トップ > 北陸中日新聞から > popress > 特集 > 記事

ここから本文

popresspopress【特集】
 

被災地 不思議の物語

写真

 5年たっても、東日本大震災の被災地で語られる不思議な体験談。津波から逃げる幽霊を見た、タクシーに乗ったはずの客が消えた…。「何をばかなことを」と切り捨てず、まじめに向き合った3人がいる。科学では説明できない不思議な現象を通して、被災者の心の動きが読み取れる?

震災5年 今も体験談

 不思議な体験談が聞かれるようになったのは、2011年のお盆を過ぎてからだ。酒の席、茶飲み話の中で、「そういえば…」と自身が体験したり、聞いたりした怪談話を語り出すのだ。

 宮城、岩手、福島県で「幽霊を見たか」とアンケート調査をした日本大文理学部の中森広道教授。3県で345件の回答が寄せられた。

 中森教授は、阪神大震災や新潟県中越沖地震の調査もしてきたが、こんなにも長く怪談話が語られる地域は記憶にないという。「なぜ、東北だけ?」。中森教授は不思議がる。

 理由の一つに考えられるのは、独自の文化だ。山形県の出羽三山はミイラ化した僧侶が祭られている。あるいは、青森県のイタコに代表される口寄せ文化。東北には、生きる者と死んだ者が語り合う文化が根付いている。

 もう一つは、津波によってあまりにも多くの人が一度に亡くなり、遺体がいまだ見つからないこと。病死とは違い、さよならも言えずに別れることになった人たちの「また会いたい」という心が見せるのかも。

 1896年の明治三陸地震の津波でも幽霊は現れた。柳田国男がつむいだ「遠野物語」にも記されている。津波で妻を亡くした男が、その妻の霊に出合うという話だ。

東北の怪談 読み解いた3人

写真

復興への焦り 背景

「タクシーに乗る幽霊」で卒論

東北学院大4年 工藤優花さん(22)

 1年間、石巻市に通ってタクシー運転手に質問を続けました。幽霊との出合いを話してくれた7人は怖がってはいない。むしろ、幽霊たちに託された「無念さ」を大事に心にしまっておきたいという人が多かったのが印象的です。

 調査を通じて感じたことは、震災から立ち直って前を向きたいが、心が追いついていない人への関心が薄いということです。心の復興は、それぞれの速さで進む。人の心の動きなんて目に見えない。

 「前に進まなきゃ」。そんな焦りが幽霊を見せるのかもしれない。そういう人がいるということを教えてくれるのが怪談なのかもしれません。

写真

大災害の記憶 表現

東北地方の怪談話を収集

出版社「荒蝦夷」 土方正志代表(53)

 怪談は、ただの怖い話ではない。「なぜ、死んだんだ」「会いたい」「笑ってないとやってられない」…。そんな被災者の思いが込められていて、生きる者と死んだ者とが語り合う物語だと考えています。

 不思議な体験を単なるオカルトだと片付けるのでなく、被災者の心の叫び、つぶやきだと思って読んでもらいたい。東北は、昔から笑えるホラ話や泣ける話をみんなが尾びれ背びれをつけて語り継いできた。それが、実話かどうかはたいした問題ではない。今、語られる怪談話も東北の人たちが大災害をどう受け止め、表現したかを知るドキュメントなんです。

 東北在住の若手作家が怪談など不思議な体験談を集め、1冊の本としてまとめようとしています。100年後の「遠野物語」になるように。

写真

被災者の心情 反映

幽霊の目撃談をアンケート調査

日本大文理学部 中森広道教授(51)

 何度も現地に通ううちに、怪談話とともに、被災者の複雑な心境を聞くことになりました。津波が来るまでの時間であの人が助けられたんじゃないか、などという無念さ、悔しさ。被災地の中でも新聞で取り上げられない地域の人たちは「見捨てられた」と感じていた。

 彼らの気持ちはぐちゃぐちゃで、被災地の外にいる私たちにはなかなか伝わらない感情を抱えています。そんな心が怪談話には反映されているのかもしれませんし、幽霊について語り合うときに、ふと互いに慰め合うような気持ちになるのかもしれません。

あんな話 こんな話

 ■6月のある日、ダッフルコートを着た青年がタクシーに乗車した。行き先を尋ねると青年は、「彼女は元気だろうか」とひと言。運転手が振り返るとリボンがついた小さな箱が置かれていた。

 ■初夏の夜、タクシー運転手はコートを着た30代の女性を乗せた。目的地は、津波で更地になってしまった所。不審に思い、あらためて行き先を尋ねると女性は「わたしは死んだのですか?」。驚いた運転手がミラー越しに後部座席を見ると、誰も座っていなかった。

 ■仮設住宅を訪ねてくるおばあちゃん。茶飲み話をして、そのおばあちゃんが立ち去ると座布団が濡れている。そこで茶飲み友達は「あのばあちゃん、死んだんだっけ」と気付く。「ばあちゃん、物忘れがひどかったから自分が死んだの忘れてんのかもな」

 ■岩手県釜石市では、横断歩道を渡る幽霊たちが日ごとに増え、静岡県警から応援に来ている警官が交通整理にてんてこ舞いをしている。

 ■三陸沿岸のある町の歩道橋には、ある時間になると「鈴木さん」が立っている。鈴木さんは、津波で亡くなった。最後に目撃されたのは津波から逃れようと歩道橋に向かって走る姿だ。

  担当・蓮野亜耶

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索