トップ > 北陸中日新聞から > popress > Interactive > 記事

ここから本文

popress【Interactive】若い読者モニターの声を受けたニュース解説
 

バク・トゥ・ザ・ティーチャー 大学編 謎多きアリに恋して

写真

1限目 金沢大 大河原恭祐先生

 「なぜ、それを調べるの?」。思わずそう尋ねてしまいそうな一風変わった研究に取り組む先生が石川、富山の大学にもいる。決してメジャーなテーマではないけれど、特色があって面白い。ポプレスのキャラクター・ばくが、そんな先生たちの研究室を訪ねた。初回は、身近で見ながら謎が多い昆虫・アリの生態を追究する金沢大の大河原恭祐助教(44)。

驚きの女系社会

ばく:先生は20年以上、アリを見ています。面白さはどこに。

大河原先生:アリは「社会性昆虫」と呼ばれ、一つの巣の中で1〜数十匹の女王アリと、子育てや食糧の調達などを担当する多くの働きアリが集団生活をしています。一匹一匹が計算された行動をして、助け合いながら社会を築いている。見ていて飽きませんね。

ばく:アリはどんな家族構成ですか。

大河原先生:圧倒的にメスが多い女系家族です。働きアリたちも全てメス。みんな同じ女王から産まれた姉妹です。その中で巣の外に出て餌をとってくるのは、年長の働きアリ。若いアリは巣の掃除や女王の世話をしています。

 繁殖の方法は少し分かりづらいので、図を見ながら話しましょう。多くのアリは「メスを産む場合」と「オスを産む場合」で生殖法が違う。女王は他の巣のオスと交尾して産卵しますが、この受精卵から生まれてくるのはすべてメス。中でも良い栄養状態で育てられた一部のメスが次世代の女王になります。

 一方のオスは、メスが精子を受精させずに産む卵から生まれる。要するに受精卵はメス、未受精卵はオス。アリでは、受精の有無で子の性別が決まっています。

ばく:それじゃオスの出番は、メスを産むための繁殖の時だけ?

写真

短いオスの一生

大河原先生:その通り。メスに比べて圧倒的に数が少ないオスは、成虫になってから数カ月で交尾のために飛び立ち、役割を果たせば死んでしまう。これに対して女王の寿命は5〜10年と長く、毎年卵を産み続けます。働きアリも1〜2年は生きると言われます。

ばく:オスの命ははかないですね…。

大河原先生:オスは次世代の女王に自分の遺伝子を受け継がせるため、太く短く生きている。ところが僕が研究するウメマツアリは、女王がそんなオスの望みさえ許さない変わった生殖法を持つ。新しい女王を産むのにオスがいらないんです。

ばく:そんなアリが! 珍しい種類なんでしょう。

「家庭内別居」アリ

大河原先生:いや、北陸にも生息する体長2ミリほどの普通のアリです。まだ分からない部分が多いけれど、ウメマツアリでは新女王は未受精卵から生まれてくる。どうやら進化の過程で、メスは精子を使わずに次の女王を産むようになったらしい。

 でも、労働力であるメスの働きアリは受精卵からしか生まれないので、女王は必要に迫られて交尾するけど、オスの方は肝心の新女王に自分の遺伝子を受け継がせることができない。そこでオスは何らかの操作をして、受精卵のメスの遺伝子だけを取り除き、自らの遺伝子だけを引き継ぐオス、つまり「息子」をつくっているようです。そこで、このアリはよく「家庭内別居」に例えられています。

ばく:オスとメスだけなのに複雑な関係ですね。

大河原先生:そうですね。こんな変わった生殖法を持つ「家庭内別居アリ」は、2005年にコカミアリという種で初めて発見されました。06年に僕がウメマツアリにもあることを発表しています。

 彼らは、オスとメスでそれぞれ自分の遺伝子を残そうと必死。アリたちを見ていると、「命のつながりを大切にする」という生き物としての根源的な部分に気づかされます。

 担当・奥野斐

びっくり200メートルの隊列

 20年余のアリ研究で最も印象に残っているのは、1995年、中米コスタリカのラ・セルバ自然保護区で遭遇したグンタイアリの行進。決まった巣を持たずに移動を続けるアリで、全長200メートル、幅10メートルの隊列が一面、森の地面を真っ黒に染め、濁流のように進んでいった。のみ込まれるかと思った。

写真

充実のグッズ、専門誌

 黒く、「ボン・キュッ・ボン」の愛らしい容姿から、アリ好きな人は結構多い。モチーフにしたグッズも少なくなく、研究室にも学生や知人からもらったぬいぐるみやマグカップ、てぬぐいがある。私が幹事を務める研究者と愛好家による「日本蟻類研究会」の会員は約200人で、年1回ペースで専門誌「蟻」=写真=を発行している。

お気に入りのアリ セレクション

 世界で1万種以上、日本でも約280種が確認されているアリ。中でも大河原先生が好きな「アリ・ベスト3」を紹介する。(右図は原寸大)

写真

(1)ツシマハリアリ 頭の形が三角にとがっていて格好いい。体長は約7ミリ。死んだマネをする。主に沖縄に生息している。

(2)ウメマツアリ 体長2ミリほど。細長いスラッとしたスタイルが魅力的。全国的に分布し、金沢でも見られる。名前の由来には「ウメマツ」さんが見つけたという説と、ウメとマツの木によくいるという説があるらしい。現在の研究対象。

(3)モリオオアリ 体長3センチの世界最大のアリ。迫力がすごい。私は標本も持っている。マレーシアなど東南アジアに生息。

おおかわら・きょうすけ

金沢大理工学域助教(生態学)

 1967年、埼玉県生まれ。北海道大地球環境科学研究科博士課程を卒業後、96年から金沢大に勤務。アリの研究は20年に及び、主に「ウメマツアリの繁殖様式」をテーマに取り組む。趣味はバードウオッチング。

若者にメッセージ 

 何かに熱中することが大事。小さなアリ1匹でも、世界は奥が深い。

 

この記事を印刷する

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索