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太鼓鳴れば 恋心響く? 記者の仮説 バチッと検証

太鼓を打ち鳴らす大崎誠也さん=石川県七尾市で

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 祭りの季節まっただ中の石川県能登地方。キリコに注目が集まるが、もう一つの主役が太鼓だ。男たちが響かせる音色は、時に野性的で時に叙情的。荒ぶる打ち姿は、同性でもほだされる。ふと、思った。「太鼓の音色は、恋心をくすぐるんじゃないか」。こんな馬鹿げた仮説を調べてみた。 (担当・渡辺大地)

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 「かっこいい太鼓打ちがいる」。こんな情報を聞き付け、太鼓の魅力ならまずは打ち手に聞けと、同県七尾市の太鼓グループ「西湊鬼楽太鼓」の練習場に向かった。お目当ては能登の大会で入賞歴のある大崎誠也さん(27)=同市。茶髪が似合うイケメンだ。

 大崎さんがばちを振り下ろすと、記者のおなかにずしりとした衝撃が響いた。さすが実力者。2年前に結婚するまでは、イベントに来てくれるファンが年齢を問わず10〜20人はいた。「『大崎さんの太鼓を聴くと元気が出る』『自然と笑顔になる』と伝えられたこともあります」と打ち明ける。取材の受け答えも堂々としたもの。「太鼓をやっていると、人に見られる意識が強くなるから性格も肉食系なんです」

太鼓が縁で妻と結ばれた松平武男さん。鍛え上げられた肉体が魅力的だ=石川県七尾市で

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 「福祉施設でたたくと、涙を流してくれるお年寄りもいますよ」。こう教えてくれたのは、太鼓で鍛えた分厚い胸板が魅力的な西湊鬼楽太鼓のリーダーの松平武男さん(41)=七尾市。「生音だからこそ、感動してくれるんじゃないですかね。いわゆる『鼓動』ってやつです」

 そんな松平さんは、太鼓が縁で妻(30)と結ばれた。当時は見ず知らずだった妻が、松平さんの打ち姿をインターネット動画で見て、フェイスブックでアプローチしてきたのだという。

 夫が所属する同県志賀町のグループ「志賀天友太鼓」の“追っ掛け”を自任する山沢鳴美さん(40)=同町=は、独特の表現で魅力を語る。「太鼓の音って耳じゃなく、目から入ってくるんです。なんかゾゾゾーって音に吸い込まれる感じで」

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 そんな音の魅力を科学的に分析した団体が県内にあった。白山市の浅野太鼓文化研究所。発行する雑誌「たいころじい」で2004年、脳機能の専門家と行った研究を紹介した。

 記事によると、太鼓の音を聞いた被験者は、無音の状態と比べて「興奮度」や「喜び」の数値が上昇。太鼓の音に含まれる低周波音が、脳の中心部を刺激し「快感」につながる可能性を指摘。打ち手が躍動する姿そのものにも感動の要因があると言及している。

 実験に携わった編集長の小野美枝子さんは「空気を震わせ、体で音の響きを感じる。それが奥深い音色となり、感動に誘われるのではないか」と分析する。

 その「快感」が恋愛感情に発展する可能性はないのか。記者は科学的な裏付けを探るため、相手に好意を抱くことと関係がありそうなホルモンに着目した。その名も「オキシトシン」。女性の子宮を収縮させたり、母乳を出したりする作用があり、近年では「ラブホルモン」とも呼ばれる。男女間の恋愛感情や、親子間、師弟間の信頼づくりにも関わりを持つとされる。

 太鼓の音を聴くとオキシトシンが分泌されやすいのでは? こんな仮説を金沢大の東田陽博・特任教授(神経化学)にぶつけた。

 記者 オキシトシンはどうすれば分泌されますか?

 東田特任教授 男女が社交ダンスを踊り、分泌した例はあります。ベテランと素人が二人一組でパラシュート降下した際、素人側のオキシトシンが上昇した実験結果もあります。

 記者 太鼓の場合はどうでしょうか?

 東田特任教授 気持ちのよい音楽で分泌される可能性はあります。でも、太鼓との因果関係を示す実験は知りませんねえ。

 肩を落とす記者…。だが、東田特任教授がすかさず助け舟を出してくれる。「京都で、ある取り組みを知っています」

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 京都府綾部市の心理療育施設「るんびに学園」。家族から虐待を受けたり、集団生活になじめなかったりする子どもが共同生活を送る。施設の名物が、12年前の設立とほぼ同時に始めた「和太鼓・鼓綾(こりょう)」だという。小学生13人、中学生6人が週末に仲間と練習に励み、発表会で成果を披露。メンバーは平均2、3年は太鼓を続ける。

 学園によると、個人差はあるが、やる気が向上したり、落ち着きがでたりという心理面の変化が表れている。当初は集団の中に入れなかった子どもが、授業に出席できるようになったケースもあるという。

 実は、東田特任教授は7月、太鼓を打つ子どもたちのオキシトシンの分泌について、学園との共同研究に乗り出したばかり。「太鼓を一緒に打つことで仲間意識が醸成され、情緒が安定したことは推測できます。オキシトシンとの関係はまだ分かりませんが、情緒の安定に関与していると考えるのは、最近の流行とも言えます。音がどう関わっているかも、現時点では何も言えませんがね」と語った。

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 結局、太鼓の音が恋心に与える影響は分からずじまいだが、心を安らげてくれる可能性があるとは言えそうだ。せわしない現代。たまには太鼓の音に身を委ねるのもいいかもしれない。

志賀で21日、石川最古の大会

ぜひ聞いて!

 太鼓の音色にどっぷりと漬かってみたくなった方に、記者のお薦めを紹介しよう。21日に石川県志賀町の小浜神社で開かれる県下太鼓打競技大会だ。地元青壮年団が主催する大会で、今年は83回を迎え、県内で最も古いとされる。

 一つの太鼓を二人一組でたたく能登地方伝統のスタイルで、音の大きさやリズム、打ち姿などを競う。狭い境内に特設された舞台には毎年50組ほどが出演。観客は間近で迫力のある音を堪能できる。大会は夜遅くまで続き、薄明かりの中で打ち手が躍動する姿も、視覚的に気分を盛り上げる。

 優勝の「大関」を目指し、10年以上挑戦を続ける太鼓打ちも多い。毎年のように優勝者が流す涙は、「男のドラマ」。そんな光景に接すれば、自然と心は揺さぶられるかもしれない。

 午後1時開始。入場無料。

迫力と情熱 男のドラマ!

昨年9月の県下太鼓打競技大会で、荒々しく太鼓を打ち鳴らす4組の打ち手=いずれも石川県志賀町で

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