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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

黒一色 切り取る日常 切り絵作家 保下真澄

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 浮かび上がる黒い線は、時に繊細で力強く、日常の風景をクラシックでモダンな街並みへと変える。切り絵作家保下(ぼうした)真澄(28)=石川県輪島市出身=の作品は、米国で学んだグラフィックデザインと、幼いころから親しんだ伝統的な切り絵が融合し、和と洋の混ざった独自の世界を切り開く。「何げない日常も、目線を変えればすごくすてき」と、一枚一枚の絵に思いを込める。

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「故郷の輪島誇りに」

−風景などを丹念に切り出す手法

 黒い紙に写真を貼って上からカッターナイフで切っていく。雨にぬれた地面を表現するにはここは黒を残して、とか考えながら。事前に線も引かないし、切るか残すかの判断が難しい。最後で台無しにしてしまい、ショックを受けることも。すごく地道で細かい作業だけど、写真をはがして、想像以上のものができていたときの瞬間が何より楽しい。

 切り絵の魅力の一つは紙の立体感。壁にできる影や周りの状況で変わる雰囲気も楽しんでほしくて、作品は厚いガラスに挟んでいる。額は輪島塗で、幼なじみのお父さんの特製。故郷の輪島を誇りに思っている。

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−切り絵との出合い

 小学5年生の図工で、先生が一から教えてくれて、すごく楽しかった。絵を描く以上のものができる気がして。その後も夏休みの課題で花火を切り絵にしたり。中学、高校でも趣味でずっと続けていた。

 高校卒業後、サンフランシスコ近くのカレッジに進んだ。美術に興味があり、外の世界も見たくて。やりたいことがはっきり決まっていたわけではないけど、グラフィックデザインを学んだり、いろいろ模索する中で、写真でも、油絵でも、水彩でもなく、切り絵に行き着いた。評価されたというのもあるけど、何となく、一番しっくりきた。 

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「見た人の頭の中で色付け」

−米国で生み出した作風

 向こうでゴールデンゲートブリッジや街並みに魅せられて、夢中で写真を撮った。それを切り絵にしてみようと。私が習った手法は黒い紙を切って裏から色紙を張って彩色するもの。でも例えばブリッジの、色あせてきれいではないけど力強い感じ、日本にはない雰囲気を表現できる色がなくて。見た人が頭の中で色を付けられる方がいい、と写真を基に、黒一色で仕上げた。

 作品を気に入ってくれた先生のアピールもあってか、現地で有名な版画ポスターデザイナーに師事できた。2年ほど彼の元に通い、淡い色使いなど風景にとけ込むような作風を学んだ。その影響もあり、今は色を使った作品にも挑戦している。

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 結局、米国には4、5年いたけど、向こうは日本よりものを受け入れる幅が広くて、いろいろなことに臆病にならずに済んだ。現地の展覧会などにも参加した。

−目線を変えるきっかけを

 例えば家の窓からの景色も、寝転がって見ると全然違う。現状の素晴らしさに気付いてない人も多いけど、今いるところもいいんじゃないかって。そんな、周りの世界の見方が変わるような作品を手掛けたい。

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 いずれは大きい切り絵を作って、風景の中にとけ込ませてもみたい。夕日や海を背景にしたり。景色とともに、刻一刻と変わる作品も面白い。

 普段はただ騒々しいだけの風景も、白黒の切り絵にしたらどうなるか。モノトーンゆえに洗練され、訴えるものがある。「この場所がこんなふうに見えるのか」という感動が、「いつか行ってみたい」とか「私のところも悪くない」につながればいいかな。 (敬称略)

 聞き手・小椋由紀子

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 ぼうした・ますみ 1984年、石川県輪島市生まれ。県立輪島高校を卒業後渡米し、カリフォルニア州シャボーカレッジでグラフィックデザインを専攻した。2005年以降、サンフランシスコを拠点に風景作品などを多数制作。09年帰国し、10年には蒔絵職人の母マチ子さんと大阪で個展を開催。現在は東京を拠点に作品を発表している。

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人生のSpice

 【母の蒔絵(まきえ)作品】 母は輪島塗の蒔絵職人。幼いころから美しいものに触れる環境にあったことが、今の作品づくりに生きていると思う。母の作品も私の切り絵も、どちらもベースは黒が一番きれい。インパクトが強くて上品で。蒔絵は花などを写実的にすっきり描いてみせる。繊細なところやシンプルに表現するところも似ている。

 ※次回は25日付Work&Life。「移住という選択肢」を特集します。

 

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