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popress【Human Recipe】あの人はどうやって「今」にたどり着いたか
 

本の虫 金沢に 巣喰う 古書店「オヨヨ書林」店主 山崎有邦

 電子書籍の時代がきても、紙の本は死なない−。サブカル、美術、文学と、ジャンルにこだわらず、個性的な古本や雑誌が並べられた金沢市竪町の古書店「オヨヨ書林」に足を踏み入れると、思わずそんな気持ちになる。「誰でも好きなものに出会える空間」を目指す店主の山崎有邦(35)の原点とは。昨年一月に金沢に店を移転するまで、大学時代から十年余りを過ごした東京での日々を中心に、ひもとく。(担当・福田真悟)

収集できるから続けてる

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−東京で古書店を始めるまで

 高校時代、当時はやっていた“渋谷系”の音楽(ヒップホップなど幅広いジャンルを取り込んだポップス)を聴くようになった。デザイン性の高いジャケットが好きで、自分でも描いたりしていて。グラフィックデザインの勉強をしようと、東京の美大に進学した。

 でも、大学って入ったら(勉強は)やらないものですね。サークル活動もせず、だいたい家で本を読んだりビデオ見たりしてた。当時、好きだったのは漫画なら岡崎京子、小説なら京極夏彦とか。

 とにかく、東京はほしいものがすべてあるというか、きりがないというか。ちょうど、下宿が(古書店の集中する)神保町の近くで、定価より安いこともあり、古本を買いあさった。昔からのめり込みやすく、子どものころ、当時はやっていたビックリマンシールやミニ四駆とか集めていましたが、このころからは本だった。

 大学を卒業する時、所有する本が三千冊ほどになった。部屋の中は本とベッド、みたいな感じ。ちょうどインターネットでビジネスするようになった時代だったので、ネットで古本を売り始めた。

−就職とか、ほかの選択肢は?

 周りから突出して(デザインが)うまいというわけでもなく、デザイナーにこだわりはなかった。就職活動は、気付いたら企業の採用試験がほとんど終わっていた。あまり熱心ではなかったですね。

 できれば働きたくなかったが「とりあえず食っていかないと」というのはあった。ただ、そこまで考え抜いて古本を売る仕事を始めたわけではない。本好きって、定年後はのんびり古本屋をやってみたいって気持ち、あるじゃないですか? それが早いか遅いかだけの話。

−東京での十年間

 当初、品ぞろえがしょぼく、なかなか売れなかった。仕入れをもっとしっかりやろうと、古書の組合に入り、業者間の交換会に足を運ぶように。すると、素晴らしい本がたくさんあり、目がくらんだ。それまでと比べると、釣り堀から築地に行くような感じで。

 もちろん、いい本はライバルも多く、値段的にもなかなか買えない。目を付けた本を競り落とせるのは、十回に一回ぐらい。だから、みんながほしがらないけど、売れそうな本を見つけるのも大事。「あの本が好きな人は、この本にも興味を持つはずだ」とか。

 十年間、東京でやっていて家賃が払えないほどお金に困ったこともあった。けど、そんな時は在庫を業者に売れば食べていける。辞めたいとか思わない。

 もともと、古書のコレクションができるから、(店を)続けている部分もある。存在は知っていたけど「まさかあるとは」という本に出会えた時は、たとえ競り落とせなくても、やりがいを感じる。一番、感動したのは一九二〇年代の日本の美術雑誌「MAVO」を見つけた時。

−古本、古書店の魅力

 やっぱり、本はモノとしての完成度が高い。内容だけでなく、装丁、紙質、印刷技術…。人にとって、コレクションの対象となるもの。電子書籍の時代というが、あれは新刊本の話。新刊本が出なくても古本屋はやっていける。逆に、本がどんどん貴重になればなるほど、高く売れる可能性もある(笑)。

 大学時代に好きでよく通った古本屋は、あらゆるジャンルの本がたくさんあった。誰でもその人なりに好きなものに出会えるのが魅力だと思う。

 うちの店は、21世紀美術館に近いという土地柄もあり、美術系の本が多めだけど、幅広くそろっている。一つの分野だけに特化するのは、あんまりプロっぽくないので。お客さんには、気軽に入ってほしい。

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 【オヨヨ島の冒険】 好きな小林信彦の小説で、コント55号のギャグをはめ込んだり、さまざまな元ネタを織り込む手法が面白い。店名の由来です。

 【ピチカート・ファイブ】 渋谷系の代表的なアーティストで、キャッチーさ(親しみやすさ)とマニアックな部分を併せ持っているのが魅力。自分にとって好きなモノの基準となった。

 【古本屋の先輩】 古本屋「月の輪書林」の店主が書いた本からは、古書店を運営する上で大切なことを学んだ。1冊の本には関連書が10冊、100冊とあり、それを含めて評価するとか。

 やまざき ゆうほう 古書店主、富山県南砺市出身。同県高岡市の高校を卒業後、東京都内の美術大に進学。1999年、ネット販売のみで古書店を始めた。2004年から東京・根津で店舗を構え、09年には青山に移転。東京に閉塞(へいそく)感を覚えるようになり、10年1月に金沢へ。3月23日には2号店を金沢市内にオープン予定。

 

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