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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

心の断片を紡ぐ 映像作家 さわひらき

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 ロンドンに住む金沢市出身の映像作家・さわひらき(34)をご存じだろうか。実世界の風景をベースに、断片的な映像をちりばめた独特な作風で、国内外の注目を集めている。地元・金沢では初の個展を開いている作家を訪ね、これまでの歩みや作品づくりのスタンスについて聞いた。

作品に答えはいらない

 人けのないアパートの一室。床やテーブルの上に模型の飛行機が並んでいる。その中の1機がおもむろに飛び立ったかと思うと、残りも後を追って次々と離陸していく。キッチンやベッドルーム、洗面所に風呂。生活感の漂う部屋を、無数の飛行機がわが物顔で飛び交っている様は、まるで白昼夢を見ているようでもある。

 「『移動』とかについて考えていたんです。それが(作品に)にじみ出ただけ」

 2002年にイギリスで発表したデビュー作「dwelling(住居)」。その意図を尋ねると、さわは「10年前のことなので大ざっぱにしか覚えていない」と前置きしつつ、ごく短く振り返った。作中の部屋は、ロンドンにあるアパートの自室。古いラップトップのパソコンとカメラ1台で、1年ほどかけて作り上げたという。

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 さわはロンドンを拠点に映像を作り、国内外で発表を続けている。初期の作品群は日常の空間を舞台に、動物や食器などが動き回る童話的な世界を展開。ここ数年は複数のスクリーンを連動させ、あるいは空間構成や音楽も含めた作品を手掛けるなど、表現の幅を広げつつある。

 金沢市内の高校を出た後、ロンドンの大学に留学して立体造形を学んでいた。在学中の00年ごろ、知人のアニメーション作りを手伝ったのをきっかけに、独学で映像を制作するようになった。

 「その時に使った編集ソフトが、映像を加工できるものだったんです。もともと立体をやっていた時も、素材を集めて組み合わせるような作品が多かったんですが、『映像でも同じことができるんだな』と思った」

 作品は基本的に、あらすじを示すストーリーボード(絵コンテ)を持たないまま撮り進める。「人を使うなら、何を撮りたいか具体的に示さないといけない。でも一人で作る分には、制作段階で人に伝える必要はないんです」。自分の中にあるモチーフや言葉の断片をつむぎ、一編の映像に仕上げていく。

 「dwelling」から近作に至るまで、それが何を表現しているのか、ダイレクトに伝わってくるような単純明快さはみじんもない。しかし、さわは一つ一つ取り上げて解説することを好まない。「作品を見る人たちに『僕はこう思うんです』と提示したところで、みんなで同じ見方はできないと思うんですよ」

 これは一体どういうことなのか。何を意味するのか。「納得いかなくても、一つでも二つでも心に引っ掛かることがあれば、それは多分(作品を)見ることの楽しみであったりする」。考えて答えが出ないのも、「案外楽しいんじゃないか」と思っている。

 自らの作品を言葉で語ろうとしない背景には、「(映像という)言葉じゃない言語で表現しているつもりでいる」という自負もあるのだろう。「言葉って難しい。だからビデオを作っているんですよ。文章に行間を読む余地があるように、作品が持っている空気感を読むのも美術の楽しみだと思うんです」

 さわ・ひらき 1977年、金沢市出身。地元の高校を卒業後、イギリスに留学。2003年にロンドン大スレード美術学校大学院彫刻科を修了。在学中の02年に発表した「dwelling」をきっかけに作家になり、欧米や東京など世界各地の美術館やギャラリーで作品を発表している。11年度には五島記念文化賞の美術部門新人賞を受賞した。

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(敬称略) 担当・佐藤航  ※次回は9日付Spot&Place 「日本のベニス」こと富山県射水市の内川を訪れます。

 

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