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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

違う「見方」苦しんだ 講演や著作で啓発 南雲明彦

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 字が読めない。書くのにも時間がかかる−。文字が揺らいだり、にじんで見えたりする「ディスレクシア(読字障害)」の症状を持つ南雲明彦(27)=東京都=は、理解を広げるため、年に100日は全国各地を講演に回る。不登校やうつ、転校を繰り返した10代後半だったが、石川県の通信制高校を21歳でようやく卒業した。生きづらさを抱え、もがき続けた道のりに迫った。(聞き手・奥野斐)

「い」と「こ」間違える

−障害と分かったのはいつ?

 21歳の時、専門家に指摘され、それまで自分と他人がなんか違う、と思っていたことがふに落ちました。ディスレクシアとは、発達障害に含まれる学習障害(LD)の一種。人によって字がかすんだり、形見文字鏡文字になって見えたりするので読み書きに困難を伴う。視力のせいではなく、脳機能の問題で、字の捉え方が人と違うみたいです。

 僕は線が曲がって見えるため、横断歩道など道を渡る時も結構危険。字が90度傾いたりするから「い」と「こ」もよく間違えます。LDに詳しい教育評論家の先生の話では、ディスレクシアの人は小中学校の4.5%に上るとの指摘も。英語の方が症状が出やすく、欧米では10〜20%と少なくない。ですが、僕は景色や人の顔はおそらく人と同じに見えるし、理解力もあるので、周囲も障害に気付きませんでした。

−高校2年で不登校に。

 そこが限界でした。高校では勉強量が増えて追いつかなかった。

 小学校のころから、鉛筆でノートに書いても覚えられないので、花壇の土や砂に字を書いて感覚で身に付けてきました。皆が1時間で終わる幹事の書き取りを、5時間かけてやったことも。

 「自分はバカだ」と思い込んで人より勉強してきましたが、燃え尽きたんですね。この読み書き能力で、将来はどうるんだろうって不安が募って。寝られなくなり、無気力になって次第に家から出られなくなりました。

字を書く時は、携帯電話に打ち込んだ字を見ながら写す。長い文章を読む時は、音声翻訳ソフトを使ったり、パソコンで自分が読みやすい字や大きさにしている

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不安募りうつ状態に

 どんどん口数が減って、うつ状態になり、精神科にも入院しました。その後定時制高校に移りましたが、ストレスから今度は強迫性障害に。すぐ手を洗いたくなるから、常に近くに水道がないといられなくなってしまったんです。

−立ち直ったきっかけは。

 19歳の時に出会った女性カウンセラーが「3年後には体調も良くなって、10年後はつらかったことを全部気軽に話しているよ」と言ってくれて。「『みんな理解してくれない』と言うだけじゃなくて、自分の言葉でどうつらいのか、言えるようにしていこうよ」と前向きな声を掛けてくれた。その一言でだいぶ変わりましたね。

 体調も回復し、3度目の転校で、当時は珍しい、授業にインターネットを活用した通信高校に入りました。ネットの方が勉強もやりやすかった。21歳で卒業できました。

−今は講演や執筆が中心の毎日です。

 ディスレクシアはもちろん、発達障害でさえ、まだ知らない人も多い。高卒後、ホテルのウエーターの仕事を始めましたが、接客でメモを取るにも携帯電話やボイスレコーダーを使うので、周りから変わったやつだと思われてやりづらかった。当事者として生の声を届けなければと、全国の学校や地域のホールなどで話しています。

周囲の気配りあれば。

 振り返ってみると、僕が小学5、6年生の時の先生は、例えば算数以外のテストでも定規を使うことを許してくれていたんですね。それだけで、問題文の行の読み飛ばしがなくなる。プリントを拡大コピーしたり、「どうしてほしいの?」と聞いてくれるだけで、精神的に楽になりました。

 昔だって読み書きができない人はいたはずですが、今の世の中はその能力が大前提。周囲も柔軟に手を差し伸べてくれればと思います。僕は自分の見え方も含めた、多様な「見方」を伝えたい。文字を読めない人もいる、こういうふうに見える人も存在するんだよと。(敬称略)

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【ディスレクシア】

 知的な遅れはないが、特に文字の読み書き学習に困難を伴う障害。失読症、難読症、識字障害とも呼ばれる。長い文章や音読が苦手だったり、語句や行を抜かしたりする。著名人では米国俳優のトム・クルーズがディスレクシアであることを公表し、注目を集めた。

「読字障害」知ってますか

見え方の例

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 なぐも・あきひこ 1984年、新潟県生まれ。21歳でディスレクシアと分かる。県立高校2年の時に不登校になり、うつ病や強迫性障害を発症。回復し、4校目のアットマーク国際高校(通信制、本校・石川県白山市)を卒業した。現在、グループ校の明蓬館高校(福岡)の職員を務める傍ら、講演や執筆活動を続ける。5月に初の著書「LD(学習障害)は僕のID−字が読めないことで見えてくる風景」(中央法規出版)を出版。

 

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