トップ > 北陸中日新聞から > popress > Human Recipe > 記事

ここから本文

popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

世界標準 鯖江で創る 「オープンデータ」の先導役

写真

 競争の激しいIT業界で、情報や人材が集中する東京ではなく、地方の福井県鯖江市から「世界」を狙う起業家がいる。ソフトウエア開発の「jig.jp」を率いる福野泰介(34)=石川県出身。自治体の持つ情報をインターネット上に公開し、市民に便利なサービスを民間主導で生み出す「オープンデータ」を進める。目指すは、ITによる健康で文化的な暮らしの実現だ。(聞き手・押川恵理子)

空気も水もいい環境

−起業以来、鯖江市に開発拠点を置く。

 東京に人が集まりすぎていることが不自然。普段から十分に接していないとできない仕事もあるけど、数回会えば、後はネット経由で進められる。上京するのは月3回ほど。

−地方で働く良さは。

 鯖江は空気がいいし、水もおいしい。通勤時間も短い。企業理念は「利用者に最も近いソフトウエアをつくる」。朝から晩まで働き、土日に寝ていては、世間から遠ざかる。社員の勤務時間は午前9時から午後6時。遅くとも午後8時には帰る。友だちやいろんな人の話を聞くことで自らも利用者の視点を持ち、アイデアを出せる。

−母校の福井高専(鯖江市)で後進の育成にも力を注ぐ。

 2001年から特別講義を続ける。ITの世界的な動きを教え、学生が通用する分野があると伝えている。ソフトの開発には工場もお金も要らない。パソコン1台あれば、ネットワーク上の部品は無料で手に入る。やる気に火がつけばうれしい。

「一日一創」を掲げ、福野さんが作ったアプリの数々

写真

不満はビジネスの種

−高専を卒業し、わずか1年で起業した。

 人から言われて開発するのも、研究して論文を書くのも嫌だった。渋谷を中心に第1次ITブームが生まれたころで、周りに「福井でもやったら」と言われ、高専の先輩と携帯電話向けのソフトをつくる会社を始めた。

 −10カ月で独立。

 最初の製品が売れず、結局、人に言われたものを開発するようになった。アルバイトと同じ。それどころか給料はバイト時代の半分。01年に携帯電話でアプリケーションが動かせるようになった。自分でやろうと独立した。不満を感じたら、ラッキーと思う。それを改善できればビジネスになるから。

−プログラムを始めたのはいつから。

 幼稚園のころから、テレビゲームがすごい好きだった。ゲーム機にパソコンをつなぐとゲームがつくれると知り、親に買ってもらった。小学3年で、0〜100までの数字を当てるゲームをつくった。

−ソフト開発を仕事に選んだ理由は。

 中学のころ、売れるゲームと自分が好きなゲームは違うと気づき、ゲームの開発者を目指すのはやめた。高専に進学し、福井県内の地震を予知するためデータを集めて解析する研究を手伝った。プログラムの精度で時間がすごく短縮され、これだと思った。ゲームの面白さは評価しづらいけど、1時間が3分、3秒に短縮できれば、それだけ価値が高い。

ご当地情報を教えてくれるjig.jp制作のアプリ

写真

市民との距離縮める 

−自治体のオープンデータを進めている。

 ソフトは扱える部品(情報)の多さで価値が決まる。行政のサービスは使いづらく、市民も期待していない。自治体はサービスの基になる情報を公開し、開発は民間に任せることで、細やかなサービスが生まれる。例えば、鯖江はスイーツのまち。市バスの運行情報があれば、目当てのケーキ店に向かうバスの経路や時刻表が一目で分かるアプリがつくれる。市民との距離もぐっと縮まると思い、10年末、鯖江市長に提案した。

−日本の動きは。

 この1年で鯖江市に続き、福島県会津若松市、千葉県流山市、金沢市、横浜市金沢区が始めた。ようやく世界に追い付いてきたが、米国ではエネルギー、教育、ビジネス、安全に関する情報を州、市単位で公開している。

−今後の目標は。

 オープンデータを活用し、世界に輸出可能なアプリや先進的なサービスを生み出したい。シリコンバレーを超える「鯖江モデル」を打ち立てる。ネットの時代、地方から世界は十分狙える。 (敬称略)

写真

人生のSpice

 【アユ釣り】 6〜9月は鯖江市から車で20分ほどの足羽川(福井県池田町)を訪れる。友釣りは釣果をただ待つのではなく、アユのコントロールに頭を使うため面白い。釣り歴50年以上の義父に教えてもらい、6年前に始めた。澄んだ空気のもと、バーベキューで食べる天然アユはおいしい。都内在住の友だちも招き、一緒に楽しんでいる。

写真

 ふくの・たいすけ 1978年、石川県内灘町生まれ。99年に福井高専を卒業し、2000年に高専の先輩2人と起業、携帯電話のソフトウエア開発を担当する。01年に独立し、アプリ開発の会社を設立。03年には株式会社「jig.jp」(ジグジェイピー)を設立し、ソフトの企画や開発、提供を行っている。本社は東京都新宿区、開発センターは福井県鯖江市に置く。産学官連携の「オープンデータ流通推進コンソーシアム」の利活用・普及委員会委員も務める。

 ※次回は4月3日付Work&Life。新たな道へ踏み出す若手を紹介します。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索