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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

器彩る和洋の美 九谷色絵作家 牟田陽日

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 どこかポップな色彩で緻密に動植物が描かれた九谷焼の器を見つめると、幻想的な物語が浮かび、なぜか西洋の森にいるような気分になる。九谷色絵作家、牟田陽日(31)は西洋と日本、現代美術と工芸といった境界を軽やかに飛び越え、独自の美に融合させる。目指すのは、現代の日本人から見た「ジャポニスム」だ。

文様 ゆがみ 大胆に

−出発点は現代美術。

 幼いころ、お絵描きから始まり、漫画や映画、ゲームなど創作物全般が好きで、表現の世界に行きたいなと。

 アニメーション、漫画にどっぷりつかっている世代。サブカルチャーも文化的にすごく優れた内容や精神性を持つ作品がある。美術とサブカルチャーを線引きせず、同じように影響を受けてきた。

 現代美術はコンセプトを構築してからふさわしい表現を選ぶ。しっくりきた。東京の美大に入ったけど、現代美術は西洋で培われたもの。西洋の教育を受けていない先生から教わるのは伝聞の伝聞で、もやもやして。ヨガをやっている人が本場のインドで教わりたいと思うのと同じ意識で、ロンドン大のゴールドスミスカレッジへ。

−英国ではどんな作品を。

 自然と人間の関係性を考える映像作品が多かった。自然への畏怖や敬意、憧れ、人間が自然に抱くイメージと実際とのギャップ。東京で育った影響が大きい。人工の公園はあるけど、川も山も身近にない。自然の欠落からテーマが生まれた。動植物に対する好奇心や欲望を投影して、今もつくっている。

作品写真はすべて牟田さん提供

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−なぜ九谷焼の世界へ。

 展示期間だけ存在する映像やインスタレーション(空間芸術)をやってきて、反動か、生活の中に残るものをつくりたくなった。人が触って、使っていくことに興味がわいた。

 イギリスのアーツ・アンド・クラフツ(芸術を実用品のデザインに応用する運動)やビクトリア時代の焼き物は装飾的で、緑や黄色といったけばけばしい色を生活に取り入れていて、人間くさい面白さがある。共通性を九谷焼に感じ、石川県立九谷焼技術研修所で技法を学んだ。

 Cabinet of curiosities(驚異の部屋)といって、中世のころ、西洋の富裕層が奇妙きてれつなものを集めて展示した。そんな好奇心をそそるような器がつくりたくて。最近の日本はシンプルな傾向が目立つけど、面白いゆがみや装飾の文様をもっと出したい。

 文様はプランクトンや微生物、クラゲの形から描くことも。何かしらと、見た人が思う作品の幅、揺らぎを大切にしている。作品から見えてくる物語性は一人一人で変わる。

−日本と西洋の融合を目指している。

 若い世代にとって日本の伝統的なものは、なじみが薄く、もはや異文化のよう。かつて浮世絵の影響を西洋の作家が表現に取り入れたジャポニスムのように、現代の日本人である自分が日本の美、和をどれだけ作品に出せるかを意識している。

 現代美術から九谷焼にうつり、「がっかりした」と言われた経験もあるけど、気にしない。「フレキシブル」が、自分のやり方。縛られない。焼き物は経年劣化せず、造形にも向く。素材として深いから、すごく面白い。文様を発展させてインテリアやファッションに取り入れるとか、いろんな媒体や素材とのコラボレーションもやりたい。

−若手陶芸家が競う「イケヤン☆」で2012年、グランプリに。

 展示が増えて、最近、ごはんと寝てる時以外は制作。何をつくろうかと、いつも考えている。プレッシャーは、ない。ぽんぽん、いいアイデアが浮かぶわけじゃなくて、ぐちょぐちょしてたり、かみ合わなかったり、混沌(こんとん)の中にあるけど。

 厳しい世界だから、5年、10年先を見ないと、作家として食べていけるか分からないけど、わたしはフレキシブルなので、ごはん食べるためなら、何でもやってやろうって。他の人が躊躇(ちゅうちょ)する、しょうもない仕事も普通にやってそう。何でも面白いと思う。      (敬称略) 聞き手・押川恵理子

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 むた・ようか 1981年、東京都三鷹市生まれ。2008年にロンドン大ゴールドスミスカレッジファインアート科を卒業。同大はダミアン・ハーストら、90年代当時に若手だった英国の著名芸術家、YBA(Young British Artists)を輩出したことでも知られる。10年から石川県立九谷焼技術研修所(能美市)で2年間学ぶ。12年に若手陶芸家の交流イベント「イケヤン☆」オーディションでグランプリを受賞した。

  ※次回は7日付Spot&Place。福井県坂井市で文学に登場する風景を巡ります。

 

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