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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

皆に学びを 社会活動家 渡辺大樹

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 「生まれた場所が違うだけで、こんなに差があっていいのか」。バングラデシュでストリートチルドレンを支援する社会活動家、渡辺大樹(32)。彼を突き動かすのは、金沢大4年だった10年前、東南アジアの貧民街で会った少年の姿だ。すべての子どもたちが当たり前に教育を受けられる環境を目指し、単身飛び込んだ異国の地で奔走している。(聞き手・奥野斐)

バングラディッシュでストリートチルドレン支援

 路上生活の子どもたちに文字や絵、歌を教える青空教室から出発しました。8年前に支援団体「エクマットラ」を設立し、首都ダッカのシェルターホームで、学ぶことに意欲的な子に共同生活の場も提供しています。今は6歳から16歳の25人が生活を共にし、学校に通っていますよ。

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働かされる幼子

 バングラデシュは貧富の差が非常に大きい国。1億5000万人を超す人口のうち、ストリートチルドレンは約30万人に上ります。街は物売りやくず拾い、物ごいをする子どもたちであふれている。幼い子どもが働かされ、学ぶ機会を奪われている状況を改善したくて、現地の仲間と活動を始めたんです。

 バングラ国内ではストリートチルドレンの存在が「当たり前」になってしまっていて、多くの大人たちが問題として考えていない。だから、啓発にも力を入れています。その一つが映画制作。団体代表のシュボは映画監督を目指していた人で、彼が中心となって作った「アリ地獄のような街」は、国内外で大きな反響を呼びました。

 私以外のメンバーはみんな現地人です。私の役割の一つは、大きな収入源になっている映像制作を売り込むこと。発注元との交渉などを担っています。

無力感きっかけ

 大学4年の冬、ヨット部の大会で行ったタイで、貧民街にたたずむ5、6歳の少年と目が合ったんです。「彼はどうしてあんな汚い格好でこっちを見上げているのだろう。自分と何も変わらないはずなのに」。目の前の現実に何もできない無力感が込み上げました。

 帰国後、「ストリートチルドレンのために何かしたい」という思いが強まり、1カ月間考えた末、1年後に日本を出ると決めました。行き先はいつのまにかバングラデシュに。思えば小学生の時、社会の授業で「洪水やサイクロンに立ち向かう貧しい国」というイメージができて以来、無意識にアンテナを立てていたんでしょうね。

 まずは資金をためるため、日本で1年間必死にアルバイトをしました。大好きだった飲み会は一切やめ、出掛ける時は長距離でも歩いて。80万円を持ち、最低限の治安情報だけ頭に入れて出国しました。どんな活動をするかは行ってから考えるつもりでしたが、最初は親にも「一人で何ができる」「周りに迷惑をかけるだけだ」と反対されましたね。

 現地では言葉を覚えるためにダッカ大に通い、毎日、同世代の若者と議論しました。なぜ自分はここに来たのか、何をしたいのか。世界情勢から恋愛まで。次第に共感する仲間が集まりました。

 最初は身の危険を感じたこともありましたね。セックスワーカーや麻薬密売人を親に持つ子を救うため、青空教室の説明に行った時は、大勢の男に取り囲まれました。「明日も来たら命はないと思え」と。親は仕事への後ろめたさと、子どもが収入源という面があって自分のそばから放したくない。「1日に1、2時間だけください」と説得して回り、心を開いてもらえました。

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社会を変えたい

 私たちにできることはわずかですが、子どもたちが目を輝かせて歌ったり勉強したりする姿を見ると、良かったなあと思います。ただ、順調に過ごしていたように見えた子でも、ある日突然いなくなったりする。「何が悪かったのか」とへこみますが、彼らには路上で生きていける自信があるんです。長期的な教育に意味を見いだせない社会の構図自体を、変えなくてはならないと思っています。

 今、子どもたちが専門技術や知識を身につける施設「アカデミー」を建設中です。ここで学んだ子が団体のスタッフや青空教室の先生として戻ってきて、下の世代を育てるサイクルを築きたい。まだ先は長いですが、自分ができることを精いっぱいやり遂げたいと思います。(敬称略) 

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わたなべ・ひろき 1980年、横浜市出身。2002年金沢大文学部を卒業後、単身バングラデシュへ。04年、現地の友人らとストリートチルドレンの支援団体「エクマットラ」を設立した。名前は現地の公用語・ベンガル語で「皆が共有できる1本の線」という意味。現在は団体顧問として、路上生活の子に教育機会を提供する活動や啓発映画の制作をしている。10年、日本青年会議所主催の「人間力大賞」グランプリ受賞。

 

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