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日本酒を飲まぬ若者 酔っといで 石川の学生 新銘柄づくり

商品企画から仕込みまで担った新銘柄の新酒を手に笑顔の「N−project」のメンバー=金沢市で

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 冷やしても温めても良しと、四季折々の味わいがある日本酒。酒離れが進む若者には、どうもなじみが薄い気がする。石川県は能登杜氏(とうじ)のお膝元。酒どころの能登半島でオリジナルの酒造りに取り組んだ学生たちの活動から探った。若者が酔いしれる日本酒とは−。(担当・志村拓)

“脱おやじ感” 味と瓶に工夫

「甘み」「すっきり」追求

 白いすりガラスの瓶に、青いラベルが映える。口当たりと香りはすっきりさわやか。ほのかな甘みが喉元をすっと通り過ぎていく。

 石川県内の学生でつくる「N−project(エヌ プロジェクト)」が、同県能登町の数馬酒造と連携した新銘柄「Chikuha(ちくは) N」だ。若者が飲みやすいよう720ミリリットルの瓶で、価格は1620円。

 銘柄のNは日本酒、能登、農業、縁などの意味を込めた団体の頭文字から取った。昨年、学生たちは酒米の田植えから稲刈り、仕込み、商品企画まで一貫して担い、今年1月に完成。新酒1000本すべてに予約が入り、イタリアやシンガポールからも引き合いがあった。

 金沢と東京で開いた完成披露会には同世代が多く訪れ、「フルーツっぽい香りが良い」「アルコール臭くない」など、目指した通りの好反応。さらに手応えを感じたのは瓶などデザインへの意見だった。「今までのお酒の渋いパッケージと違い、すっきりとおしゃれでとっつきやすい」

蔵人(左)の指導で酒米と麹菌を混ぜる学生たち=石川県能登町の数馬酒造で

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 学生たちが営業した300本の大半は同年代が買い求め、女性が目立った。酒造りの先頭を走った能登町育ちの前代表又木実信さん(23)=金沢大大学院2年=は「女性のほうが日本酒に古くさい先入観がなく、身近に感じているのかも」と振り返る。

 酒造りへの挑戦は、金沢大や北陸大、金沢美術工芸大の学生ら11人で開始。又木さんは父親が同県珠洲市の酒蔵で働くが、農業に興味はあるけれど日本酒は苦手というメンバーもいる。「日本酒の知識は関係ない。お酒が仕上がるまで、やり切れる人に声を掛けた」

深刻「酒離れ」に待った

 若者の酒離れは進む。厚生労働省の2012年調査では20代男性の85%に飲酒の習慣がなく、国税庁によると日本酒の国内消費量は1975年前後のピーク時に比べて2013年度は581キロリットルと3分の1に落ち込む。

 若者の好みを探るため昨年夏、日本酒の好き嫌いや第一印象、不満な点などをインターネットで調査。お酒好きな20〜30代を中心に79人から回答を得た。それぞれ20人近くが好みに挙げた「甘い」と「すっきり」を味の土台とし、火入れを一切行わない生酒を造ることに決めた。

 若者と日本酒の距離の遠さも判明。15人が「味や新商品などの情報が入ってこない」と答え、9人は「パッケージが若者向きでない」。赤ちょうちんの下でスーツ姿のままちびちびとおちょこを傾ける−。そんなおじさんくさいイメージが根強かった。

 ブログで「奥能登の最年少蔵元社長」を名乗る数馬酒造の数馬嘉一郎社長(28)は「若者が日本酒から離れたのでなく、以前より近づく機会が減ったのではないか」とみる。

酒蔵に入って新酒を仕込む又木実信さん(右)=石川県能登町の数馬酒造で

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 酒蔵で生まれ育ったが、東京で過ごした大学生時代に飲んだ酒は「もっぱらビールやカクテル」。返す刀で「学生時代、日本酒を飲む機会ってありました?」と同い年の記者に逆質問。少し遠い記憶を呼び起こすと、大切だったのは質より量。ときに1杯1000円を超える日本酒の値段にも尻込みした。

 「日本酒は、若いうちは年上と飲むのが多いのでは。でも今は、上司らとの“飲みにケーション”もはやらない」と数馬社長。「能登なら日本酒はキリコ祭りに付き物だから、少し状況は違うけれどね」。なるほど、納得させられた。

 宴席に鎮座するのはおしなべて一升瓶。ラベルを見ると、銘柄は太筆で書かれている。そんな重厚な印象に習っては、若者の日本酒へのハードルを高めるばかり。そこでN−projectの新酒は720ミリリットル入りの瓶に決定。生酒の風味が変わらないうちに飲みきれる。企画会議では若者のお財布事情も考え、さらに小さいサイズを推す声も強かった。

試飲後「にやけ止まらず」

悪戦苦闘 乗り越えて

 石川県志賀町での酒米「五百万石」の収穫では人手が足りず、数馬酒造での仕込み作業では奥能登の雪道に苦労して遅刻するなど悪戦苦闘続き。それを乗り越え、完成させたお酒に又木さんは胸を張る。

 「年末に初しぼりの酒を飲んだとき、おいしくて、にやけが止まらなかった。能登の米の味がしっかり楽しめる仕上がりだと思う」

 「照れくさくて自分も実現していない」と話し、若者には親子の晩酌で飲むことを推薦。「危ないし、もったいないから、イッキ飲みだけはやめてね」と呼び掛ける。

 ◇ ◇ ◇

 学生の奮闘を酒造りの現場も注目する。能登杜氏組合長の中倉恒政さん(72)=珠洲市=は「酒蔵の本当の仕事は、もっと厳しい」とくぎを刺しつつ、「日本酒で晩酌をするお年寄りもどんどん減っている。若い目線で新しいイメージをつくり、発信してくれるのはありがたい」と話した。

参加メンバーに聞く マッチするおつまみは?

チョコやチーズ 意外な人気

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 ネットの調査では、日本酒への不満として「どんなつまみを準備したらいいか分からない」という悩みも目立った。お薦めの一品は何ですか? N−projectのメンバーらに聞いた。

 石川県立大3年の鶴貝采映(ことえ)さん(20)はチョコレートを挙げた。チョコの強い甘みと合わせると、お米のうま味が際立ち、「苦手だった日本酒をデザート感覚で飲めるようになった」。

 数馬社長は洋酒のお供のイメージが強いチーズを推薦。「日本酒の喉越しが苦手なチーズの後味を消してくれ、チーズの濃いうま味だけを引き出す」。濁り酒はブルーチーズ、純米酒はカマンベールチーズが合うという。

 刺し身の人気も根強い。酒蔵がある新潟県村上市出身の石田亜子さん(21)=北陸大4年=は「魚もお酒の飲み方も季節で変わり、組み合わせるのが楽しい」と笑顔。中国・浙江省出身の留学生周世杰(しゅうせいけつ)さん(21)も「寒ブリやタイにイカ。どれも最高」と断言する。ちなみに中華料理からの相方は模索中。「マーボー豆腐のような辛い料理と、日本酒の甘さが合いそう」

 学生たちはサトイモとタコの煮物や、とり野菜鍋など地元料理も猛プッシュ。2年目の活動では最高のおつまみ探しも大きなテーマだ。

 

 

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