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popress【Interactive】若い読者モニターの声を受けたニュース解説
 

バク・トゥ・ザ・ティーチャー 文化編 文豪 泉鏡花を知る

金沢市、ヨシエさん(仮名)年齢:30歳/職業:音楽講師/趣味:ドライブ、旅、読書/一言:「高野聖」を読み、その独特の世界観にはまりそう。好きな作家は村上春樹さん。

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目に浮かぶ 幻想世界

 朝晩はしのぎやすくなってきた今日このごろ。秋の夜長の過ごし方として、これまで「難しそう」と敬遠してきた文学や哲学、絵画とじっくり向き合ってみてはどうだろう。今回から始まる「バク・トゥ・ザ・ティーチャー」文化編では、3回にわたって北陸ゆかりの文豪、哲学者、画家の魅力に迫る。初回は幻想文学を築いた金沢出身の作家・泉鏡花。

【取材協力、写真提供】 泉鏡花記念館(金沢市)/穴倉玉日(たまき)学芸員

(担当・奥野斐)

「意外と難しくない」

ばく先生:鏡花は徳田秋声、室生犀星とともに「金沢三文豪」と称される。ヨシエさんは作品を読んだことがありますか?

ヨシエ:実は最近、代表作の「高野聖(こうやひじり)」を読んだところなんです。言葉遣いも意外と難しくなくて、物語の情景が浮かんできました。昔話みたいでおもしろかったです。

ばく先生:その通り、「幻想文学の先駆者」と呼ばれた鏡花は、目に見えない世界を描くのに優れていたんだ。例えば「高野聖」のこんな場面。

「(前略)私(わし)は其(その)まゝ目を外(そ)らしたが、其一段の婦人(おんな)の姿が月を浴びて、薄い煙に包まれながら向う岸の●(しぶき)に濡れて黒い、滑かな大きな石へ蒼味(あおみ)を帶びて透通つて映るやうに見えた(後略)」

 視覚でとらえる風景だけでなく、その場に漂う気配や空気感さえも伝わってくるようだね。細やかな描写や豊かな色彩表現で、神秘的な世界観を醸し出しているんだ。他の作品にもしばしば出てくる妖怪や怪物といった非現実的な存在も、妖しげでロマンチックな魅力に一役買っているよ。

ヨシエ:なるほど。

ばく先生:そして、鏡花作品で忘れてはならないのが「女性」。母性と魔性を兼ね備えた、男性から見た理想の女性が数多く登場する。

ヨシエ:「高野聖」に出てくるなまめかしい女性も印象に残っています。

ばく先生:鏡花は九歳で母親を亡くしていて、母性的なものへの思いは人一倍強かったと言われている。亡き母の姿を通して、人間が本来持っている美しい部分を追い求めていた。例えば愛を貫いたり、人を信じたりすることに誰しも憧れはあるだろう? そんな美しさや強さを凝縮して、作中の女性に投影したんじゃないかな。

ヨシエ:幻想的な世界と、母への思いが大きなテーマなんですね。

ばく先生:そう。時代や価値観が変わっても揺るがない普遍的な部分を描いているから、現代でも鏡花ファンが多いのかもしれない。演出家の蜷川幸雄さんも作品を舞台化しているし、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんはライフワークとして鏡花作品に向き合っているね。

ヨシエ:幻想的な鏡花の世界観を、お芝居でも味わってみたいですね。

●=サンズイ偏に散

 「高野聖」のあらすじ 旅の僧が飛騨から信濃へ峠道をたどる途中、山奥の一軒家で一夜の宿を乞うと、そこには美しく妖艶な女とその亭主が住んでいた。女は母性的でありながら、旅の男を誘惑し、馬や猿の姿に変えてしまう。

春陽堂版鏡花全集より

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鏡花らしさ 象徴する文章

母への思慕強く

「春昼後刻」 乳房求める男児の姿

 作品「春昼後刻(しゅんちゅうごこく)」の一場面にも、早くに亡くした母親を求める鏡花の強い思いが表現されている。

 偶然出会い、言葉を交わさぬまま強く引かれ合った男と女。だが、男は身を投じ、女も後を追う。男が亡くなった場所と同じ岩場で見つかった女は、浜辺で波にさらわれたある男児の亡きがらを抱いていた。

 その子は女の乳房に顔を寄せ、女の姿は美しく艶やかでさえあった…。

 母親の象徴とも言える乳房を求めるかのような男児の姿に、鏡花の亡き母への思いを読み取ることもできる場面。この男児は、現世では一緒になれず身を投じた男女の間に生まれた子の役割をしているとも考えられている。

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デザインへのこだわり

 鏡花本の多くは、装丁や挿絵を当時の人気装丁家小村雪岱(せったい)や、日本画家鏑木清方が手掛けた。作品世界を表現するため、時には事前に原稿の大半を見せるほどこだわったという。デザインは美術界からも注目されている。

お薦めの作品

 幻想的な作風と、母への思慕が大きなテーマの鏡花作品。ジャンルごとに初心者にお薦めの作品を紹介する。独特の文体、世界観を味わうには音読も効果的。物語を理解しようと思わずに、情緒や雰囲気を楽しみたい。

外科室

男女の秘めた愛描く

 男女のプラトニックな愛を描いた短編。外科室を舞台に、胸部切開の手術を受けることになった貴船伯爵夫人と、担当する医学士高峰との秘めた愛がテーマ。女性の方が共感できる人が多いかも。

龍潭譚(りゅうたんだん)

幼少期投影する少年

 幼くして母を亡くした少年が神隠しに遭い、異境で母を思わせる女性に愛しまれて現実世界へと戻ってくる物語。幼少期の鏡花の投影とおぼしき少年が登場し、母親への思いが色濃く表れている。

露宿(ろしゅく)

人間性表す震災体験

 関東大震災の被災体験を描いた異質の随筆。人々が非常時において助け合う姿に、人の世の希望を見いだそうとする作品。美と幻想というベールに包まれた鏡花の真の人間性が伝わってくる。

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泉鏡花(いずみ・きょうか、1873年〜1939年)

本名:泉鏡太郎

出身地:金沢市下新町(泉鏡花記念館は生家跡)

代表作:「高野聖」「春昼(しゅんちゅう)」「婦系図(おんなけいず)」など

家族:元芸妓(げいぎ)の妻すずとは、2人の関係を認めなかった鏡花の師尾崎紅葉の没後に結婚した。

エピソード:潔癖性で火を通してないものは一切受け付けず、好物の湯豆腐を食べる時でさえ生の薬味は口に入れなかった。

 

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