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1泊2日 記者が修行僧体験 宿坊 心身清らかに

(上)宿坊体験で読経をする僧侶たちとともに手を合わせる谷大平記者(下)静寂に包まれる座禅堂で精神統一=いずれも石川県輪島市の総持寺祖院で

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 お寺を訪れた参拝者向けの宿泊施設「宿坊」。場所によっては座禅や写経の体験もできて、若者の利用者も意外に多いらしい。山門の奥にはいったい何が、と好奇心がうずいた。私、谷大平(26)も1泊2日の修行僧体験に。不摂生きわまる生活で汚れた心を清めつつ、人気の秘密を探った。

座禅 雑念を超越

 せっかくなら、できるだけ厳しい修行体験ができる宿坊をと選んだのは石川県輪島市の曹洞宗大本山の総持寺祖院。鎌倉時代末期に創建された禅寺として全国的に著名なお寺だ。「朝は4時起き」との案内に腰が引けながらも、意を決して予約を入れた。

 体験初日。夕方にお寺に着き、2年ほど前に完成したばかりという宿坊へ。木の香りが漂う8畳の和室で、テレビはないが、洋式トイレやクーラーも完備。少しほっとした。部屋は9室。土日は満室になることも多い。

夕方のお勤めで、本堂で読経する僧侶たち

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 修行僧の指導役市堀孝宗さん(26)から早速、歩き方を教わる。両手はみぞおちの前で重ねてぶらぶらさせず、なるべく足音は立てない。練習するにつれ、気分も高まってきた。

 体験本番は参拝客もいなくなる夜、座禅堂に入った。白色の壁沿いに丸いクッションと座布団のセットが並ぶだけ。簡素で、薄暗い。市堀さんが「警策(きょうさく)」を手にした。居眠りや集中できていないときに繰り出されるおなじみの細長い木の板だ。思わず顔がこわばる。すかさず、「たたかれることは罰と思われがちですが、文殊菩薩(ぼさつ)からの励ましなのです」と市堀さん。隣に座る修行僧に負けじと背中をピンと張り、壁に向かって薄く目を開けた。

(右)心を落ち着かせ、黙々と写経(左)手本となるお経が透けた紙の上からなぞっていく

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 遠くに響く虫の鳴き声と時折「きゅるきゅる」と鳴る自分のおなかの音以外、何も聞こえない。始まって10分。「足の組み方が悪いかな」「これ、記事でどう表現しよう…」。雑念が頭に浮かんでは消える。トントンと肩に感じる木の感触。来た。警策だ。合掌し頭を下げると、パシンと肩に軽い痛み。仕切り直そうと深い呼吸を一つする。今は、何も考えてはいけない時間。思えば取材に追われる日々でこれほどぜいたくな時間もない。残り30分は、あっという間だった。

日常見直し 感謝

 2日目。午前4時。部屋の外から聞こえる声で目を覚まし、扉を開けると、法衣姿の市堀さんが立っていた。「暖かい服装をしてください」と促され、服を着込む。足だけははだしだ。本堂につながる廊下は真っ暗。するする進む市堀さんの後を追い、段差につまずきながら歩く。外の闇には寺の建物の輪郭がかすかに浮かんで見えた。

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 まずは座禅。不思議と寒さは気にならない。午前5時すぎには鐘の音を合図に、他の僧侶も続々と集まり、朝のお勤めが始まった。未明の堂内に読経が響く厳粛な雰囲気に圧倒されながらも、見よう見まねで参加した。空は白んできたが、寒さは逆にだんだん骨身にしみてきた。午前6時すぎ、朝がゆのほのかな味をかみしめ、息をついた。

 食後は茶わんに少量のお湯を入れ、たくあんで内側を拭く。最後にはお湯もきれいに飲み干し、決して食べ物を無駄にしない。「食事も修行の一環」と市堀さん。生活の隅々にまで多くの規則があった。入浴の前後には、浴室前に安置されている菩薩像に礼拝。風呂場では私語禁止。体を洗うにはおけにためた水を少しずつかけ、節水を心掛ける。食事や入浴のありがたみに自然と気づかされた。

堀内克彦代表

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力湧く「びっくり箱」

「研究会」堀内代表語る

 100カ所以上の宿坊を訪れた宿坊研究会の堀内克彦代表(37)の話

 宿坊を訪れる若者の目的は人それぞれ。一度泊まってみたいと好奇心で利用する人や歴史好きな男女。中には日常生活に悩みがあって癒やしを求める人もいる。共通するのは非日常的な体験ができるという宿坊の魅力に引かれていること。自然が豊かな寺の境内に立地している宿坊も多く、一種のパワースポットとして人気があるようだ。

 1999年の冬に私が初めて京都市の宿坊に泊まった時も、観光旅行で日中歩くのとは違う夜のお寺の雰囲気に魅了された。それから全国各地の宿坊に泊まってみたが、まるで「びっくり箱」のように各宿坊に新鮮な驚きや新しい発見がある。

 2000年には、全国各地の宿坊を紹介するインターネットのサイト「宿坊研究会」を立ち上げた。現在では月に50万アクセスがあり、若者への情報提供に一役買っている。09年からはお寺や神社に関心を持つ男女の出会いの場「寺社コン」を関東、関西圏などで始めた。昨年は45回開き、毎回20〜50人が参加。特に30代の参加者が多い。

 たった1日半の非日常だが、夜間や早朝の境内の荘厳さには感動さえ覚え、日々の生活を見直す濃密な時間だった。細かな規則が多いのは心を整えるため。市堀さんの「無意識にできるようになるまで修行しないといけないんです」と語る声が耳に残る。帰りの車ではいつもより背筋がしゃんとなっている気がした。

絶景、割安… 人気の場所

白山自然智の里・生雲(石川県小松市那谷町20の13、14)

白山を望む宿坊で、願い事が書かれた符を焼く「火祭り」=石川県小松市那谷町で

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 紅葉の名所として知られる那谷寺の宿坊。寺からは車で20分ほどの距離にある円行山山頂に建つ。宿坊からの白山や日本海の眺めが人気。

 願い事の書かれた符を那谷寺の僧侶が焼いて成就を願う「火祭り」や写経、寺までの散策などができる。

 和室2部屋の他、洋室も4部屋ある。宿泊料は1泊2食付きで1人2万円(税抜き)。那谷寺の拝観料込み。希望する人には精進料理を提供。問い合わせは、生雲=電0761(23)0577=へ。

ユースホステル天香寺(富山県朝日町大家庄913)

 鎌倉時代に創建された曹洞宗の寺で50年近く前から宿坊を営む。習字教室に使っていた部屋と本堂の和室7室を宿坊として開放。1人1泊3000円(税込み)と割安な値段が魅力的だ。

 同じ境内にある庫裏の台所を自由に使用できる。風呂もあるが、宇奈月温泉や明日温泉を利用する人も多い。

 宿泊者は無料で30分の座禅体験ができる。若い1人客や大学生の団体、宿坊から見える北陸新幹線の車両目当てにした鉄道愛好家も訪れるとか。

 問い合わせは、ユースホステル天香寺=電0765(83)3339=へ。

 

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