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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

大蛇を生んだ反骨心 光岡自動車デザイナー 青木孝憲

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 地をはうようなスタイルに有機的なボディー、鋭い眼光を思わせるヘッドライト−。独創的な車づくりで名をはせる光岡自動車(富山市)の中でも、スーパーカー「オロチ(大蛇)」の存在感は群を抜いている。既成概念にとらわれない斬新なルックスは、「常識や世間体にとらわれたくない」というデザイナー・青木孝憲(36)の反骨心の表れでもある。(担当・佐藤航)

落ちこぼれ少年 「かっこよさ」追い求め

 子どものころは勉強はできないし、スポーツもだめ、格好悪くて女にモテない、という劣等感を抱えていました。成績も図工と国語以外は1と2ばっかり。「頭が良くて運動神経もいい男前」みたいな優等生が憎たらしかったし、彼らを褒めたたえる世間の雰囲気も嫌で仕方なかった。

 車を好きになったのは、そんなコンプレックスがあったから。自分にはない「かっこよさ」に強い興味があった。父親が車好きで、運転するおやじの姿にも憧れていた。他に何もできないけど、絵を描くのは好きだったし、「これしかない」という思いで自動車デザイナーを目指すようになったんです。

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 高卒後は東京の専門学校に入ったものの、いざ就職となると大手メーカーはことごとくダメで。築60年くらいのボロいアパートの六畳一間で、「もう田舎に帰んべ」とふてくされていた時、ふと雑誌の裏表紙に載っていた広告が目に入りました。

 それはゼロワンという車の広告で、光岡っていう聞き慣れない社名が出ていた。でも自動車メーカーと書いてあるし、その場で電話したんですよ。最初は断られたけど、頼み込んで面接してもらった。そこで「車が好きです」という思いを率直にぶつけたら、光岡進会長(当時は社長)は「気持ちは分かった。すぐ来られるか」と言ってくれた。

ブランド車のイメージは全部捨てた

 入社して2年は、車の取扱説明書とかカタログを担当していました。3年目から東京で市場調査を任されたんだけど、冷静に考えたら全然車のデザインをしていないことに気付いた。そんな時、会社が東京モーターショーにスーパーカーを出すらしい、と人づてに聞いて。「なぜ俺に声がかからないんだ」といら立ちながらデザインを描き始めた。

 ところが1000枚くらい描いた時、どれも見覚えあるデザインばかりだと感じたんです。頭の中にあるブランド車のイメージをなぞっているだけだ、と。すぐ全部捨てました。僕にとって世界ブランドのスーパーカーは、子どものころ大嫌いだった優等生と重なる。自分自身の価値観で、あいつらを見返してやりたいと思った。

 そうして浮かんだのが、日本神話の「八岐大蛇(やまたのおろち)」をモチーフにしたオロチです。当時はヘビ柄ファッションが好きだったし、ヘビの持つ妖しさや鋭さに引かれていた。ヘビは忌み嫌われる存在だけど、世間体ではない「人間の本質」に通じる部分を感じる。「ヘビ」や「不良」にテーマを絞ったら、一発であのデザインが浮かびました。

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大手と違う価値観貫きたい

 僕らの車は、100人いたら100人が共感してもらえるものではない。光岡は大手メーカーからベースの車を買ってきて(オロチは自社設計)、ボディーやパーツを取り付けて商品に仕上げていく。言ってみれば100万円の車が200万円になるわけで、冷静に考えれば売れませんよ。でも差額の100万円の中に、デザインの希少性や手作りの良さ、といった価値を見いだしてくれる方も確かにいるんです。

 光岡は今、広がりゆくアジアや中東マーケットに向けて生産や販売拠点を拡大させています。来年はタイ工場を本格稼働させ、いずれは年間400〜500台を生産している国内と同じくらいまで持っていきたいと思っている。でも、希少性や手作りといったスタンスまで変えるつもりはない。大手にはない独自の価値観で、「グローバル&ニッチ」を貫いていきたいから。 (敬称略)

人生のSpice

【デザイン原画】 基本的にはデジタルを極力避けて、手描きを通しています。パソコン上で描くと実感がわかないし、手で触っていた方が立体感が出てくる気がする。誰が見ても驚く車にしようと思ったオロチ=中=に対し、ヒミコ=左=は美しく品のあるオープンカーを目指したので、デザイン画もタッチが違いますね。

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 あおき・たかのり 1975年、宇都宮市生まれ。地元の高校を卒業した後、東京の専門学校でカーデザインを学ぶ。97年に光岡自動車に入社。デザインを手掛けた「オロチ」は2001年の東京モーターショーで評判を呼び、06年の市販化につながった。クラシカルなオープンカー「ヒミコ(卑弥呼)」のデザインも担当した。

 

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