、落ち着きのない曲はタイムを落としてしまうんです。

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人間と機械は違う

 もともと音楽が好きで、昔はバンドでシンセサイザーを弾いていました。小さいころから、イエスやジェネシスなどのプログレッシブロックが好きで。特にイエスの「危機」はレコードが擦り切れるほど聴いて、その影響でシンセを弾くようになったんです。

 ただ、シンセはいろいろな音が出るんだけど、自動演奏させると機械的で冷たい印象があった。一方で名ピアニストの演奏は、情感たっぷりで表情豊かですよね。人間と機械は何が違うのか。それを知りたい、というのが音響工学の道に進むきっかけでした。

「勘と経験」理論に

 人間の力に頼ってきた音楽づくりを、工学的なアプローチで達成したいという思いは今も同じです。これまで作曲などの音楽コンテンツづくりは、アーティストやプロデューサーと呼ばれる人たちが「勘と経験」で担ってきました。

 そんな「勘と経験」を科学的な理論に置き換え、コンテンツや作品を作っていこう、というのが私の研究室の目的です。音楽の印象を分析するのも、目的を果たすための研究の一つなんです。

やまだ・まさし

金沢工業大情報学部メディア情報学科教授

 1959年、兵庫県生まれ。87年に九州芸術工科大(現九州大芸術工学部)大学院芸術工学研究科の情報伝達専攻修士課程を修了。大阪芸術大の専任講師などを務める傍ら、98年に九州芸術工科大から博士号(芸術工学)を受ける。2004年から金沢工業大に勤務。

若者にメッセージ

 好きなことは寝ずにやりなさい! 「好きなことがある」というのは幸せなんだから。

 

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