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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

最善手求め 前へ 女流棋士 甲斐智美

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 成長著しい若手とベテランがしのぎを削る女流棋界。タイトルの一角を担う女流王位の甲斐智美(28)=石川県七尾市生まれ=は現状を「女流棋士全体の成長期」とみる一方、埋めがたい男女の実力差も感じている。穏やかな物腰に見え隠れするのは、強く、飽くなき向上心。自らの飛躍だけでなく、女流棋士たちの底上げを見据えている。(担当・佐藤航)

考えても考えても先がある

 −今年は女王のタイトルを失うも、女流王位戦で残る一冠を死守しました。

 次から次へ大きな対局が続き、リラックスするのが難しかったですね。五番勝負の女流王位戦はフルセットまでもつれましたし、勝てる自信はなかった。ただ、厳しい対局を重ねると、だんだん「自分の力を出し切るしかない」という心境になってくるんです。強い相手と向き合う中でも、自分なりに精いっぱい指せたのが結果につながった。

 (二冠を獲得した)昨年ごろから、おおらかに指せるようになってきたと思います。局面が悪くなっても、悲観せずに淡々と指すことができている。初のタイトル戦では緊張で固くなりましたが、最近はどの対戦でも、あまり変わらない精神状態で臨めるようになってきたんじゃないかな。

 −ここ数年でトップグループまで一気に登り詰めましたが、そもそも将棋を始めたきっかけは。

 将棋の観戦記者の父が、きょうだい4人全員に教えてくれたんです。覚えたのは小学校5年生で、本格的に始めたのが6年の時。周りでやっている女の子はいませんでしたが、私の場合は自然と指す環境が整っていた。

 正直、最初はおもしろいと思えませんでした。もともと人と争うのが苦手だったから、勝負事は好きじゃなかった。ただ、じっくりと考えることは好きだったので、指すほどに魅力に引き込まれていきました。勝てばうれしいし、負ければ悔しいんだけど、感情を抑えて集中するのが大事な「頭脳プレー」なんだと。

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 −1997年に女流プロになった後、5年間ほど奨励会に籍を置き、男性に交じって腕を磨きました。

 将棋界は今でもそうなんですが、男女の力の差がすごく大きい世界だったんです。女性は男性棋界から分離されているというか、本当のプロの世界とは別の世界でした。男性は6級から始まり、四段になってやっと一人前なんですが、女流棋士のライセンスはわりとすぐに取れてしまう。閉ざされた世界の中、女性同士で指しているのがかつての女流棋界でした。

 今でこそ女性も男性棋戦に出場できるようになりましたが、私が指し始めたころは制度の垣根も大きかった。若いうちに男性の奨励会という厳しい世界に身を置いて、勉強しておく必要があると思ったんです。

 −弱冠19歳で三冠の里見香奈さんをはじめ、若手の台頭が著しい女流棋界。着実にレベルアップしているように思えます。

 一つの成長期に入ったように感じています。歴史が浅い分、常に若い人たちが実力を押し上げているというか。とはいえ、まだまだ男性とは大きな力の差があるのは事実。私も「若手に負けられない」というより、一緒に伸びていければいいと思っていますね。

 −今後の目標を教えてください。

 去年は自分でもびっくりするくらい、いい結果が続きました。今から考えると波がきていたんでしょうね。例えばタイトル戦に出る直前、苦しい対局を相手のミスに助けられたり。内容以上に勝ち星が集まっている感じでした。

 そういう意味で去年は勢いで勝っていた部分が大きかった。今は実力をつけることを第一に考えています。将棋の魅力は、考えても考えてもまだ先があるところ。相変わらず分からないことがいっぱいありますから。

 −生まれ故郷の石川県に帰ることは?

 祖父母が七尾市に住んでいて、よく「おいで」と言われるんですが、対局続きでなかなか行けないのが残念です。金沢は去年、王位戦の大盤解説会の仕事で行きました。兼六園を歩いてみて「すごくきれいな場所だな」と思った。ぜひ、また行きたいですね。

  (敬称略)

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人生のSpice

 【絵画】 時間があれば美術館に行くこともあります。特にフェルメールとドガが好きですね。この2人の絵は心が洗われるというか、見た後にすっきりとした気分になります。フェルメールだと「ミルクを注ぐ女」がお気に入りです。

 【音楽】 近ごろはクラシックにはまっています。最近、バッハを聴く機会があって興味を持つようになりました。好きなのは「G線上のアリア」。対局の合間、気分をリラックスさせるために聴くこともあります。

 かい・ともみ 1983年、石川県七尾市生まれ。中原誠16世名人門下で97年に女流プロ入り。98年から約5年間にわたって奨励会に在籍した。2006年度の女流将棋トーナメントで棋戦初優勝。07年度はネット将棋の女流最強戦を制した。タイトル獲得は第3期マイナビ女子オープン(10年度)と、第21、22期女流王位(10、11年度)の計3期。川崎市在住。

 

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