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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

金箔に私色の輝き 截金ガラス作家 山本茜

截金を封じ込めたガラス作品を前にする山本茜さん=京都市右京区で

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 ガラスに封じ込められた金の文様が光にきらめき、透かされ、立体的な美をつくり上げる。金箔(きんぱく)の産地、金沢市に生まれた山本茜(36)は、細かな文様を金箔で描く截金(きりかね)とガラス造形を組み合わせ、独自の表現を切り開いた。緻密さや難しさゆえ、まねできない技法は、普遍的な美を追い求める試行錯誤から生まれた。(聞き手・角雄記)

−当初は日本画家を目指していた。

 センター試験の少し前、等身大の美人画のポスターに引き込まれて、日本画家の上村松園さん(1875〜1949年)の展覧会を見に行きました。それまで大学では美術史の勉強がしたいと思っていたのに、会場を出る時には「松園さんのような日本画を描きたい」。

 急場しのぎでしたが、センター試験後から芸術系の予備校で鉛筆デッサンや彩色を学び、京都市立芸術大に進学しました。

源氏物語を題材にした作品の一つ「朝顔」

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好きな絵描けず休学

−在学中に截金を知った。

 大学の日本画コースの教授は、古い日本画を打ち破ろうと考える人で、松園さんのような絵を目指して描いていると、「古くさい、こんな絵を描く時代は終わった」と怒られ、作品を絵の具でグチャグチャにぬられてしまった。

 描きたい絵を描けず、落ち込んで休学していた時に、古い絵画の技法を学ぶ模写・水墨画コースがあると知り、3年生から移りました。絵の具を均一に塗る方法や色の作り方など日本画の基本から教わり、歴史や文献の研究にも取りかかりました。

 唯一、大学で勉強できなかったのが截金。平安時代の仏教画に使われているのを見て、一枚の絵にかける手間の多さに驚きました。ぜひ学びたいと、截金の重要無形文化財保持者(人間国宝)の江里佐代子先生に、何度か手紙を書いて教えを請いました。

 最初はお返事をいただけませんでしたが、独学で制作した截金の作品を同封したところ「そこまで学びたいなら」と招いていただきました。金箔を焼き合わせる方法など技術面に加え、古くから受け継がれる截金に取り組む上での心構えなどの指導も受けました。

「一から作品」技法考案

−その後、独自の「截金ガラス」の表現にたどりつく。

 生前、江里先生は「截金の作品を工芸展に出品してみなさい」と勧めてくださいました。「未熟だから」と断っていましたが、先生の期待に応えられなかったことが心残りで。大学の非常勤講師の仕事を終え、自分の時間を持てるようになり、「やらなきゃ」と。

 最初は自分で考えたデザインで木工師さんに器を作ってもらい、そこに截金を施した作品を制作。評価もいただきましたが、「一から作品を作り上げたい」という気持ちが湧いてきて、ガラス造形に截金を封じ込めることを思い付きました。

 ガラスを選んだのは透明で截金が三次元に美しく見えるだろうと思ったから。それに木工の器だと表面に触れると截金が取れてしまい、実用に耐えられない。ガラスに入れることで、そうした欠点も克服できました。

 富山ガラス造形研究所で吹きガラス、バーナーワーク、鋳込みといった一通りの技術を学びました。截金を入れてガラス同士を溶着させようとすると、金がガラスに溶けたり、模様が崩れたり。ガラスと金の溶ける温度が非常に近く、難しかった。

 電気窯の昇温のスピードや、窯に対する作品の大きさなど、データと経験を積み重ねてようやくうまく焼けるように。「これで作家としてやっていける」と、2011年に京都の山奥に個人工房を設立しました。

−「源氏物語」への思い入れが深い。

 もともと平安時代の美しい世界へのあこがれがあって、今は源氏物語54帖(じょう)の印象深い場面を題材に制作しています。どれも自分なりの作品のイメージはあるけれど、今の自分の技術では制作が難しい帖も。もっと試行錯誤を重ねて技術の引き出しを増やさないと。全54帖の制作を終えた時には、どんなガラス作品も作れる自分がいるはずです。 (敬称略)

截金の作業の様子

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 截金 金箔数枚を焼き合わせて厚みをもたせ、三角形やひし形、細い線状などに切って張ることで文様を描く技法。シルクロードを通じてアジアへ伝わった。日本には仏教美術とともに伝来し、仏像や日本画などの装飾に用いられてきた。仏教美術の衰退とともに技術者も減ったが、浄土真宗の東本願寺、西本願寺の保護を受けた少数の技術者が受け継いできた。現代では工芸品の装飾などに応用されている。

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 やまもと・あかね 截金ガラス作家。日本工芸会正会員。1977年、金沢市生まれ。2001年に京都市立芸術大美術科日本画(模写・水墨画)専攻卒業。在学中から截金の重要無形文化財保持者(人間国宝)の江里佐代子さん(1945〜2007年)に師事した。08年に截金を施した短冊箱「天の川」で日本伝統工芸展で初入選し、作品は宮内庁買い上げに。09年から2年間、富山ガラス造形研究所(富山市)で学び、11年に京都市右京区に個人工房を設立した。ほかの受賞歴に、国際ガラス展金沢2013奨励賞など。

 ※次回は21日付Spot&Place。 輪島塗の工房を巡り、漆の文化や職人の思いに耳を傾けます。

 

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