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ネット時代のニュースって何? 新聞、生き残れるの??

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 突然ですが自己紹介です。入社10年目の31歳、ポプレス編集長歴半年の福岡範行と申します。今回は私の悩みにお付き合いください。何かって? 新聞離れが進む若者の心をつかむにはどうすればいいのか、です。ありとあらゆる人がインターネットで情報発信する時代に新聞が存在感を発揮して生き残る方法はあるの? 若者が求めるニュースって何なんでしょう?

大学生の提案 聞いてみた

猫背直すアプリ?

 大学生の意見を聞きたくて、7月17日、大阪府高槻市の関西大総合情報学部のネットジャーナリズム実習を訪ねました。気が早い大型台風が上陸し、鉄道ダイヤが乱れに乱れた、あの日です。普段の倍の6時間かけて大阪まで行ったのには理由があります。学生たちが4月から考え抜いたという新しいニュースサービスを知りたかったのです。

 この日は集大成の発表会。学生28人が7グループに分かれ、サービスをPRしました。正直、戸惑いました。だって学生たちの提案は、自分が猫背かを通知してくれるスマートフォンアプリとかだったんですから。

猫背を通知してくれるアプリが提案された発表会=大阪府高槻市の関西大で

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 ブラジャーのワイヤに付けたセンサーが猫背を感知すると、スマホが「にゃ〜」と鳴きます。猫背気味の私もちょっと気になるアプリですが、いやいやさすがにニュースじゃないでしょ。でも、その言葉はのみ込みました。壇上で発表したのは、猫背に悩む身長143センチの女子学生。「猫背のせいで余計に小さく見られてしまう」と訴える彼女の目は真剣でした。

 最も高評価だったサービスはスマホアプリ「おねぼうくん」。寝坊しそうな人の携帯電話に強制的にモーニングコールをし、その返答の声で二度寝しないかを確認できる仕組みです。3年生山田笑里(えみり)さん(20)は「私の周りは寝坊が多くて困る。友人が寝坊しているかは、私にとって重大ニュースなんです」と断言しました。

 別のグループの3年生西海湧登さん(20)は「1人にしか必要ない情報もニュースになる」。電車内で座席を探す人の存在を知り、席を譲れるアプリを提案しました。座席を譲ろうと声を掛けたときに断られたり、不機嫌になられたりされず、譲り合いが当たり前の社会に近づきます。

猫背を通知してくれるアプリを真剣な表情でPRする大学生ら=大阪府高槻市の関西大で

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受け手が価値判断

 どれも「報道」ではありませんが、人が知りたがる新鮮な情報という意味ではニュースにも思えます。少なくとも、学生が本当に欲しい情報を突き詰めた結果です。新聞社には関係ないと切り捨てず、なぜそれがニュースなのか、混乱する頭を振り絞り考えました。

 時事問題はインターネットで、それに対する個人の意見までも簡単に見られます。分からないこともだいたい検索サイトで調べられる。見つけにくいのはむしろ個人的な、自分に身近な情報なのかもしれません。

 身近な情報といえば、新聞の地方版は地域の細かなニュースの宝庫。地域紙の強みですが、学生が目を向けたのはもっともっと狭い世界の情報。そんなミクロな情報も、工夫次第で手に入る時代になっています。

 講師のジャーナリスト藤代裕之さん(42)は「車載カメラに映った事故の映像も一つのニュース。それを発信する仕組みさえあれば、車もメディアになる」と語ります。思いも寄らないものもニュースになり、発信源になる。どれが価値あるニュースなのかを決めるのは、情報の出し手ではなく受け手です。

 夕方、雨は収まり、JR北陸線の特急も運転を再開していました。でも、気持ちは晴れません。無性に食べたくなったたこ焼きのカリッとした食感に頬を緩めつつ、「新聞の人だけで議論しても、いつも同じ話で面白くない。新しいものは生まれないでしょ」という藤代さんの言葉を何度も、何度もかみしめました。

ジャーナリストキャンプへ

 ある金沢の主婦は、安全保障関連法案の国会論戦を一部、文字起こししてインターネットに掲載。1万件以上の支持を得ました。「国会中継を見たくても見られない人がいるかも」という情報を受け取る人たちへの想像力が、価値ある情報=ニュースを生みました。

 どうすれば多くの人の心に届くニュースを発信できるのでしょうか。

大衆受けしたけど

記事の方向性を議論する福岡範行編集長(左から3人目)ら=浜松市で

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 ネットメディアから学ぼうと、6月に浜松市で開かれた2泊3日の研修会「ジャーナリストキャンプ」に参加しました。取材テーマは「浜松餃子」。初めて行く土地で何を書いたらよいか分からず、大衆受けしそうな食べ物ネタに走りました。そこに何の問題意識もありませんでした。

 手探りの取材で、浜松餃子ブームに振り回された小規模店主らに出会い、華やかなB級グルメの裏側を描きました。ネットに公開すると、読者数はキャンプの記事の中では上位でした。

 でも、悩んでいました。今回は、ネットで目立つネタに助けられた。大切なニュースは地味な分野にもあるのに、自分はそれを掘り起こし、興味深い記事に書く力があるのだろうか。

 安易に受けを狙うのは、やはり違う。キャンプでは「記事を誰に、どう読んでほしいのか」を徹底的に議論し、問題意識を研ぎ澄ませていました。日々の新聞作りでも必要なことだと思いますが、普段どこまで読者を意識し、深い共感を呼ぶ工夫を考えているか。そう、自問しました。

1人動かす記事を

 今月2日、東京で開かれたキャンプの報告会。指導役の1人だった島根県のジャーナリスト田中輝美さん(39)は「10万人に読まれることを目指すより、誰か1人の行動を変えられる記事を模索し続けたい」と語っていました。

答えて 岡安編集局長

悲観的に考えていないよ

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 中日新聞北陸本社の岡安大助編集局長(56)=写真=に新聞の未来を尋ねました。

 −若者に読まれない。

 日本人は内向き。特に学生は自分から半径3メートルの世界で生活していると感じる。新聞が近づいていくなら新社会人だろうが、戦略的には取り組めていない。

 −記者は新聞の戸別配達制度や販売店の営業力に甘えてこなかったか。

 どうなんだろうか。ただ、作る側の都合で紙面を作っていないか、読者にとってベストかどうかは、もっと研究しないといけない。

 カメラ付きの車が事故の第一報を伝えられたとしても、続報までは書けない。客観的に背景を探る取材者が必要だ。その記事を読みたい人はいるし、日本より少ない読者数でも海外の新聞社は成り立っている。権力者の監視などの使命も変わらない。僕はあまり悲観的に考えていないよ。

 

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