トップ > 北陸中日新聞から > popress > Human Recipe > 記事

ここから本文

popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

家族の絆 歩く力に 尼崎JR脱線事故の生存者 山下亮輔

写真

 100人以上の死者を出した2005年の尼崎JR脱線事故。先頭車両に乗っていた山下亮輔(24)は両脚に障害が残ったものの、九死に一生を得た。脚を切断しなかったが故の困難、社会復帰を遂げるまでの苦悩−。18歳という若さで遭遇した未曽有の出来事を乗り越え、前に踏み出す力を与えてくれたのは、家族や医師ら周囲の支えだった。

一生、この脚と付き合っていく

 −事故当時

 事故に遭ったのは、大学1年生のとき。講義に向かう途中でした。1両目の車両でつり革につかまっていたら、車体が斜めに傾き、気付いた時には周囲は真っ暗闇。その中で7時間、正座した状態で助けを待ちました。脚はまひしていて痛みは感じませんでしたが、孤独がつらかった。とにかく「なんで救助されないんだろう」という思いがあった。

 一緒に閉じこめられた人と声をかけ合っていました。救急隊員が来た時に「生き残った」と思ったことを覚えています。

 −入院中

 両脚を切断しないという選択をしたことでつらかったです。事故直後から1、2カ月の間は炎症による40度ほどの熱が出ました。発熱に耐えたり、息をしたりするので精いっぱい。家族らが声をかけてくれていても、それ以外のことを考える余裕はなかったです。

写真

 「この脚がなければ」と何度も思いました。リハビリが始まって、ストレッチは痛みがなかったけど、歩行訓練で両手を離したら貧血で倒れてしまいました。「なんでこんなこともできないんだろう」と悔しくて泣きました。でも、そこで現実を知ったのだと思います。

 そんな時、家族やリハビリの先生、看護師が事故への思いや将来への不安に一生懸命に耳を傾けてくれました。心のモヤモヤが無くなっていき、「くじけずに頑張ろう」と思えるようになりました。車いすも覚悟していた中、少しずつ歩けるようになってきて、自分の脚で歩ける喜びを感じました。「一生、この脚と付き合っていこう」と心に決めることができました。

 −再び同じ電車に

 事故から10カ月ほどたち、つえを使いながら歩けるようになってから、同じ電車の同じ1両目に乗りました。場所はドアの手すり付近。付き添いに、リハビリの先生たちがそばにいてくれました。僕に万が一のことがあったときのために、準備もしてくれていたみたいです。自分でも「パニックになったらどうしよう」と不安でしたが、今まで支えてくれた人たちと会話しているうちに、事故現場は通り過ぎていました。一人ではどうなっていたか分かりませんが、自然にしていられたことで、自信になりました。

 大学への復学直前の3月には、通学の予行演習として、家族と一緒に家からの1キロを歩きました。時間は約20分。校門についたときは、卒業した高校に来たような、母校に戻る懐かしさを感じました。

 −大学での活動

 最初の1年は、受ける授業を多くしすぎず、とにかく通うことを考えました。大学の友人たちは、気兼ねなく接してくれました。3年のときの社会保障のゼミで、自分の体験を話しました。その経験から「事故に遭った自分だからできることをしよう」と思い、ゼミの仲間4、5人とともに、週1回のペースで講演活動をしてきました。同時に公務員試験などの勉強もし、40年働けるところを希望して、伊丹市役所に受かりました。

 −これから

 今は段差などで転ばないようにつえを持ちますが、普段は両脚だけで歩けます。それでも、事故前と違い、「自分の脚を動かすんだ」と意識しないといけません。マッサージなどを欠かさず、脚を大切にすることを考えながら暮らしています。

 事故で家族とのつながり方も変わりました。それぞれが自立し始めていた家族は、ひとつにまとまった気がします。家族や先生たちがいなかったら、乗り越えられなかったでしょう。

 今も続けている講演活動では、子どもには親とのつながりの大切さを、親には子どものために何ができるかを訴えています。これからも「他の人のために何ができるか」を考えていきたいです。 (敬称略)

写真

  (担当・中村文人)

 やました りょうすけ 1987年1月3日生まれ。兵庫県伊丹市内の小、中学校を卒業後、同県立伊丹北高を経て近畿大に入学。1年生の時に事故に遭い、1年間の休学を経て復学した。現在、伊丹市役所の障害福祉課に勤めている。

 尼崎JR脱線事故 2005年4月25日、兵庫県尼崎市のJR福知山線で快速電車が脱線。沿線のマンションに衝突、運転士と乗客計107人が死亡、500人以上が負傷した。神戸地検はJR西日本の山崎正夫社長(当時)を業務上過失致死傷罪で起訴。歴代3社長は不起訴となったが、検察審査会の議決に基づき、強制起訴された。

 おことわり popress(ポプレス)は、来週から水曜日と土曜日に掲載します。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索