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春画をのぞく アート?ポルノ?魅力を解読

【上】喜多川歌麿「歌満くら」(「春画展」広報事務局提供)【下】渓斎英泉「あぶな絵源氏物語」(「春画展」広報事務局提供)

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 男女の色恋や性交を描いた春画が今、注目を浴びている。東京都内2カ所で開催中の展覧会は来場者でごった返し、女性や若者の姿も目立つ。「わいせつ物」と見なされることが多く、芸術としては評価されにくかった春画が、多くの人々を引きつけている秘密とは何か。若き春画研究者の石上阿希さん(35)らの話から読み解く。(担当・山内晴信)

 「春画の研究をしていても就職できないよ」。石上さんは知人からのひと言を苦笑しながら振り返る。現在は、国際日本文化研究センター(京都市)特任助教。研究を始めた十数年前は、春画を保管していると公表する研究機関はほとんどなく、同年代の女性研究者もいなかった。「周りの人にはすごく心配された」

 江戸時代の国文学を研究していた立命館大(同市)の学生時代、勉強のついでに軽い気持ちで歌川国貞の画集を手にした。心中に失敗し、1人で死んだ女とそばで手を合わせる男の絵。実は、その絵をめくると別の絵が見られる仕掛けがあり、幽霊になった女が男の局部を食いちぎって昇天する場面が描かれていた。

 春画に対し「卑わい」という先入観があった石上さんだが、絵に込められたストーリーや仕掛けの面白さなどを知り「それまでに学んだことでは定義づけられない分野。調べてみたい」と感じた。卒業論文のテーマを春画にし、本格的な研究を始めた。

 京都には作品が多く残っていたが、研究を進める上で重要な作品目録などはなかった。「自分が研究するために土台を整えなければいけない」。気付けば春画に深く関わるようになり、2013〜14年に英国の大英博物館で開かれた展覧会にも携わった。

春画の画集を手に魅力を語る石上阿希さん=京都市内で

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 最近では女性誌で春画の特集が組まれるなどし、肯定的な見方も増えてきた。石上さんは、春画が「わいせつ物」として弾圧された時代を今の若者は知らず、鑑賞に抵抗感が薄いのが要因とみる。

 明治に入り新政府は、西洋文化を奨励し、西洋人に知られたくない日本古来の文化や風習を弾圧した。「前時代的で卑わいなもの」とされた春画もその一つ。戦後になってもこうした価値観は変わらず、春画はわいせつ物と見なされた。画集の付録の参考資料として無修正の春画を出版した研究者が最高裁で有罪判決を受けた例もある。

 「わいせつ物」の定義が緩和され、ヘアヌード写真集などが出版される1990年代に、ようやく春画への見方も変わってきた。

 現在では着物を描く細かな筆遣いなど絵としての完成度の高さを評価したり、実物より大きく表現された局部を「くだらない」とおもしろおかしく楽しんだりする見方が広がっている。大英博物館での展覧会では水を張ったたらいに映った女性器とその周囲に置かれた小物を滋賀県の名所「近江八景」に見立てた作品が人気を博した。

 「春画の魅力は多様性を許す幅の広さ。ポルノだ、アートだ、と分類するのではなく、それぞれの見方で受け止めてもらいたい」と石上さん。東京での展覧会をきっかけに春画をめぐる議論が巻き起こることを期待している。

東京の2会場 女性も熱視線

日本で初めて開催される「春画展」=東京都文京区の永青文庫で

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 東京都内では文京区目白台1の永青文庫と中央区銀座4の永井画廊で春画展が開かれている。いずれも12月23日までで、18歳未満は入場禁止。

 永青文庫では、大名の細川家が所蔵していた肉筆画や庶民の間で楽しまれていた浮世絵版画など133点を集め、国内初の本格的な春画展とされる。入場料は1500円。毎週月曜は休み。祝日の場合は開館。

 公家風の男と唐衣の女の情事を描いた「欠題(けつだい)十二ケ月」や、天皇の娘と警備の男の恋の様子を表現した絵巻物「小柴垣草紙(こしばがきぞうし)」などがあり、1枚ごとに足を止め、真剣な表情で眺める人の姿が目立った。カップルや女性だけの集団も多く、9月19日の初日だけで2000人が来場した。

 杉並区の会社員礒野裕子さん(26)は肉筆で描かれた絵巻物に「衣装がめちゃくちゃきれいだった」と感心しきり。「変に倫理的になるのではなく、身近なものとして春画を楽しめれば」と語った。大阪府富田林市のアルバイト井上真利さん(27)は「女性が困った顔や苦しい表情で描かれていたのが印象的。自宅の近くでもやってほしい」と期待を寄せた。

 問い合わせはハローダイヤル=電03(5777)8600=へ。

 永井画廊の展覧会は、春画の背景知識を学べるのが特徴で、石上さんが監修した。原画10点やパネルを並べ、葛飾北斎の作品のストーリー解説や、春画の取り締まりや過去の裁判についても紹介している。石上さんは「江戸時代の人がどう春画を読んでいたかを分かってもらえる」と話す。入場料は1000円、2人組での入場は1600円。問い合わせは永井画廊=電03(3547)9930=へ。

武士の「お守り」北陸でも流通

自ら収集したり模写したりした春画を解説する丹羽俊夫さん=金沢市内で

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 北陸地方にも庶民を楽しませた版画や肉筆絵巻物の春画が伝わる。春画を150枚以上持っている日本画家の丹羽俊夫さん(67)=金沢学院大特任教授=によると、加賀藩の関係者が持ち込んだものが多いようだ。

 加賀藩は幕府の動向を探る目的もあり、版画の版元があった江戸や京都に薬師を派遣。薬師は商売を円滑に進めるために春画を集め、薬を購入した人にひそかに手渡していたらしい。版画はその後、庶民の間で伝わり、丹羽さんも45年ほど前に知人から譲り受けた。

 肉筆の春画は「お守り」として描かれたとみられる。武士には武運を祈って武具に春画を忍ばせる風習があった。丹羽さんによると、加賀藩の有力武家は戦がなかった江戸時代でも甲冑(かっちゅう)と一緒に春画を大事にしまい、先祖代々継承してきた。

 こうした春画の大半は外国人に買い取られたり、終戦時の取り締まりで回収されたり。所有者が人目をはばかって処分する例も。丹羽さんは知人から「鑑定してもらおうと思ったけれど、いやらしい絵だったので捨てた」と言われたことがあったといい、「もったいない」とため息をついた。

 

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