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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

平和芽吹け 命の紙芝居 住職 佐冶妙心

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 広島、長崎に落とされた原爆によって命を奪われた少女の思いを紙芝居に込め、平和の尊さを15年語り続ける佐治妙心(26)。小柄な体を大きく動かし、時に悲しみの表情で顔をゆがめて訴える姿は共感を呼び、国内外の上演は450回を超える。6月には金沢市でも講演。戦後生まれの「語り部」を突き動かす情熱は、どこから来るのか。(聞き手・押川恵理子)

被爆死少女の思い伝え15年

−なぜ紙芝居を。

 本を読むのも絵を描くのも好きで、学校ではよく賞をもらいました。そのたび「また麻希ちゃん」と陰口。幼少時からずっといじめられてきました。仲間外れより言葉の暴力がつらかった。

 心のよりどころが、先々代住職のおじいちゃん。第2次大戦中、ビルマ(ミャンマー)に通信兵として出向き、次々と息絶える戦友たちに「生きて日本に帰れたら迎えに来る」と約束した通り、遺骨収集を生涯続けました。自ら行動する大切さを教えられ、私も頑張ろうと思えた。

 朝は午前5時に起きて6時に読経、掃除をして8時に朝食。山深い寺の境内は広く、掃除と法事を勤めると1日が終わる。自身は一人っ子なので、結婚してたくさんの子どもを育てたいと願う。理想の相手は背が高く優しくて子ども好きな人。

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いじめで自殺考えた

 小学3年の時、そのおじいちゃんが亡くなった。孤独を感じ、こんなに苦しくてつらい人生ならもう終わりにしたいと思った。校舎3階の窓から身を乗り出した瞬間、前年に広島市の平和記念公園で見た佐々木禎(さだ)子ちゃんの折り鶴が、頭に浮かんだ。衝撃的な遺品が並ぶ中、悲しみだけじゃなくて温かみもあった折り鶴。私は今生かされている。生きたくても生きられなかった彼女の思いを精いっぱい伝えなきゃと。彼女から第二の人生をもらいました。

 禎子ちゃんの紙芝居を作ったのは6年の時、日常にも戦争の芽があると伝えたくて。それは、いじめです。何げなく使っている言葉、目線ひとつでも誰かを深く深く傷つける。

−共感は海外にも広がっている。

 2010年5月、ニューヨークであった核拡散防止条約(NPT)の会議に呼ばれ、紙芝居を読みました。禎子ちゃん、長崎の林嘉代子ちゃんの純粋な祈りを伝えたい一心で。原爆を投下した米国を責める気持ちはありません。加害、被害を一方的に主張していては真の平和は訪れないから。

 米中枢同時多発テロ跡地の追悼施設に、禎子ちゃんの折り鶴が1羽寄贈されています。千羽鶴をささげに行き、テロ犠牲者の遺族に話し掛けられました。折り鶴を米国でも平和のシンボルにしたいと。愛する人を守りたい気持ちは皆同じと実感しました。

胸に刻んだ戦争悲劇

−ポーランドでも上演し、アウシュビッツの収容所を訪れた。

 義足や眼鏡、人の髪の毛で作ったじゅうたん、赤ちゃんの靴などが山のように積まれ、1歩歩くたび、ここで命を奪われた人がいると。一つでもいいから命のメッセージを持ち帰って伝えたいと思いました。見て感じたこと、怖かった思いを自分の中にしまっていては、ただの観光。

 日本人ガイドが「ナチス・ドイツのとんでもない殺人だけど、悪化させた存在は傍観者」と嘆いていました。見て見ぬふり、自分さえ良ければという気持ちが大きくなって、戦争やユダヤ人の迫害を終わらせなかった。いじめも同じです。

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心配りの輪広げたい

−紙芝居は広島、長崎、沖縄の3編。11年の震災以降、広島編を語ることができない。

 原発事故による放射能の問題は深刻です。特に福島の子どもたちのことがとても心配。紙芝居には傷一つなく元気だった人が被爆のため、次々と亡くなる場面があります。聞いた人に不安や恐怖心だけが残らないか。心を傷つけてしまうかもしれないと悩み、今は長崎編を読んでいます。

 長崎編も原爆がテーマですが、娘の生存を信じ捜し続けた母親の目線で描いた物語です。戦時中、一緒に生きたくても生きられなかった親子が大勢います。家族の絆を見つめ直すきっかけになれば。

−思いやりの大切さを訴えている。

 自分だけで精いっぱいになり、心がぺちゃんこでは相手を思いやれません。いつも隣に居てくれるとは限らないし、親切は当たり前じゃない。どんな小さな幸せにも「ありがとう」と口にすることで、心は丸く大きく膨らみます。そうして心配りの輪が広がってほしい。戦争を止めることは一人一人の心から始まります。 (敬称略)

 佐々木禎子さん 2歳の時に広島市で被爆し、9年以上たって白血病を発症。回復を願って折り鶴を作り続けたが、12歳で亡くなった。同市の平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデルとなった。像には毎年多くの折り鶴がささげられている。

 林嘉代子さん 長崎市の国民学校で学徒動員中、15歳で被爆死。母親が慰霊と平和の願いを込め、爆心地近くに桜の苗木50本を植えた。「嘉代子桜」と親しまれ、植樹は市民に引き継がれている。

 アウシュビッツ収容所 ポーランド南部オシフィエンチム(ドイツ名アウシュビッツ)郊外にあり、近くのビルケナウ、モノビッツの2収容所を含めた総称。第2次世界大戦中、ナチス・ドイツによってユダヤ人らが連行され、ガス室などに送り込まれて150万人が犠牲になったとされる。跡地は博物館として保存されている。

 さじ・みょうしん(旧名・麻希) 1987年生まれ、500年続く静岡県伊豆市の妙蔵寺住職。12歳で出家し、15歳から日蓮宗の総本山・身延山で修行した。戦没者の遺骨収集を続けた祖父の影響で、幼いころから戦争について学ぶ。小学6年の時、絵本「さだ子と千羽づる」(オーロラ自由アトリエ発行)を読んで広島編の紙芝居「祈りの折り鶴」を描いた。大学生で長崎編「さくらの祈り」、2年前に沖縄編「サンゴの祈り」を制作。

金沢で来月に講演

 6月に金沢市の3会場で紙芝居を上演し、講演する。

 1日13時 高木糀商店(東山1の9の3)/(電)076(252)7461

 同16時 広誓寺(昌永町13の25)/(電)076(252)3592

 2日10時 市近江町交流プラザ4階集会室(青草町88)/(電)090(3298)1852

 いずれも参加費は大人1000円、小中高生は無料。

 ※次回は25日付Spot&Place。用水を公平に分配する農業施設「円筒分水」の知られざる美しさを紹介します。

 

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