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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

本質に迫る“空っぽ感” 画家 日野之彦

作品(左)「マネキンが見ているよ」2013キャンバスに油彩145.5×112センチ(右)「マネキンを持つ」2011キャンバスに油彩194×130.3センチ

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 ブリーフ1枚の姿で目を丸く見開き、魂が抜けたような男。一見、奇抜な表現にはしかし、美への真摯(しんし)な思いが秘められている。石川県輪島市出身の画家、日野之彦(37)=東京都在住。彷徨(ほうこう)を経て行き着いた独自のスタイルで、描く対象がまとう感情や時間性をはぎ取り、本質に迫る挑戦を続ける。

場所、時間、音を消す

 −独特な表現です。

 物語性や意味が見いだせないような絵を描いている。絵は色とか形が特質。そこに向けて洗練させていきたい。場所、時間、音、湿度がない、空っぽな感じ。感情が表れない方が美しいし、物語性を消せば、物の本質に迫れると思っている。

 −子どものころから絵を描くのが好きだった?

 小さいころ、ばあちゃんの脇で富士山と飛行機を描いていた。何でか分からないけど好きだった。将来は画家より、輪島塗の職人になるようなイメージだった。高校で美術部に入って、同級生に美大の道があると教えてもらった。関東に行きたくて筑波大を受けた。

 筑波は保守的で、ヌードデッサンや静物を多く描いた。しっかり見て、ちゃんと描く訓練。それは今も生きている。美術を勉強するほど、見た物そのままの絵は認められないと分かり、3年のとき、何を描いていいか分からなくて描けなくなった。

 4年になって、どうせ画家になれないならと開き直った。美術じゃなくてイラストでもいいやと。大学院に進んだら、コンクールでいくつか賞をもらった。絵を描いて生活できるかもと、修了して東京に出た。

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 −絵は売れましたか。

 上京してすぐ、銀座で高いお金を払って個展をやった。1枚も売れないどころか、人も来なかった。急いでバイトを探した。最初は居酒屋。健康診断のスタッフ、クリーニング店、チラシを折る仕事も。院生のとき、賞金で最初に30万円、次に300万円もらっていた。お金がなくなるまでは粘ろうと。

 どうせ売れないならと開き直って、もっと写実的な絵を描くようになった。それまで想像で描いていたが、写真を使うようにしたら、空っぽな感じが急に見えてきて、今のスタイルができた。2年後にまた個展を開いた。やっぱり一つも売れなかったが、見てくれる人は増えた。

 フリーター時代はすごく不安だった。就職活動して、正社員の面接を2、3社、大学の講師も2、3回受けたが全然ダメ。お金がなくて自転車操業だった。

フリーター経て渡印

 −それでインドに行った。

 3年でお金が尽きて、東京よりも少ないお金で暮らせるインドに。とにかく逃げ出したかった。インドでは、人がシンプルに生きている感じがした。仕事ぶりもすごい適当。こんな適当でいいんだったらオレもやれると。

 3カ月後に帰って、茨城県の高校に美術の講師として採用された。週5回、朝から夜まで。土日は休みだし、平日も仕事が終われば描ける。この間にVOCA賞をもらい、結婚もした。2年後、人員削減で美術の授業がなくなり、またインドに行った。1年間、絵を日本に送って生活し、妻が妊娠して帰国した。

「死んだらどこに行く」2010キャンバスに油彩194×162センチ

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 インドでは、偶像のイメージが強烈だった。自分の手や足を食べていたり、首が切れていて、噴き出す血を自分で飲んでいたり。市場に動物の首もいっぱい置いてあった。皮をはいだヤギとか。美術も派手。見た目のインパクトがすごくて、僕も絵の背景を花で埋め尽くしたりするようになった。描けるだけ描いてやろう、みたいな変化はあった。

輪島育ちの職人気質

 −どこが自分の絵の長所だと思いますか?

 輪島出身だからか、良くも悪くも職人的な所がある。質にこだわるタイプ。内容、発想、オリジナリティーよりも、作品の完成度。形がどれだけ正確か、厳しく突き詰めているか。ただバラをバラらしく、人を人らしくというのではなく、空気感がシャープに出てくるようにと考えている。

 2010年に多摩美術大の講師になった。学生の作品にコメントしたり、いろんな作家に会ったり、一気に世界が広がって、勉強不足に気付かされた。やるべきことがいっぱい出てきて焦っています。 (敬称略)

 聞き手・日下部弘太

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 ひの・これひこ 1976年、石川県輪島市生まれ。輪島高校から筑波大芸術専門学群美術専攻洋画コースに進み、99年卒業。2001年、同大学院芸術研究科修了。03年、トーキョーワンダーウォール賞。05年、平面作品で若手の登竜門として知られる「VOCA展」でVOCA賞を受賞。06〜07年、インド・西ベンガル州シャンティニケトン滞在。10年から多摩美術大講師。

 ※次回は9日付Love&Sex。食欲の秋、食べて美しく元気になる「モテ料理」を特集します。

 

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