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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

イルカと人 笑って共生 ドルフィンスイムインストラクター 近本杏里

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 幼いころに写真集でイルカに一目ぼれした金沢市出身のドルフィンスイムインストラクター、近本杏里(31)は、石川県の能登島や東京都の三宅島でミナミバンドウイルカと泳ぎ、その魅力を伝えている。世界の最北端に生息する希少な能登島のイルカは昨今、追い回す水上バイクなどに生態を脅かされている。野生のイルカと人間が共存する地域にしたいと、海に陸に奔走する。(聞き手・兼村優希)

能登島の群れ守りたい

−イルカが大好き。

 目が合うと時間が止まりますよ。カメをひっくり返して遊んだり、タコをネックレスのように首にぶら下げたりと、ちゃめっ気たっぷり。船で近づくと、ちゃんとあいさつしに来てくれて、頭いいなあって。

 ミナミバンドウイルカは暖かい海に生息するのが一般的なのに、12年前、なぜか能登島にすみ着いた。餌が豊富で外敵が少ないからかもしれません。厳しい寒さに耐えるため、厚さ10センチの脂肪をつけて。そんな環境でも愛嬌(あいきょう)を忘れないのが魅力的。

東京都・三宅島の海でミナミバンドウイルカの群れと泳ぐ近本さん(中)

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−きっかけは一冊の本だった。

 小学生のころ、父がくれた水中写真の本に、イルカと泳ぐ水泳選手を見つけた。「このお姉さんになりたい」。飼育員を志し、水族館に電話したんです。この仕事って枠は少ないけど、希望者は多い。どうやったらなれますかって聞いたら「コネです」って(笑)。

−挫折ですね。

 自分を見つめ直し、夢が明確になった。「野生のイルカと泳ぎたい」。諦めようと思ったことは一度もない。常に心の真ん中に「イルカ」があったから。

 海に近づきたくて、東京でダイビングインストラクターをしたり、オーストラリアに渡ったり。けれど、自分の求める姿はどこにもなかった。がっかりして帰国した2011年、ふとダイビング雑誌を開くと、1ページ目に三宅島のドルフィンスイムが載ってた。「これだ」と、電話したら採用。やっと夢がかなった、ここで一生働こうって思いました。

丸写真は七尾湾にすむミナミバンドウイルカ(紙面左上も)=石川県七尾市能登島で

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−故郷のイルカたちのピンチを知った。

 三宅島でドルフィンスイムを教えるために受けた東京都自然ガイドの講習で、能登島にはイルカたちを守る条例がないと知った。規約はあるけど、守らない人も多い。禁じられている水上バイクでイルカを追い回したり、応急救護の仕方を知らない漁師さんがお客さんを船に乗せてイルカと泳がせたり。しっかり安全管理されていないままでは事故が起きる。どうしよう、地元がおかしなことになってるって焦りました。

−そこで「能登島ドルフィンプロジェクト」を始めた。

 能登の大切な観光資源として、世界最北端にすむ希少なイルカと接するガイドラインを作ろうと、昨年末に設立された石川県の活性化に取り組むNPO「ネクスト・ジェネレーション・ネットワーク(NGN)」の理事に就きました。三宅島では船を出す時間や泳ぐ前のトレーニングなど細かい決まりがある。これを能登島に取り入れるため、地元の漁師さんと話し合いを進めています。

 金沢から七尾湾に行き、イルカを船から見たり、一緒に泳いだりするツアーを今年6月に始めました。水上バイクに追われたりして、イルカたちがいつも過ごしている入り江を出て行くことが昨年ごろから増えた。自分たち人間の行動で追い出されるなんて悲しい。ガイドラインを早く整備しないと。

−それが今の夢?

 この活動は、夢というより使命。私の夢は、全ての人がイルカで笑顔になること。自分で撮った映像や写真を見せて、水族館のイルカしか知らない子どもに海へ興味を持ってもらったり、外に出る機会の少ないお年寄りを癒やしたりできればいいな。 (敬称略)

ガイドツアー参加者にフィン(足ひれ)の着け方を説明する近本さん(右)=石川県七尾市能登島佐波町で

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赤ちゃん かわいさ夢中

ガイドツアー 記者が体験

 近本さんのガイドで今月8日、能登島のイルカたちを観察し、一緒に泳ぐツアーに記者(24)も参加した。慣れないウエットスーツを着て、泳ぎ方を学び、向田漁港から船に乗った。「イルカに触ったり、フラッシュ撮影したりしないで」と近本さん。

 5分ほどたつと、水面にイルカ数頭の背びれが! 3キロの重りを腰に巻き、水中へ。群れの進行方向で待ち、近づいてくると潜る。

 ここ数日の雨で視界の悪い水中、スタッフの掛け声に従って潜り続けること30分。すぐそばを6頭のイルカが次々と通り過ぎた。最後尾には7月に生まれたばかりの赤ちゃんイルカ。つぶらな瞳に息苦しさを忘れて見入った。

    ◇     ◇

 次回のツアーは10月6日。内容や料金の問い合わせはNGN=Eメールdolphin.ngn@gmail.com=へ。

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 ちかもと・あんり 1981年金沢市生まれ。石川県立金沢向陽高校を卒業後、東京や金沢でダイビングインストラクターとして活動。1年間のオーストラリア生活を経て2011年から東京都自然ガイドの資格を取得し、夏は三宅島でイルカと一緒に泳ぐドルフィンスイムインストラクターを務める。12年冬、地域活性化に取り組むNPO「ネクスト・ジェネレーション・ネットワーク」理事に就いた。

 ※次回は25日付Spot&Place。金沢市寺町の寺院群を巡ります。

 

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