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ローカル線で行こう

九州の海沿いを走り抜ける肥薩おれんじ鉄道の観光列車「おれんじ食堂」

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 のどかな田園風景を走るローカル線。新幹線が脚光を浴びる陰で、地域住民の貴重な足として奮闘するが、路線維持の苦労は尽きない。赤字続きのトンネルからの抜け方は何か。観光客誘致や地元密着で成果を挙げ、風上に向かって進むローカル線に乗ってみた。

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絶景 至福の食堂車

 柔らかく濃厚な口当たりの鹿児島の黒豚の赤ワイン煮込みにほおが緩み、身の締まったマダイのムニエルの豊かなうま味にうなった。九州西部を走る肥薩おれんじ鉄道(熊本県八代市)の観光列車「おれんじ食堂」は、九州の食材をふんだんに使った料理が次々と運ばれてくる。

 車窓から望む八代湾は穏やかで、海面は日光にキラキラと輝く。「鹿児島に入ると見える東シナ海は波が高く、海の表情は変わりますよ」と客室乗務員の横手千幸さん(23)。景色の変化をのんびり楽しみ、至福の時間に浸った。

 新八代駅(八代市)から川内駅(鹿児島県薩摩川内市)まで、4時間かけて旅する観光列車。1番人気のスペシャルランチのコース(予約制)はいつも満席だ。2万1000円と強気の価格設定だが、料理の質や乗務員のおもてなしを考えれば納得。優雅な旅の思い出になる。

 おれんじ鉄道は2013年、全国のローカル線に先駆け、食事を楽しめる観光列車を導入した。当時は乗客の8割が定期利用客だったため、観光客の呼び込みが収入アップのかぎだと考えた。「(並行して走る)九州新幹線とは違う、ゆっくり景色を眺め、食事を楽しめる場所をつくろう」と踏み切った。

(上)車窓に広がる景色を見ながら食事を楽しむ乗客ら(下)「おれんじ食堂」が力を入れる食事、スペシャルランチ(6月分)=いずれも鹿児島県で

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 食堂を名乗る観光列車だけに、有名レストランにも引けを取らない料理で勝負する。地元の食材を知り尽くす沿線の4店と提携し、毎月メニューを更新。料理人自ら農家を回って食材を調達するなど、車内でしか味わえない料理を作る。

 おれんじ鉄道の社員も試食を繰り返す。季節に応じた食材を生かしているか、海を見渡す車内で映える色合いかどうか、プロの料理人相手に本音をぶつける。淵脇(ふちわき)哲朗社長は「おいしい食材や伝統料理は全国各地にあるが、料理人と議論しながら強固な関係を築いているのが強み」と語る。

 14年度のおれんじ食堂の乗客数は1万2300人で、純利益が1100万円。相乗効果で、鉄道全体の乗客数も上向いている。淵脇社長は「社員が自分たちの力で実績を作ったことで、鉄道に誇りを持っている」と、手応えを感じている。

 20年以上前、乗客を長距離輸送する東海道新幹線や特急列車には必ず食堂車があり、豪華列車の象徴だった。子どものころ、新幹線に乗るとこっそりのぞきに行き、「大人になったらお金をためて、ここで食事をしたい」と憧れていた。鉄道の高速化などで減った食堂車は、観光で復活した。田舎のローカル線が、あの日の夢をかなえてくれた。

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愛される地域の足

 「あらかわいい」「今日は静かね」。茨城県ひたちなか市を走るひたちなか海浜鉄道湊線の那珂湊駅で、ホームに寝そべる黒猫を買い物帰りの乗客が囲んだ。黒猫の名前は「おさむ」。6年ほど前から駅にすみ着いた。後に妹分の「ミニさむ」も加わり、2匹そろって駅の人気者になった。

 おさむがすみ着く1年ほど前、この路線は乗客の減少と経営赤字によって廃線寸前となり、地元の茨城交通から分社開業した。その時から再生の先頭に立つのが、富山県内の富山地方鉄道や万葉線で勤務経験のある吉田千秋社長だ。

のどかな田園風景の中を行くひたちなか海浜鉄道湊線=いずれも茨城県ひたちなか市で

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 重視したのは地元の利用客。高校入学を控えた中学生や通勤客に年間定期券を売り込むことから始め、開業から6年で乗客を約20万人増やした。昨年には市民からの寄付の協力も得て、新駅「高田の鉄橋駅」を建設。新興住宅地の住民も取り込んでいる。

 「鉄道の再生には地元の協力が欠かせなかった」と吉田社長は振り返る。その中心は、市内23の自治会や商工会などが集まって8年前に結成した支援団体「おらが湊鉄道応援団」だ。

 駅近くの商店街を紹介する地図など沿線の案内を自前で作り、海浜鉄道のホームページ用の写真も撮影。ツアー客のガイドからおさむとミニさむのお世話までをもこなし、社員以上の働きぶりだ。

 多岐にわたる活動内容に混乱しそうだが、広報やまちづくりなどの担当をはっきり分け、効率的に回す。ひたちなか市は、大手電機メーカー日立製作所の企業城下町。市民に同社の社員やOBが多く、地域の結束力は抜群だった。

(左)「おらが湊鉄道応援団」が手作りする観光パンフレット(右)那珂湊駅で地域住民の人気を集める黒猫「おさむ」

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 海浜鉄道は今年5月、湊線の7周年記念イベントを開催。地元の商店街の祭りと同じ日に行い、路線近くの花の名所「国営ひたち海浜公園」の入園無料日とも重ねた。イベントの来場者は2000人以上となり、大成功を収めた。

 魅力のある観光資源や商店街は全国にある。吉田社長は、そこに鉄道で足を運んでもらう方法を考え、宣伝や経営努力をするのが鉄道会社の役割だと指摘。「お金がなくても、住民と協力して知恵を出し合えばまだまだ乗客を増やせる」と信じている。

 湊線は、別の路線から引き取った“中古”車両が多い。現役最古は、50年前製だ。「まだ走るのにもったいないですよね」と吉田社長。購入費用は、新車両に比べて億単位の節約になるという。古い塗装、ディーゼルカー特有の揺れ、ガスのにおい−。時の重みを五感でひしひしと感じた。これが味わえなくなるのは、本当にもったいない。

北陸の三セク 新幹線で明暗

 北陸新幹線開業から間もなく4カ月。東京−金沢間を結ぶ大動脈の開通で、新幹線と並走する石川−長野県の在来線の経営がJRから第三セクター4社に引き継がれるなど、北陸のローカル線の環境は一変した。

 新幹線の恩恵を引き寄せたのが、富山県高岡市の万葉線。2014年の改修でJR高岡駅構内に延伸し、新幹線新高岡駅も通るJR城端線と直結。新幹線からの乗り継ぎをスムーズにして、乗客を増やした。

 石川県穴水町ののと鉄道は、今年4月から観光列車「のと里山里海号」を運行。新幹線開業後の乗客数は2割ほど増えているという。山下孝明社長は「ある程度の乗客増は想定内。もっと乗ってもらえるように経営努力をしていかなければならない」と力を込める。

 北越急行(新潟県南魚沼市)では、乗り入れしていた特急「はくたか」が廃止に。新潟と石川、福井を結び、収益の約9割を稼いでいた貴重な財源を失ったことで、資金に余裕があるうちに特急に頼らない経営への転換が求められている。

 第三セクター鉄道等協議会によると、加盟する35社のうち13年度に黒字だったのは2割の7社。沿線の人口減少、設備の老朽化など課題は多く、生き残りを懸けた挑戦は続いている。

 

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