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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

紡ぐ 情念の世界 小説家 紅玉いづき

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 渦巻く欲望と策略、嫉妬、さげすみ−。それらすべてを揚力に、サーカスの少女は宙を舞う。金沢市出身の小説家、紅玉いづき(28)。魔の森で死を願う女の子の物語でデビューして6年。2月末に出版した最新作に至るまで、「情念」を描き続ける。強靱(きょうじん)な意志で逆境を生き抜く主人公たちに、書くことに取りつかれた人間の、秘めた覚悟をも込めて。

物書きで生きる 覚悟込め

−どうして作家になろうと?

 図書館に通って、親とか兄のカードも使い、30冊をリュックに詰めて帰ってくるような子どもだった。家族で私一人だけ、もっしゃもっしゃと食べるように読んでいた。最初に面白いと思ったのは、兄の科学雑誌にあった魔法使いの話。読んで興奮して、風呂に入っていた母に読み聞かせた。

 小学5年か6年のときに初めて小説を書いた。そのころ、集英社コバルト文庫の少女小説に出合い、心奪われてしまった。好きな作家さんの作品をたくさん読みたいけど少ない。だったら自分で書くしかないと。

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−書こうと思って、すぐ書けたんですか。

 読むことと書くことの間に境がなかった。読んでいて、「ここはこうなったらいいんじゃないか」とか、3ページで死んじゃうキャラクターを生かし、幸せになる未来にしたり。中学校の演劇部の友人とか周りも書いていて、遊びの一環だった。

 最初は親に隠れて書いた。勉強がおろそかになるし、反対されると思った。好きだから書き続けて、ずっと書き続けるためにはプロになるしかないと考えた。高校で文芸部に入って、高文連(全国高校文化連盟)のコンクールで文部科学大臣賞を受けた。ただ、それで作家への道が開けるとは思わなかった。

−大学時代は迷いもあったそうですね。

 コバルトの文学賞に投稿して落ち続けて、アマチュアで書いていく方が幸せだろうかとも考えた。最後の1年はいろんな賞に応募した。

 電撃小説大賞で大賞に選ばれたときは、うれしいというより「大丈夫かな?」と。その後担当の方から連絡があって、「あなたの書いているものを他に投稿しないで、全部私にください。どんな壁があっても、必ず作家にするから」と言ってくれた。私、食事も睡眠もちゃんと取って健やかな生活を送ってるんですが、その日はうれしくて寝られなかった。

 プロは、書かないと死ぬという世界に身を置くこと。有名になりたいとか、たくさんの人に読んでもらいたいと思ったわけではなく、ずっと書いていくために作家になった。

−強い意志を持った女性を主人公にしています。

 いろいろ書いてみて、男の子は面白くない、コメディーも下手くそ。女の子がウダウダしている話が面白いらしいと分かった。

 何をしたいか分からないという人が、私にはよく分からない。だから私の主人公はいつも物狂い。執念、情念があって、何かを得ようとしたとき、挫折と再生という物語になる。

−どんな生活ですか。やはり執筆は夜中?

 昼間に書くことも多い。書けるときに書いてしまうのが一番いい。私はどこでも、いつでも寝られる。1日に書ける分量は決まっていて、だから一番しんどいときは2時間寝て、起きて書いて、また2時間寝て。

 いつも、へったくそだな、書けてないなと思う。でも作家で食ってるからには幸せだと言いたいし、そうじゃないと高校時代の私に顔向けできない。大学のときは不安だったし、つらかった。だからどんなにしんどくても今は幸せ。

−今後の目標は。

 面白いものを、できることなら死ぬ日まで書いていきたい。本を出してもらえなくなったら、また投稿からやり直す覚悟はある。

 次に書けたらいいのはミステリー。初めて男の人が主人公で、金沢を舞台に書ければいいけど、まだ構想段階。「吾輩(わがはい)はミステリーである。トリックはまだない、なんて」と言っています。

  聞き手・日下部弘太

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紅玉ワールドを知る3冊

 ミミズクと夜の王 07年2月刊行。「村」の奴隷だった少女「ミミズク」が、生きることに疲れて魔の森に立ち入り、魔物たちを統べる夜の王に出会う。

 サエズリ図書館のワルツさん 12年8月刊行。ペーパーレス化が進んだ近未来で、紙の本を貸し出す図書館のスーパー女性司書「ワルツさん」と利用者の織りなす温かな物語。

 ブランコ乗りのサン=テグジュペリ 13年2月刊行の最新作。空中ブランコを演じる双子の姉妹を中心に舞台にすべてを懸ける「少女サーカス」の団員たちの生きざまを描く。

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人生のSpice

 【若木未生さん作の文庫本】 コバルト文庫の「LOVE WAY」(絶版)。子どものころ初めて買った少女雑誌で表題作の短編を読み、衝撃を受けた。そこだけ切り取ってずっと持っていた。かなり後に本に収録されたのを買って、作家になって若木先生に会ったときにサインしてもらった。今も霊感が落ちているときに読み返す。

「寄る辺」とは…

 釈迦(しゃか)が語ったとされる詩句を集めた仏経典「法句(ほっく)経」の一節。友松円諦著の「法句経講義」によると、「己をおきて誰によるべぞ」と続き、自分こそが自分の「寄る辺」すなわち頼りだと説く。

 こうぎょく・いづき 1984年、金沢市生まれ。金沢桜丘高校、金沢大文学部卒。2006年、「ミミズクと夜の王」で「第13回電撃小説大賞」の大賞を受賞しデビュー。ペンネームはリンゴとは関係なく、誕生石のルビーから。中高生を主な読者に想定したライトノベルから一般向けの小説まで幅広く手掛ける。著書に「ガーデン・ロスト」「ようこそ、古城ホテルへ」「RPF レッドドラゴン」など。

 ※次回は5月8日付Love&Sex。幼少時の性暴力被害と、回復の道のりについて考えます。

 

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