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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

目線 ずっと能登 写真家 中乃波木

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 写真家・中乃波木(32)は能登を撮る。豊かな自然、食べ物、そして人。切り取る光景はしっとりと潤い、素朴な色合いが柔らかく広がる。どこか懐かしくもある作品群の原点は、中学時代に肌で感じた能登の風土。みずみずしい感性で古里に向き合っていた遠い記憶を、レンズごしに追い求めている。

母と柳田に それはもう新鮮。

 中学生活が始まったばかりで両親が離婚して、母と2人で兵庫県芦屋市から柳田村(現・石川県能登町)に来ました。能登には縁もゆかりもなかったんですが、お母さんが田舎で陶芸をやりたいと言いだして。お金も仕事もない母娘を迎え入れてくれる場所は、移住者支援に積極的な柳田くらいだったんです。

富士フイルムGF670

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 芦屋の街中から能登に来たわけだから、それはもう新鮮ですよ。雪深い山里とか、緑の山に埋もれた田舎の景色とか。映画やテレビでしか見られなかった世界がある、という感じで。「事情があって越してきた」という感覚もあって、映画の主人公的な気分に浸っていました。

 山の上にある家から中学までは、7.5キロの山道。登校は朝もやの中をスーッと下っていくので、本当に気持ちいいんです。反対に夜道はとにかく怖い。街灯一つないから真っ暗で。好きだったのは冬の雪道ですね。月明かりが雪に反射するから、夜でも明るくて怖くなかった。

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登下校の時間帯 あの空気すごく好き。

 高校は工芸科だったんですが、仕事にするなら映像か写真がいいと思っていました。能登の日々から映画な気分を味わっていただけに、映画を撮れる人になりたかった。それで大学に入って、映像の勉強を始めたものの…。映画ってすごく人手が要るんですね。こんなことでは卒業まで一本も撮れない、ということで2年から写真に切り替えました。

 ただ、被写体は変わらず能登でした。ちょうどいい10代前半を過ごした私だけの舞台を、私の目線で撮らずしてどうする、みたいな思いがあって。東京にいる間にバイトをしてフィルム代をためて、休みのたびに帰ってどっさり撮る、という繰り返しです。卒業して広告制作会社の写真部に入りましたが、やっぱり能登を撮りたくてすぐ独立しました。

 それからは東京で辞めた会社のアシスタントをしながら、能登に戻っては風景を撮り続ける日々です。撮るのは朝と夕方ばかり。ちょうど中学時代の登下校の時間帯ですね。あの時間の空気がすごく好きで。日が昇る前の早朝は風景が青みがかって、自然の神秘を感じることができる。そうして撮りためた写真が、最初の写真集「Noto」につながっていきます。

「のとふうど」 ネガで隣同士になったカットによる組み写真のシリーズ。能登の風土や食の飾らない表情を写している

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常に被写体が先 私はただの撮る人。

 以前は風景ばかりで人を撮るのは苦手でした。知らない人は緊張するし、笑顔にさせる話術もない。でも、今は昔より人好きになりましたね。生き物って動くから、動きの中で「いいな」と思う瞬間を見つけるのが楽しい。俳優の松田龍平さんを撮ったことがあるんですが、あの方は動物っぽい魅力があって。話し掛けないと逃げていっちゃうような雰囲気で、全然格好付けない。そんな人の方が撮り応えを感じます。

 今は食べ物を撮るのも、人と同じくらい好き。もともと食べるのは好きだったんですが、ただ目で見て食べるだけではもったいないな、と。実家に帰っておいしい物を作ってもらうと、ぱーっと食べてすぐ終わっちゃう。なんか、自分の胃で消しちゃうのが申し訳なくて。おいしそうに感じる瞬間を撮っておけば、安心して食べられますからね(笑)

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 風景でも料理でも人でも、私の手で格好良くしようとは思っていません。食べ物に旬があるように、どんな被写体にも良い時間ってあるんです。それを待って撮る。常に被写体が先、私はただの撮る人。もっと言うと、魅力が伝わるなら方法は写真にこだわらない。能登を表現したいという思いは変わらないけれど、最近はエッセーも始めたし、将来的には映像をやりたいとも思っていますから。 (聞き手・佐藤航)

 なか・のはぎ 1979年、東京生まれ。13歳で兵庫県芦屋市から石川県の旧柳田村に移り住む。県立工業高校(金沢市)を経て、98年に東京造形大に入学。卒業後は広告制作会社の勤務を経て独立。2007年に初の写真集「Noto」(FOIL)を出版する。現在は季刊誌「能登」で母との2人暮らしの思い出をつづったエッセー「大波小波」を連載。愛機はいずれも中判カメラのペンタックス67と富士フイルムGF670。

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母娘で初の作品展

金沢で8月

 中さんの母、十七波(となみ)さん(60)は柳田に陶房を構える陶芸家。オーソドックスな器だけでなく、素材に自然物を取り入れた置物や、動物のオブジェなど、個性的な作品を作り続けている。

 「写真と陶芸で違うとはいえ、同じように能登を表現してきた」と中さん。今年8月には金沢市のしいのき迎賓館で、母娘2人による初の作品展を開く。「雪祭り」をテーマに作り、撮った作品を披露するという。

 

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