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ミステリー 人気の謎を解け!

金沢在住の中国人作家・陸秋槎さん

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 今、ミステリーが熱い。金沢市在住の中国人推理作家、陸秋槎(りくしゅうさ)さん(29)が9月、長編「元年春之祭(がんねんはるのまつり)」を早川書房から翻訳出版し、日本デビューした。実は日本は推理小説が多く出版される「ミステリー大国」。若い世代では、小説だけでなくミステリーのアニメや漫画、体験型イベント「リアル謎解きゲーム」も人気だ。なぜこんなにもミステリーが親しまれるのか。日本のサブカルチャーと混ざり合うミステリーの謎を解きほぐす。  (堀井聡子)

僕の青春 そのものの一作

本格派の爽快さ×アニメ的キャラ

 10月初旬。金沢市安江町のミステリーカフェ「謎屋珈琲(コーヒー)店」で、店の常連でもある陸さんに話を聞いた。

 「元年−」はなじみの薄い古代中国が舞台だが「分かりにくい所は飛ばしても、最後に伏線が回収される本格ミステリーの気持ちよさがちゃんと感じられます」と陸さん。さらに「好きなアニメの要素を詰め込みました」と言うように、探偵役の「ドS少女」に温室育ちのお嬢さま、主人に忠実な侍女とキャラの立った登場人物ばかりだ。

 北京出身。2008年、島田荘司さんや京極夏彦さんの推理小説が翻訳され、中国にミステリーブームが起きた。当時、大学の国文科で漢詩を学んでいた陸さんもはまった。ミステリー研究会に所属し、翻訳前の小説を読むため日本語を学ぶほど。14年に短編が中国の推理小説新人賞の最優秀賞に選ばれ、デビューした。同年、日本へ留学する妻とともに金沢へ移住した。

 だが、日本のミステリーに触れたのは小説が最初ではない。中学高校時代に見た日本のアニメの中に、京極さんの「巷説(こうせつ)百物語」や、ゲーム原作のホラーミステリー「ひぐらしのなく頃に」などがあった。「中国ではアニメから入って推理小説ファンになった人は多い。特に米沢穂信さん原作の『氷菓』は有名ですね」

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 アニメや漫画には、学校のように「限られた世界」が舞台の作品も多い。そこに、日本のサブカルチャーとミステリーの関係を見る。「吹雪の山荘や孤島など、限られた世界で事件が起きる推理小説の手法『クローズド・サークル』みたい。狭いからこそ深い人間関係が描ける」と言うのだ。

 推理漫画ではないが、ミステリー要素を含む作品として、高校が舞台の「監獄学園(プリズンスクール)」(平本アキラ著)や「賭ケグルイ」(河本ほむら著)を挙げた。「物語に伏線を張ってエンターテインメントにする手法は、日本では自然なのでは」

 発売後3週間で重版がかかり、注目を集める陸さんのデビュー作。「本格ミステリーであると同時に、少女たちの青春も描いた。若い人にも共感してもらえるはず。大学時代に夢中になった推理小説、アニメ、漢文でできた本作は、僕の青春そのものです」と熱く語った。

「読者への挑戦」2度

古代の中国 名家で何が?

 2000年以上前、前漢時代の中国。山中の名家で当主の妹が何者かに殺される。現場に通じる道には人の目があったというのに、犯人はどこへ消えたのか? そして、過去に名家で起きた凄惨(せいさん)な殺人事件との関係は? 才気煥発(さいきかんぱつ)な少女が、書物や宗教学の知識を駆使した推理合戦の果てに、悲劇の全貌を見る−。2度の「読者への挑戦」が組み込まれた本格ミステリー。(早川書房・税込み1620円)

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学園系、名探偵 親しまれ

早川書房の担当者

 「元年春之祭」を担当した早川書房の根本佳祐さん(28)は「本格ミステリーファンの評価が高く、少女たちの会話の掛け合いも好評で、幅広い支持を得ている」と話す。「元年−」は、同社の海外翻訳ミステリー文庫「ハヤカワ・ミステリ」(通称・ポケミス)の創刊65周年記念に出版された。中国の推理小説は「華文ミステリー」と呼ばれ、日本で注目されつつある。

 日本の若い世代には、学校が舞台の「青春学園ミステリー」系が人気という。一般文芸より読みやすく、若い世代に人気の新しい文学ジャンル「ライト文芸」で、中核的な作品にミステリーが多い。三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)」シリーズ(角川書店)や、河野裕さんの「階段島」シリーズ(新潮社)は、ドラマや漫画にもなった。

 根本さんによると、欧米に比べて日本では、本格ミステリーの人気が根強いという。「名探偵役が登場し、トリック重視の作品が好まれる。こうしたスタイルが漫画などでも受け入れられている」と根本さん。どうやら「トリックを解き明かす名探偵」の存在が、娯楽としてミステリーが親しまれる背景にありそうだ。

ゲームに挑む若者ら。(右)は2015年5月、神奈川県横須賀市の猿島で。(中)は17年7月、東京都品川区のしながわ水族館で(いずれもハレガケ提供)

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君も主人公になれる!

リアル謎解きゲーム

 「名探偵」をはじめ、小説や漫画の主人公への憧れは、リアル謎解きゲームが20〜30歳代で人気となった理由の一つのようだ。金沢で昨年、リアル脱出ゲームを開催したイベント企画会社「ハレガケ」(東京都)の黒田洋介社長(32)=写真(左)=は「小説や漫画の主人公になりたいという願望をかなえてあげられる」と説明する。

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 ゲームは、参加者がチームを組み、パズルや暗号などの謎を解いて次のステージへ進む。謎は次第に難しくなり、中にはクリア率が2割しかない難関ゲームもあるが「謎が解けたときの快感や、クリアした人は表彰される特別感が味わえる」(黒田社長)。

 アニメを題材にしたゲームも多い。「名探偵コナン」のようなミステリーもあれば、「進撃の巨人」のようなアクション系も。黒田社長は「自分が物語に入っていけるのが、リアル謎解きゲームの面白さ。ヒーロー願望を持っている人は多いのでは」と人気の理由をひもといた。

【左】小林綾香さん【右】井上嵐丸さん

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若いファン お気に入りの作品は?

「青の炎」「ハルチカ」

 石川県津幡町、会社員、井上嵐丸(らんまる)さん(21) 読書するようになった高校生のころ、気に入った作品が貴志祐介さんの「青の炎」でした。犯人の視点で書かれているので、自分も「見つからないで」とはらはらしてしまいます。高校の吹奏楽部員が身近な謎を解決する青春ミステリー「ハルチカ」シリーズ(初野晴著)もおすすめですよ。

ホームズの1作目

 東京都目黒区、会社員、小林綾香さん(24) 幼いころ「名探偵コナン」のアニメを見て、ミステリーにはまりました。お気に入りはやはり、シャーロック・ホームズシリーズの1作目「緋色(ひいろ)の研究」。トリックはシンプルですが、犯行の動機がじっくり書かれて面白い。謎解きゲームも大好きで、全国の会場を70カ所以上巡りました。

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ほりいの深ほり

 「元年−」を買って読み、読者の1人として、少女たちのテンポの良い会話が面白かったと陸さんに話すと「自分はまだまだ。もっと自然な人間関係を書きたい」。後日、別の取材のため再び謎屋珈琲店を訪問すると、カウンターで小説のアイデアを手帳に書き留める陸さんの姿がありました。次回作が楽しみです。27日から11月9日までは読書週間。これを機に、紙面でご紹介した小説を手に取ってみてはいかが?

 

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