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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

失敗は挽回できる 漫画家 宮下英樹

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 「自分には才能が無い」。人気漫画家宮下英樹(35)=石川県七尾市出身=は、自らをそうみる。宮下が描く戦国武将・仙石権兵衛秀久のキャッチフレーズは「戦国時代、最も失敗し、最も挽回した男」。その主人公と自身を重ね合わせる創作活動の原点や生き方に迫った。宮下の言う「才能が無いなりの戦い方」とは−。

世界観伝える

 −どうして漫画家に。

 高校のころは映画監督になりたかったんだけど、それが親にばれたのが恥ずかしくて思いとどまった。直接のきっかけは、大学生のときに樋口一葉の「たけくらべ」を読んだこと。感動を友達に話しても伝わらなかったのがもどかしくて、物語の世界観のようなものを漫画で伝えたいと思いました。

 −漫画家を志して大学を中退したが、不安はありませんでしたか。

 それまではいい大学に行きたい、いい就職をしたいと思って生きていた。漫画を描くなんて、恥ずかしかった。大学に行くのをやめて描いていた時も友達にばかにされた。でも、この道に入ってしまうと気にならなくなった。退学前の休学中に投稿した作品が編集者の目に留まり、東京へ行くことになりました。

酩酊性が重要

 −3年間のアシスタント時代を振り返って。

 例えば、背景に描くドアノブのデッサンが少し狂っているだけで「読者からお金を取れないだろう」とめちゃくちゃ怒られた。人間性どうこうより、絵が下手ということが怒られる理由なんです。新聞社でも良い原稿を書かないと、どんなにいい人でも怒られるでしょう?

 漫画は非常に酩酊(めいてい)性の強いメディアだと思う。いかに読者を気持ちよくさせるか、というような。だから、ちょっとでも世界観にブレがあったら酩酊性が失われてしまう。それまでストーリーのクオリティーにこだわっていた意識を変えられましたね。

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才能無くても

 −代表作「センゴク」シリーズでは無名の武将・仙石権兵衛秀久に光を当て、失敗を繰り返しながら成長する姿を描いています。

 織田信長のような才能は無くても、おもしろい人物を探していた。連載を始めたころ、「リストラ」という言葉がはやっていた。今の若い人は社会的な保障がなくて失敗できないという状態になっているのではないでしょうか。だから「失敗を挽回する、できる」ということを意識しました。

 −アイデアの源は?

 歴史の話よりもニュースなど時事的なことを編集者とよく雑談します。戦争の理由は当時も今も同じ。「死にたくない」とか「お金が欲しい」とか。現代とつながる部分がある。一方で、なるべく一次資料に当たるようにしています。(戦国時代の)有名なエピソードが、実は江戸時代の創作だったりすることが結構あるので。

 郷土歴史家とか詳しい人に案内してもらい、合戦跡や城跡も回ります。漫画に誇張は必要ですが、現場を見ておくと誇張がどこまで許されるのか調整が効くんです。

 −ふるさとが作品に与えた影響は。

 七尾市石崎町で8月に行われる「石崎奉燈祭」のキリコに描かれる歴史の絵が好きでした。漁師町の石崎と旅館街の和倉温泉という異なる町の影響もあるかもしれません。近くにある対照的な町を見て、人間の表と裏というか、大人の裏表みたいなものを見られたのは面白かったですね。

理詰めで描く

 −作品がヒットした理由をどうみますか。

 実は早い時期に自分には才能が無いと分かった。だから漫画を学問みたいに理詰めで捉えようと考えた。才能があれば、家族を持って、もっと楽に売れていると思う(笑)。でも、生まれた瞬間に宝くじみたいな遺伝子を持った人だけが成功する世の中なんてあまりに夢がない。「センゴク」の主人公と重なりますが、才能が無くて失敗してもどこまでいけるか、というのを僕自身が体現したいと思っています。 (敬称略)

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人生のSpice

【映画ゴッドファーザー】 バイオレンス映画とは撮り方が違う。結構笑えるシーンも多い。監督のフランシス・フォード・コッポラのように面白いストーリーを創る人は笑いのセンスもあると思う。

【松本剛作・漫画「すみれの花咲く頃」】 映像言語というのをこの作品で初めて意識した。一つ一つの絵に意味があって、構図で語りかけてくる。登場人物もストーリーも地味だけど、ものすごくスリリングで緊張感がある。

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 「何か絵を描いてくれませんか」。そんな厚かましいお願いを快く引き受けてくれた宮下さん。「センゴク」シリーズの主人公、仙石権兵衛秀久の勇姿を描いてもらった。

 まずはシャープペンシルで下描き。みるみるシルエットが浮かび上がってくる。下絵が仕上がったら筆ペンに持ち替え、表情の陰影や具足の装飾を描き込む。「紙面に使われるなら」と、細部まで筆を走らせる。描き始めてから約1時間。やりを突き出す勇ましい姿が完成した。

みやした・ひでき 1976年石川県七尾市生まれ。七尾高校卒、富山大工学部中退。3年間のアシスタント生活を経て、2001年にちばてつや賞大賞を受賞した「春の手紙」でデビュー。04年から豊臣秀吉らに仕えた戦国武将仙石権兵衛秀久を主人公にした「センゴク」をヤングマガジンで連載。現在は続編となる「センゴク天正記」が同誌で連載中。「センゴク」シリーズは累計約560万部を売り上げている。東京都在住。

 

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