トップ > 北陸中日新聞から > popress > 特集 > 記事

ここから本文

popresspopress【特集】
 

なっちゃん 幸せな357日間 染色体異常「18トリソミー」少女アルバム

読み返して「ここにいたんだ」

写真

 重い心臓病などを伴う染色体異常の「18トリソミー」で生まれた金沢市の上濃七芽(うえのなつめ)ちゃんは昨年、1歳を目前に亡くなった。アルバムに残る写真の大半は病院内で撮られたが、ほとんどは笑顔が輝く。七芽ちゃんと家族の記録は、困難に向き合い生きる幸せを伝えている。

母雅子さん作 ケア方法も記す

 アルバムのカバーは黄緑色の地にピンク色のドット柄。写真には「首筋もマッサージしてください。とっても気持ちいい顔するよ」などの文が添えられている。七芽ちゃんの母親、雅子さん(46)は「看護師さんがこの子を『かわいそう』と思わず、楽しい気持ちで接してほしかった」と明るい装丁のアルバムに込めた思いを語った。

 心臓の複数の弁がなく、生後すぐに呼吸器の管がつながれた七芽ちゃんは寝返りが打てず、母乳もチューブで少しずつ口に入れた。

 七芽ちゃんに少しでも快適に過ごしてほしいものの、忙しい看護師たちに医療ケア以外は気兼ねして頼みづらかった。かわいらしいアルバムを作ったら自然に読み、無理なく対応してもらえるんじゃないか−。生後4〜5カ月目から写真をまとめ、七芽ちゃんが困りやすいことや好きな遊び、マッサージを書き添えた。

 128ページに及んだ記録を見返し、雅子さんは「『なっちゃんはしんどかったのかな』とも思うけど、『ここにいたんだな』という気持ちもわき、抱っこしたくなる」と涙ぐんだ。

     ◇

 七芽ちゃんは結婚して2年後の44歳のときに授かった。妊娠検査薬が陽性になっても「閉経が近いからかな」と最初は半信半疑だったが、命が宿ったと知ると喜びがわいた。

 妊娠7カ月ごろ染色体異常が分かった。健診で羊水の減り具合が通常より少なかったため、詳しく調べ、医師から「9割は1年生きられない」と伝えられた。胎児で亡くなるケースもあり、インターネットで調べても希望を持てる情報は見つからなかった。

帝王切開で出産「みゃー、みゃー」

 それでも「なかったことにはしたくない。生きて会いたい」と思った。夫の邦彦さん(43)は「どんな子どもでもうちの子だから」と励ましてくれた。

 胎内で少しでも大きく育てようと、七芽ちゃんに「予定日を越えていいからね」と呼び掛けたが、七芽ちゃんの胸に水がたまり、予定より4週早い2013年6月14日、帝王切開で出産。間もなく「みゃー、みゃー」という産声と周囲の歓声が聞こえた。身長は36センチ、体重は1300グラム。小さかったが、かわいかった。鼻は高く、毛はふさふさして。わが子と対面し、自然と笑みがこぼれた。

 新生児集中治療室(NICU)に入り、しばらく点滴が続いた。母乳を飲み始めても、熱が出ると消化できず、点滴生活に逆戻りしてやせ細った。母乳の再開時期は悩んだが、次第に回復し、翌年2月には呼吸器の管を抜いた。医師は「ここまできたら退院を目指そう」。5月に外泊を一度試し、その月末に退院した。

 真新しい白木のベビーベッドで寝る七芽ちゃんを見ながら、上濃さん夫妻は夕飯の野菜の煮込みを食べ、幸せをかみしめた。七芽ちゃんが家にいたのは7日間。夜に急変し、再入院したが、息を引き取った。

悲しさの何倍も感謝の気持ちに

 治療の選択は、一つ一つが重かった。「もっとできることはあったのでは」と後悔もいっぱいあるが、判断はどれも一番いいタイミングだったとも思う。1年近く生きてくれたのは奇跡だったと感じている。「なっちゃんは生まれてからずっと鉄棒にぶら下がった状態。ぱっと手を放すかもしれなかった」

 葬儀を前に、雅子さんは七芽ちゃんと過ごした357日間を振り返って手紙を書いた。「なっちゃんがいなくなる悲しさの何倍も感謝の気持ちと、よくがんばったねという感動の気持ちで涙がこみ上げて来るのです。大切なものをたくさんもってきてくれてありがとう。またね。」

6月に金沢で写真展「話せる場に」

父邦彦さん「抱くの怖く」

 七芽ちゃんの写真は6月6〜7日に金沢市民芸術村(同市大和町)で開かれる「18トリソミーの子ども達写真展」に並ぶ。邦彦さんは、注目されにくい父親の本音をつづり、展示する。

 七芽ちゃんが生まれた日、邦彦さんはわが子を抱くのが怖かった。「何かあったら、すごく後悔すると思った」。たんの吸引をしたときは手が震えた。

 病気が分かったとき、まず心配したのは妻の体調。わが子への愛情も本心だが、妻と思いの差もあって「男性は女性より遅れて親になる」と感じた。

 そうした本音は、妻の心境を思うと打ち明けられず、周囲の人にも話せなかった。「気遣ってもらっても、どうしようもないことだから」。同じ18トリソミーの子を持つ親とも、なかなか出会えなかった。

 同じように誰にも本音を語れないままの人もいるだろうし、18トリソミーでない子の親でも共感する思いがあるかもしれない。写真展は、誰もが気兼ねなく話せる機会にしたいと願う。

 写真展を企画した市民グループ「Team18」によると、開催や写真出展を募ると反響が大きく、2014〜15年で14都府県16回の開催が決定。写真は100枚以上集まった。地方の会場ほど来場者の多さが目立ち、岸本太一代表(30)=茨城県つくば市=は「ネットワークをつくりたいと考える家族が多い」と受け止めている。

 写真展は入場無料。出産をテーマにした夫婦4組のドキュメンタリー映画「うまれる」の上映(有料)もある。詳細は「Team18石川」のウェブサイトへ。

18トリソミーって?

 18トリソミーは、18番染色体が通常より1本多い3本あり、21番染色体が3本あるダウン症と同じく染色体異常の一種。3500〜8500人に1人の割合で生まれるとされ、母親の年齢が高いほど、生まれやすい傾向がある。症状はさまざまだが呼吸困難や心臓病など重い障害を伴いやすい。

 生後1年の生存率は5〜10%とされ、発達の遅れもあり、「延命は子どもの生活の質を下げる」と判断して治療を避ける医療機関も多かった。

 一方、18トリソミーに詳しい信州大医学部付属病院の古庄知己准教授(46)は「人工呼吸や点滴などの標準的な治療で1年生存率は25%になる。30歳生きる例もある」と指摘。呼び掛けに反応するなどの進歩に喜び、「一日でも長く生きて」と望む親も多く、積極的な治療は広まりつつある。

 古庄准教授は「障害が重度でも子どもの人生があり、幸せがある。生活の様子を知り、人ごとと思わずに考えてほしい」と語った。

 担当・福岡範行

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索