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地上13メートル空中ブランコ 怖っ…けど俺は飛ぶ! 本紙・木戸 無謀な挑戦

空中ブランコに果敢に挑む木戸佑カメラマン!結果は…=いずれも金沢市の石川県西部緑地公園で

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 金沢市で公演中の木下大サーカスを取材する本紙の男性カメラマン(27)が、サーカスの華、空中ブランコに挑んだ。3段脚立も怖いほど高所は苦手。だが、「カメラマンの仕事じゃないよ!」という泣き言はのみ込み、大勢の観客が見守る中、1人、地上13メートルの台に立った。(担当・木戸佑)

両手 空を切った…

でも 感謝つかんだ

 スポットライトに照らされた台の上。視線を遮る物は何もなく、抑え込んでいた怖さがよみがえる。飛び出したら誰も助けてはくれない。ブランコの棒は思いのほか重く、体勢を維持するだけでも一苦労。両足はかすかに震えていた。

 「はい、いいよ!」。背中から団員たちの声が掛かる。スムーズに飛び出したつもりが、ひざは崩れ、がに股のまま滑空。受け手役の団員中園栄一郎さん(42)の両腕が間近に迫り、勢いよく飛び付いた!…はずが、両手は空を切った。命綱につられ、ユラユラと揺れた。

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 観客席には「あー」という落胆の声が響いたらしいが、気分は不思議と満ち足りていた。ショーの合間に練習に付き合ってくれた団員たちへの感謝が胸によぎった。

 発端はショー本番の10日前。「空中ブランコの体験ルポを書いて」とポプレス編集長から告げられた。金沢公演の撮影を担当して2カ月。名古屋や奈良の公演も撮ってきた。遠目には軽々と芸を決める団員たちも、望遠レンズでのぞけば印象は一変する。力がこもって盛り上がる体中の筋肉。額から滴り落ちる汗。運動不足の素人の挑戦なんて…。「無理です」の4文字が頭に浮かんだ。

空中ブランコの台からの景色

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 その3日後、メールが届いた。「空中ブランコの出演日、決まったから」。逃げられないと観念した。翌晩、自宅で料理中に包丁で左手親指の付け根を切った。慌てて病院に駆け込み、3針縫った。待てよ、これなら空中ブランコはできないかも。医師はあっさり答えた。「まったく問題ない」

 「逃げたくて、わざと?」と上司や先輩は無情な言葉。うずく左手にテーピングを巻いて、練習のためサーカスを訪ねると、団員たちは「大丈夫?」と心配そう。気遣いが心に染みた。

 テント裏の練習場で高さ3メートルほどにあるブランコの棒にぶら下がると、さいわい傷は痛まない。ブランコから飛び出す動きを7回、8回と練習。「飛んでやろうとか考えずに。自然体で」と助言され、ブランコの揺れに身を任せようとリラックスを心掛けるが、両腕はだんだん力が入らなくなり、ジンジンと痛みだす。

フィナーレにちゃっかり参加

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 新人は空中ブランコの本番までに練習場で1年、本番と同じ高さで2カ月ほど練習を積むという。自分の挑戦の無謀さを思い知らされるが、団員たちは嫌がりもせずに何度も丁寧に手本を見せてくれる。本番で受け手となる中園さんは「うまくかみ合えば成功する可能性はある」。素人の挑戦もショーの一部。観客を楽しませたいという思いがにじんでいた。

 結局、本番は失敗。とぼとぼ戻った舞台裏では団員たちの笑顔が待っていた。「よく飛べましたね! 惜しかった!」。返事をしようにも、本番の恐怖と緊張で気持ち悪くなり「あ、あ、ありがとうございました」と絞り出すのがやっと。直後に立ったフィナーレも、顔は引きつっていたはず。もっと肝の据わった男になろうと猛省し、感謝を胸に、夢の舞台を後にした。

団員 固い支え合い

(上)ライオンの餌やりを体験(下)ライオンのステージが終わり、舞台を片付ける団員たち

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 来場者の誘導やライオンの餌やり、舞台セットの運搬も体験した。ショーに出る日本人の団員たちも合間には裏方作業に汗を流す。

 スタッフ用のジャンパーを着て、場内の案内に立つと、来場者から次々と質問。「子どもが座席下にお菓子を落としちゃった」との相談に戸惑っていると、釣りロープなどに出演する竹内玲奈さん(20)が「取れますよ」と即座に対応。座席に誘導するとき、竹内さんの手には小さなライト。暗いテントで来場者の足元を照らすため、自分で考えて持ち始めた。

 舞台裏では男性団員たちがセット運びに動き回る。空中ブランコなどに出演する大宮路(おおみやじ)逸希さん(21)は舞台裏に下がるたびに仕事着に着替えてスタンバイ。「舞台衣装4着に仕事着。日本で一番着替えてるんじゃないですか」と笑う。

 サーカスは危険と隣り合わせ。ライオンがほえたときの鋭い牙はフェンス越しでも怖い。猛獣ショーの準備時間は中休みの15分間だけ。観客の安全確保のため団員たちが金網を張り巡らしていく横で、ライオンが乗る数十キロもの台を、空中ブランコ志望の松葉健太さん(22)と2人がかりで運んだ。松葉さんは「出演する団員は命懸け。事故が絶対ないようにセットにも気を使います」と裏方作業に責任感を持つ。

 張り詰めた舞台裏。かと思えば、出演直前の団員たちは和やかに談笑し、緊張をほぐし合って、失敗の許されない舞台へと駆けだしていく。カメラのレンズを通して団員たちの表情を追ってきたが、魅力的な演技の裏にある団員同士の支え合いには焦点が合っていなかったと気づかされた。

 

 

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