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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

人生赤裸々「何とかなる」 漫画家 沖田×華

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 いじめや障害、整形手術、看護師から風俗嬢の仕事を経て、アダルトビデオ出演−。異色の経歴を描いた自伝的コミックが注目を集める漫画家、沖田×華(ばっか)(33)=富山県魚津市出身。過去には自殺未遂という極限の状況も経験した。泣きたくなるような体験も乗り越え、「人生、何とかなるよ」とさらりと語りかける。(聞き手・奥野斐)

金のために体張る

−看護師や風俗嬢の仕事、整形手術など、漫画の題材はほぼ実体験だそうですね。

 親の勧めで高校卒業後は看護師になりましたが、いろいろあって3年で辞めました。当時の私は「一生懸命働いてお金をためる」というのがすべてで。本気でやったらいくら稼げるんだろうと思い、22歳で風俗嬢になったんです。稼げると思ったから、アダルトビデオの仕事もした。お金のためなら抵抗感はなかったですね。

 整形手術はこれまでに18回しました。初めての手術は、21歳の時の豊胸。目を二重にしたり、最近はお尻のリフトアップもしたりしましたけど、胸の手術が断トツで痛かった。こういう経験って、自分では普通のことだと思っていました。漫画にしたのは、人に「おもしろい」と言われてからです。

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−そこまで体を張ってお金を稼ごうと思ったのはなぜ?

 抑圧されて育ってきた反動かな。自立心は人一倍強かったです。実家が中華料理店だったので、親と四六時中顔を合わせるし、父親は厳しかったから家にいるのが苦痛でしょうがなかった。それで一人暮らしを始めた時、「もうやりたいことを全部やろう」と決めました。

 それに小さい時から怒られてばかりだったので、これからは誰にも迷惑をかけたくない、せめて貯金だけはしておかなきゃ、と考えていました。

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発達障害を抱えて

−作品では、他人とうまくコミュニケーションがとれないアスペルガー障害のために、周囲から孤立、いじめや体罰を受けた経験も描いています。

 恥ずかしいと思っていたので、最初は描くのが嫌でしたね。昔から、自分が変わっているという自覚はありましたよ。同世代の女の子ともまともに会話ができないし、いつも「人の話を聞いていない」と怒られる。当時は障害への理解もなく、学校の先生に殴られることもあって、地獄のような日々でした。

 親は私に障害があることを分かっていたみたいですが、私は大人になってから知りました。最初はとても受け入れられず、「私はまともだ、普通だ」と思おうとしたんですけど、やっぱり生きづらいんですよね。

−漫画家になったきっかけは。

 風俗嬢になって2年ぐらいたったころ、(後に師匠となる)漫画家の桜壱(さくらいち)バーゲンと出会ったのが始まりです。何げなく私が描いた絵を見た師匠が「個性的だから、目立っていい」と。ちょうど風俗の仕事に疲れていて、やめた方がいいかなと思っていた時でした。

 ペンを握って5カ月後に漫画誌の新人賞の選外奨励賞に選ばれ、26歳でデビューしました。それまでほめられることなんてなかったから、すごくうれしかった。その後、フリーライターのゲッツ板谷さんのホームページに漫画を描かせてもらい、2008年に作品が初の単行本になりました。

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生きてて良かった

−自らの人生を赤裸々に描き、つらい過去もさらけ出す作品は反響も大きいですね。

 特にアスペルガーの漫画は「私もそうです」「勇気をもらいました」という感想を頂きました。中には「障害のことがよくわかった」という声もあって。描くのも嫌だった障害の話が、少しは人の役に立ったかと思うと、人生は何がどう転ぶか分からないですね。

 思い返せば看護師時代は同僚とうまくいかず、親の離婚も重なり、死のうと思ったこともありました。どこにも癒やしがなく、職場で失敗して「おまえはもうだめだ」と言われ、自分の価値が分からなくなって。自殺しようと行動まで起こしましたが、失敗に終わりました。でも、あの時死ななくて良かった。今こうして楽しく漫画を描き、読んでくれる人がいるんですから。

−今後、描きたいものは。

 自分の体験だけでなく、フィクションにも挑戦していきたいですね。今は、死がテーマの物語に取り掛かっています。漫画家って、障害や学歴、経験に関係なく平等に描く権利が与えられる。私だからできる作品を、仕事が来る限り、描き続けたいと思います。 (敬称略)

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 「すぐ描けるので、いいですよ」。そう言って取材中、漫画「蜃気楼家族」にも登場する沖田さんと父、母、弟のまーちゃんを快く描いてくれた。自画像には胸に×印も。沖田さんいわく、「しょーたれカス」とは地元の方言で「かい性なし」の意味という。

おきた・ばっか 1979年、富山県魚津市生まれ。小中学生のころに学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、アスペルガー障害と診断される。県立新川女子高校(現新川みどり野高校)を卒業後、看護学校へ進み、北陸の病院で看護師として勤務。名古屋で風俗嬢として働いた後上京し、2005年に漫画家デビューした。ペンネームは「起きたばっかり」に由来。現在、雑誌に「ガキのためいき」(講談社Kiss)、ネットに「蜃気楼(しんきろう)家族」(Webマガジン幻冬舎)など4本の連載を持つ。

 

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