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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

「人間って何」 全身で書く 劇作家・演出家 蓬莱竜太

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 人間関係にひそむ愛憎や戦いを深く見つめ、舞台に浮かび上がらせる劇作家・演出家の蓬莱(ほうらい)竜太(37)。今春上演された沖縄戦をめぐる芝居「木の上の軍隊」は、大先輩の故井上ひさしが残した原案から独自の物語を紡ぎだした。人間への尽きぬ興味が、創作の源。その基盤は多感な思春期を過ごした石川県で培われた。(聞き手・押川恵理子)

日常、ひもとけば劇的

−石川県で演劇と出合った。

 絵が好きで入った高校の担任が演劇部の顧問で、活動は週2回と聞いて入部したら、夏休み返上の合宿。運動部より過酷だった。

 他校の作品を初めて見た時に、もっと自由につくりたいと思って、自分たちで台本を書くことに。高校2年からは基本的に僕が担当。絵は1人で意識通りに描くけど、演劇は人の体を使って制約がある。不便の面白さ、第三者を介在して創る楽しさを知った。

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石川での思春期が原点

 中学1年の夏に神戸から石川へ。精神的に定まっていない揺れる時期の転校。初めての言葉と出合い、人間の質も関西と違う。順応するしんどさと戦ってて、毎日必死だった。

 人間関係の難しさ、人におびえる感覚は今も作品に出ている気がする。高校で芝居と出合い、ようやく心を許せる友だちができ、やりたいことが見つかったのが救いだった。

 演劇の学校に進み、卒業して同期生と劇団をつくった。人間関係がうまくいかず、公演2回で解散、舞台設営の会社に就職した。演劇活動から離れて2、3年、同期生から公演を持ち掛けられた。

 半ばあきらめていた世界。人は挫折し、うまくいかない時の方がドラマを感じる。そういうものが書きたいと、はっきりしていたから、演出も具体的にやれた。けんか別れした仲間が反省点を持ち寄り、1回のつもりが、その後も続いて、現在の劇団「モダンスイマーズ」に。

−「木の上の軍隊」の脚本家に抜てき。

 2年前の夏、劇団「こまつ座」の井上麻矢社長(井上ひさしさん三女)から依頼があった。僕が断っても他の作家には持って行かないと。プレッシャーより、具体的に書きたいものが心に湧くかどうか。その判断から始まった。

 舞台の沖縄県伊江島に行き、ガジュマルの木を見て、新兵だった佐次田秀順さんの息子さんから話を聞いた。戦争は自分の体に実感がないし、意識的に引っ張って扱える題材でない。沖縄の現代とつながらなきゃ意味がないとも思い、どう書こうか1年ほど悩んだ。

井上ひさしの遺志継ぐ

 プロット(筋書き)を1回出した後、井上ひさしさんの書庫、山形県の遅筆堂文庫に行った。入った瞬間に自分のプロットは、だめだと思った。ものすごい本の量で、沖縄に関しても、すごい量で。作家の情念を感じた。

 井上さんの覚悟を目の当たりにして、自分は逃げてんのかなって感覚に襲われた。最初は役者の人数を多くしてたけど、少人数に絞り、木の上の上官と新兵の話を真っ正面から書くと決めた。

 戦争、日本と沖縄というと、難しい社会的な問題に捉えがちだけど、背景は人間的な戦いで、僕たちが生きる社会にもある。人間的な話にしたかった。

 演劇は全く新しい人間関係をつくり、自分じゃない役を演じる。どれだけ他人に対して想像力を持って生きているかに尽きる。

−「正直に書く」ことを貫く。

 文章の技術があると、分かったふりして書きがちだけど、本当に自分の体を通っているか、書きたいことを理解しているかが大事。

 作為や自分を良く見せたい本能だけで書くと、すごく良くない。作家は登場人物を殺し、生き返らせることもできる。ご都合主義にならないことが必要。

−書きたいテーマは。

 人間って、どういう生き物なんだろうって。複雑で多面的。僕たちが認識する集団のルールや人間関係は、他人の目線から見ると全く違うはず。家族でも。

 人生は自分の目線でしか捉えられないけど、演劇は多面的に描ける。日常って、平凡なようで、繊細にひもといていくと、スリリングで劇的。それをお客さんに体験してほしい。 (敬称略)

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木の上の軍隊 

 2010年4月に75歳で亡くなった日本を代表する劇作家、故井上ひさしさんが最期まで書こうと意欲を燃やした芝居。沖縄戦の激戦地、伊江島が舞台で、米軍の攻撃から生き延びた本土出身の上官と沖縄出身の新兵が、ガジュマルの大木に身を隠し、敗戦を知らずに約2年過ごした実話に基づく。井上さんの脚本で2回上演を試みるが、実現しなかった「未完の遺作」は今年、蓬莱竜太さん、栗山民也さんの演出で新たな作品として上演された。

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 ほうらい・りゅうた 1976年生まれ、神戸市出身。中学1年の夏に親の転勤で石川県羽咋市へ。県立羽咋工業高校デザイン科を卒業し、東京都の舞台芸術学院に進学。99年に同期生と劇団「モダンスイマーズ」を旗揚げし、全公演の作・演出を担う。劇団を超えて活躍し、舞台版の「世界の中心で、愛をさけぶ」「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」などの話題作や映画の脚本も手掛ける。2009年、出産などをめぐる女性たちの葛藤を描いた「まほろば」で第53回岸田国士戯曲賞を受賞した。

※次回は10日付Attention! 激しいスポーツに魅せられた女性に男性記者が体当たりで取材します。

 

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