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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

制約を飛び越えろ 九谷焼窯元 上出長右衛門窯 上出恵悟

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 皮の凹凸や質感まで本物そのままに表現した白いバナナに、花模様をあしらった髑髏(どくろ)の菓子壺(つぼ)−。石川県能美市で続く九谷焼窯元の上出長右衛門窯で、6代目になる上出恵悟(31)は、今までにない挑戦的でユーモアあふれる作品を生み出してきた。伝統工芸、由緒ある窯元の跡継ぎという“縛り”を逆手に取り、「制約の中から自由が生まれる」と実感を込める。(聞き手・奥野斐)

上出長右衛門窯の伝統的な絵柄「笛吹」の人がスケートボードに

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−窯元のデザイナーとして皿や茶わんなどの商品企画に携わる傍ら、個人でも作品を発表している。

 比重は長右衛門窯の方が大きい。うちは明治から130年以上続く食器や茶道具を製造する窯元。パートナーを組む丸若屋さんと一緒に、スポーツメーカーと共同でパーツが九谷焼の自転車を作ったりと実験的なこともやってきた。スペイン人デザイナーと手を組んで食器も企画した。九谷焼を知ってほしいとか、後世に残していくにはどうしたらいいかを常に考えている。

(1)九谷焼で作ったバナナ「甘蕉房色絵椿文」

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 バナナ=写真(1)=や絵などは個人の活動で、長右衛門窯の仕事と創作スタンスはちょっと違う。でも最近は二つの境目がなくなってきていて、自分でも整理しなきゃと思うんだけど。

親は「帰ってくるな」

−大学卒業後に実家の窯元に戻った。

 大学は油絵の専攻で、ずっと制作面で悩んでいた。3年が終わった後、一度自分のルーツに立ち返って、九谷焼を勉強しようと1年間休学した。その時、日本のものづくりがだんだん元気がなくなっていることに危機感が募って、初めてどうにかしたいと思った。

 継ぐことへの反発はなくて、むしろ親からは帰ってくるなと言われた。この業界は食べていけないし、仕事もないし、上の世代は自分たちの代で終わらせるっていう人が少なくない。

 九谷焼は、それまでやってきた美術の世界とは発想がまったく逆だった。美術では表現したいことが先にあって、どんな方法が適切かを選んでいく。でも工芸だと、まず素材という強い縛りがある。バナナは僕が九谷焼で初めて作った作品で、大学の卒業制作になったんだけど、九谷焼で何ができるかを考えた時にマットな質感がすごくバナナの皮に似ていると思った。別に好きってわけじゃなくて(笑)。

【上】サドルやハンドルなどのパーツを九谷焼で制作した自転車「PUMA8−speedUrbanMobilityBike」(PUMAwithMARUWAKAKUTANI)【下】「KUTANISEAL」を貼った器

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自由すぎても難しい

−素材という縛りから自由になりたいことは?

 僕はある種の制約があった方が、自由になれる気がする。自らを「設定する」ことが大事だと思っていて。大学時代、課題も漠然としていて、自由すぎて、僕は何をしたらいいのかわからなくなった。課題はぎりぎりこなしていたけど、劣等生。選択肢が多すぎて何もできない人もいる。

 もともと九谷焼の土は造形に適していないし、工程も決まっているので、バナナを作りたいと話した時も職人さんたちに「房の上の部分は折れやすいから駄目だ」「できない」と言われた。そこでせめぎ合いがあるんだけど、制約を引き受けながらやっていく中でいい物も生まれる。

−窯元の跡継ぎという立場も一つの制約。

 プレッシャーはないけど、家族が続けてきたことをやめちゃったら悲しい。個人で活動することもできるけど、窯元の息子が面白いことやっているというのでみんなが注目してくれると思う。

(2)「髑髏お菓子壺花詰」(上出長右衛門窯×丸若屋)

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 髑髏=写真(2)=は最初は職人さんも気味悪がって作ってくれなくて、僕一人で真冬の寒い中、夜中にコツコツと仕上げた。でもイメージしていたもの以上によくできた。人間はみんな皮膚の下は髑髏で、上っ面じゃなくて「生と死」というものを表現できたかなと。

若者を引きつけたい

−若い人にもっと手に取ってもらいたい。

 今は大量生産の商品が出回り、料理屋さんでもあまりいい食器を使わなくなって、業界は厳しい。若い人とか、九谷焼に触れてこなかった人に向けてどういうアクションができるか。九谷焼の転写技術を使ってシールみたいに模様を器に貼る「KUTANI SEAL」もその一つ。体験会は全国約50カ所で開き、延べ1300人が参加してくれた。

 この数年間である程度、九谷焼を知ってもらえた手応えはある。でも実際に手に取って、使ってもらわないと意味がない。窯元として僕のやるべきことはまだまだあって、今からなんだと思う。 (敬称略)

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 かみで・けいご 1981年、石川県能美市生まれ。県立工業高校デザイン科、東京芸大美術学部絵画科油画専攻卒。2006年に実家の九谷焼窯元「上出長右衛門窯」に戻り、商品の企画デザイン、企業との共同制作、九谷焼の転写技術を使った「KUTANI SEAL」体験会の開催など幅広く活動している。バナナの「甘蕉 房 色絵梅文」と、髑髏の「髑髏 お菓子壺 花詰」は11年、金沢21世紀美術館に収蔵された。

     ◇         ◇

 上出長右衛門窯の器などを集めた展覧会「九谷の碗と常滑の急須」は11月4日まで、金沢市東山の「茶房一笑」で開かれている。

 

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