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聞いて ミツバチの物語

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 こんにちは。わたし、ミツバチです。みなさんにどうしても伝えたいことがあって、ここに出てきちゃいました。世界各地でわたしたちに起きた異変のこと。わたしたちを救おうと絵本やミュージカルを作ってくれた人たちのこと。「だれもしらないみつばちのものがたり」。どうぞ、聞いてください。

仲間が帰って来ないよ

 「だれも〜」は、横浜市の養蜂家、後藤純子さん(60)の書いた絵本の名前だよ。後藤さんは、子育てが一段落した2006年、知り合いに分けてもらったミツバチを近くの梨農園の跡地で飼い始めたんだ。近くにサクラの木が多いその場所で、わたしたちは毎日せっせと蜜を集めたよ。初めて取れた蜂蜜はさわやかな香りがふわり。「とってもおいしい」と後藤さんも笑顔になったんだ。

 でもね、その年の夏のある日、仲間が巣に帰ってこなくなってしまったんだ。1万8000匹もいたのに、1週間で半分になっちゃった。わたしは悲しくて、なんにもやる気が起きなくなった。そんなわたしを心配して、後藤さんが原因を調べてくれた。

 ウイルスかな、ダニかなと考えたけれど違うみたい。そんなとき、仲間がいなくなる前に、巣の近くの果樹園に「ネオニコチノイド」という種類の農薬がまかれていたことが分かった。その農薬がわたしたちの脳に影響して巣に帰れなくなったり、免疫力が落ちて病気になりやすくなったりしたみたいなんだ。

 巣に残ったミツバチも病気の子ばかり。後藤さんはわたしたちが蜜を取りに行かなくてもいいように蜂蜜を水で薄めたものを塗ったりして手を尽くしてくれたけど、仲間は少なくなったままだった。

農薬のない眉丈山大好き

眉丈山の無農薬環境で育てたミツバチから採取された蜂蜜

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 そこで後藤さんは13年、わたしたちを石川県羽咋市の眉丈山に連れて来てくれた。ここでは、農薬を使わない農業を進めている。耳を澄ませばコオロギやイナゴの声が聞こえて、昆虫がたくさん。マタタビやクマノミズキなどのおいしい蜜も多くて、わたしはここが大好き。だからぶんぶん、遠くまで蜜を食べに行くよ。

わたしたちの問題 絵本に

ミツバチの紙芝居と絵本

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 元気なわたしたちの姿を見て、後藤さんにも笑顔が戻った。そして14年、ミツバチへの農薬の影響を知ってもらいたいと、ミツバチの体のつくりや暮らし、ミツバチがいなくなる理由を絵本にまとめて、読み聞かせをしてくれているんだよ。

舞台や映画化 すごい!

巣のまわりを飛ぶミツバチ役の子どもたち=長野県中川村で

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 その頑張りは他の人間たちにも共感の輪を広げた。長野県中川村のNPO法人「F.O.P」の代表杉浦歩実さん(37)は、後藤さんの絵本を読んで心動かされ、今年3月に絵本を原作にしたダンスミュージカルを上演したんだ。なぜ、ダンスかって? わたしたちが巣にいる仲間においしい蜜のある場所を踊りで知らせているからなんだ。

 出演者やスタッフは、小学生から60代まで総勢70人。みんなは村内の養蜂場などで聞き取りもして、2年間かけて準備してくれた。この道60年の養蜂家さんが飼っていたミツバチ400万匹ほどが6万匹までに減っていたこともあったし、リンゴの受粉にわたしたちの力を借りている農家も激減に困っていたんだって。

 ミュージカルは自然豊かな中川村を舞台にして映画化されることに! 撮影は終わり、来年には羽咋市や静岡県、埼玉県でも上映される予定だよ。他にも、ミュージカルを見たフランス在住の紙芝居作家築野友衣子さんは、後藤さんの話を基に紙芝居を作り、パリでも上演してくれたんだ!

 1冊の絵本をきっかけに、大勢の人たちが動いてくれた。この輪がもっと広がって、わたしたちミツバチや昆虫と人間が仲良く暮らして、お互いに幸せな世界をつくれるといいな。

ミツバチも人も生きやすく

絵本作者・後藤純子さん

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 ミツバチが大量にいなくなる現象は2005年ごろから、世界各地で起き始め、07年までに北半球の4分の1のミツバチが消えたといわれています。

 原因とされるネオニコチノイド系農薬は、たばこに含まれるニコチンに似た物質が主成分。1990年ごろから農作物や家庭用の殺虫剤として広く使われています。子育てが盛んな春先にこの農薬を浴びたミツバチが巣に帰ってくると、農薬の付いた花粉を子どもたちが食べて成長できなくなり、巣が全滅してしまうこともあるのです。

 農薬を使えば農作物の管理は楽ですが、ミツバチの世界を壊してしまっています。ミツバチは多くの植物の花粉を運び、生態系を維持する役目も担っています。農業でもイチゴやブドウ、トマト、ナスなどの果物、野菜の受粉に貢献。もし、ミツバチがいなくなれば実が採れず、壊滅的な被害を受けます。

 絵本を書くにあたり、実際に無農薬での米作りも体験しました。できないことを訴えようとは思っていません。ミツバチも人間も、その他の生き物も生きやすい環境をつくることができるのは、人間のみです。

“問題の農薬” 国内では規制なし

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 ネオニコチノイド系の農薬は欧州連合(EU)が2013年から2年間の使用停止に踏み切り、米国やカナダも規制している。

 国内では農林水産省は13年度から農薬によるミツバチの被害の調査を開始。14年度までに148件の被害が報告された。水田のカメムシに殺虫剤が使われる夏の被害が多かった。

 農水省は農薬の使用自体は規制していないが、ミツバチの活動が盛んな時間帯の散布を避けるなどの配慮を呼び掛けている。新たな農薬の開発時にはミツバチへの影響の試験結果を提出するように要求。ミツバチへの毒性が強ければ、農薬のラベルに散布時の注意事項を表示させている。

魅力とろ〜り ハチミツトリビア

 ◇ティースプーン1杯 1匹のミツバチが集める蜜の量は一生でティースプーン1杯だけ。数百、数千もの花を飛び回り、やっと1杯の蜂蜜が取れる。

 ◇蜂蜜は腐らない!? 考古学者が古代エジプトの墳墓から約3300年前の蜂蜜瓶を発見したとき、その品質にほとんど変化はみられなかったという。

おまけ トリビア

担当の蓮野亜耶記者

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 ◇担当記者は蜂蜜好き 蓮野記者の朝食はティースプーン1杯の蜂蜜とさゆ。そして、蜂蜜を掛けたヨーグルト。6種類の蜂蜜を気分や料理に合わせて使い分け、保湿効果や殺菌作用を期待して、顔のパックやにきびケアにも活用している。No Honey, No Life。ミツバチさん、万歳。蜂蜜、万歳。

 

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