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お刀女子 真剣に恋して

日本刀を鑑賞する女性たち=長野県軽井沢町で

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 日本刀にはまる女性たちがじわり増えている。2年前から女性だけの鑑賞会が各地で開かれ、美しい「刀剣男子」が登場するインターネットゲームも今年公開されるとヒット。福井市在住の漫画家は作品で魅力を発信し続ける。北陸のお刀女子らの案内で、刀の魅力に切り込んだ。

繊細な美に感動

 手にした真剣をライトで照らすと、刀身全体に細やかなすじ模様が浮かび上がる。鉄を何重にも折り返し、鍛えた跡だ。刃の白い波模様の境目を彩る「刃文」は、硬さの違う部分が強く輝く。立体的に見える繊細な美しさに心を奪われた。

 5月に長野県軽井沢町のギャラリーで金沢市の創作日本舞踊の流派が開いた日本刀や装飾品の鑑賞会。初めて刀に触れた女性らは「きれい」とつぶやいた。

刀のデザイン画や漫画、同人誌を紹介するかまたきみこさん=福井市で

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 「日本刀は直接、手に取って眺めるのが一番美しい」。福井市の漫画家かまたきみこさんは力を込める。美術館でガラスケース越しに見ただけでは似通って見える日本刀も手に持ち、光の当たる角度を変えると刀の肌に隠された千差万別の模様が現れる。柄やさやの装飾も、虫眼鏡がないと分からないほど細やかな技術がさえる。

 かまたさんは10年前、刀匠の家で育った男子高校生が主人公の漫画「KATANA」の連載を始め、取材で現代の刀匠らと交流。日本刀の魅力にはまった。

 「光に照らした刃文は、女性には美しいと映る」と確信し、2013年夏に岡山県瀬戸内市の備前長船刀剣博物館で「お刀女子会」を初開催。昨年12月には金沢市でも開いた。若手の刀匠らが日本刀について解説し、お茶菓子をつまみながら参加者が自由に話す時間も確保。後日の話題にしてもらおうと、日本刀を手にした写真を1人ずつ撮ってお土産にした。

漫画、ゲームが火付け役

 このお刀女子会をきっかけに、富山市の会社員東城スバルさん(29)=インターネットネーム=は日本刀のファンに。刀の先端や装飾の繊細な美しさにひかれ、「想像よりもずっしりと重かった。いろんな人の思いも乗っている気がした」と感動。刀の歴史も調べて楽しむようになった。

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 日本刀の魅力を女性に伝える際、かまたさんはドラマを大切にする。現代刀ならば制作にかける刀匠らの思い、古い刀なら人々にどう愛されてきたかに迫る。「時代劇などで日本刀は、武器の側面が強調されるけれど、昔の人は装飾を付け替えておしゃれを楽しみ、格式高い贈答品としても大事にしていた」と語る。

 漫画で描くのも刀と人間の絆のドラマだ。武士や獣の姿で表した刀の魂はときに暴走するが、理由をたどると欲深い人間に粗末に扱われたことなどに行き着く。手入れもされぬまま転売された嫁入り刀。強風から町を守る神事の刀。玄人好みのうんちくにはほとんど触れず、日本人の生活に根付いた日本刀のエピソードを膨らませて物語を紡ぐ。

 ホラー雑誌の編集者に頼まれ、一回きりのつもりで描いた漫画だったが、読者に好評。連載中に掲載誌や出版社が変わっても、女性ファンたちは作品を追い掛けてくれた。

デザイン自由 お守り刀

 単行本は13巻に及ぶが、ネタは尽きない。鉄の話、刀匠の話。平安時代から続く日本刀の歴史の中で、柄やさやには花鳥風月などあらゆる事物にちなんだ飾りが施されてきた。「刀にまつわる話は書き切れない。それだけ人とのつながりが深かったんでしょうね」

 3年前からは「鍛冶屋ふぁみりー」というサークル名で同人誌を発行。架空の刀鍛冶3姉妹のグラビアや、魔法少女が活躍する漫画で刀の魅力を発信する。鑑賞マナーを教える動画も作成。同人誌の制作仲間は昨秋、フェイスブックに「お刀女子倶楽部(くらぶ)」のページを作った。

 今年1月公開の名刀を擬人化した美少年の育成ゲーム「刀剣乱舞」は女性に人気。4月には名刀を美少女にしたゲーム「しんけん!!」も始まり、日本刀への注目は高まっている。

 かまたさんは今、自分用のお守り刀を注文している。さやなどは自らデザイン画を描き、飼っているウサギを盛り込んだ。長い刀なら100万円は下らなくても、花嫁衣装に付くような短刀ならば比較的安い。刀を身近に楽しむ人の増加を期待し、「持ち主を象徴するようなこしらえが増えたらいいな」と話す。

マロンケーキやビスケットの蒔絵が施されたお守り刀のさや=東京都港区白金台で

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 そんなお守り刀が東京・白金台の菓子店「ア・コテ パティスリー」にある。マロンケーキやビスケットの蒔絵(まきえ)が施された刃渡り16.1センチの短刀。常連客の刀匠の勧めで3年前に作った。「こんなに自由にデザインできるとは思わなかった。店内に飾っても違和感がない」と増沢正明シェフ(51)。刀の知識はほぼなかったが、お守り刀を手にして良さに気づいた。「まず単純にきれい。職人の努力や技術の高さも伝わり、それだけで見る価値があります」

女心つかめ 刀匠あの手この手

 年配の男性だけでなく、若い女性らも引き付けたい。全国の刀匠200人が所属する全日本刀匠会なども、新たなファンの拡大にあの手この手を工夫する。

 先駆けは2011年夏、備前長船刀剣博物館が開いた特別展。イケメン武将が活躍する人気ゲーム「戦国BASARA」にちなんだ刀剣を展示すると、20〜30代の女性ら2万人が殺到。1日の平均来館者数は例年の5倍を超えた。

 人気アニメ「エヴァンゲリオン」に登場する武器を刀匠が再現した企画展も全国を巡回。日本を象徴する刀とアニメのコラボレーションはフランスなどでも展示され、大勢の来場者でにぎわった。奈良県桜井市の刀匠月山(がっさん)一郎さん(35)は「いろんな角度から興味を持ってもらい、再注目されている実感はある」と語る。

 しかし、刀鍛冶で生計を立てるのは楽ではなく、20〜30代の後継者は少ない。日本刀作りの技術を後世に受け継ぐには、美術品としての刀自体の魅力を広めることが不可欠だ。

 全日本刀匠会は11月20日に東京・港区の八芳園で、刀匠たちが持ち寄った40〜50本の傑作を手に取れる鑑賞会を初めて企画。参加者を募集している。月山さんは初心者にも刀に触れてほしいと呼び掛ける。「手にしたとき『いいな』と感じる刀が、その人にとっての名刀なんです」

 日本刀の所持 日本刀を所持する場合は銃刀法に基づき、都道府県教育委員会への刀剣の登録が必要。登録は、美術品の価値がある日本刀であれば原則認められる。刀匠から購入する場合は、制作時に登録を終えているため、所有者変更の手続きだけが必要。

 担当・福岡範行

 

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